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鶴姫と景虎の国盗り経営録 ──戦国の怪物たちを円卓に集めたら資本で世界を取りに行った件  作者: みなと
第3章 戦準備編  ~荒浜の奇跡と、戦国を変える技術革命~

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41 オークションで八万貫を集めたら、商人美少女が復讐を持ち込んできました

 直江津の「蔵田」の奥座敷に隣接した蔵。

 その中には、砂金の山と、明の永楽通宝の詰まった千両箱が山のように積まれている。

 蔵田殿(少女の方)は、少し年季は入っているが豪華なてんの毛皮を肩にかけ、その山を前にして静かに景虎へ頭を下げた。

 「景虎様……合計八万貫(九十六億円)です。これほどの軍資金があれば街道整備どころか、越後中の兵の兵糧を賄い、一気に信濃を制することも、御実城様にさらに数万の鉄砲を献上することも容易にございましょう。この資金、このままお預かりするわけにもいきません。どちらへ運びますか? 春日山の蔵にございますか?」

 俺は積み上げられた金貨を一瞥しただけで、ふるきに言った。

「少し話をしたい。すまんが、茶を出してくれるか」


 俺は奥座敷でふるきが淹れてくれた茶を頂く。一口啜り、静かに首を振った。

「あの金はただの軍資金にはしたくない」

 蔵田の手が止まる。

「は? 八万貫を……?」

 八万貫という天文学的な数字を軍資金にしないという俺の言葉に、蔵田の喉がヒクリと鳴った。

 この時代の常識で考えれば、この金があれば誰もが一生遊んで暮らせるし、隣国の一つや二つ、札束で叩き潰せるレベルの額だ。

「景虎様、正気ですか……? 春日山城の蔵に入れれば、上杉家は日の本一の軍隊を持てます。それを、どうなさるおつもりですか?」

 俺は肩をすくめた。

「流石に一銭も戦に使わないとは言えないがな。……蔵田殿。金ってのはな、貯め込んで眺めるためのコレクションじゃない。正しく回して、次の富を生むための燃料だし、身体を循環する血液みたいんものだ。これをただの兵糧に変えて消費したら、戦が終わればゼロになる。俺がやりたいのは、この金を燃料にして、富が湧き出す循環仕組をを作ることなんだ」

 現代の経済概念を浴びたふるきは、目を白黒させている。俺は畳の上に、指でざっくりとしたフローチャートを描いて見せた。

「兵を雇えば、戦が終われば何も残らん。だが、この金で海運を整え、港を直し、新型の船を造ればどうなる? 流通が加速し、富がさらなる富を呼ぶ。その上がった利益で兵を養えば、国は延々と生み出す富を元手に勝手に強くなるだろ?」

「……そんな考え方、聞いたこともありません。あなたは何処でそのような考えを……」

 蔵田の瞳に、恐怖と、それ以上の好奇心が宿る。

 俺は笑って、本題を切り出した。

「そういう仕組み作りを手伝ってほしいんだ。……ところで、そのてんの毛皮。越後のもんじゃないな。……お前の故郷、本当はどこだ?」

 少女の肩が、ビクンと跳ねた。

「……越後でございます」

「今はそうだろうが、元は違うのだろう?」

 彼女は苦しそうに語った。

「大方の調べはついているのでしょうが、雇い主に隠し事は良くないですね。私の生れは能登の外れ。福良津ふくらつというかつて港だったところです。一族は漁業と交易をしておりました。私の名は、ふるき、と申します」

「大陸とか?」

 ふるきは無言で頷く。

「そうか。どのような経緯があったのか、話して貰えるか?」

 ふるきは、そこからは割り切って、まるで他人事のように話し始めた。


「私の故郷は……」

 語られたのは、一向宗に能登の故郷を焼かれ、交易の利権を奪われた少女の、あまりに重すぎる過去だった。

 彼女の一族、海東家が守ってきた能登の港・福良津ふくらつ。そこを奪還することこそが、彼女の、そして蔵田の真の目的であった。あの五郎左衛門名乗っていた老人は、定吉というのが本名で、海東家に代々使える商人とのことで、青苧(あおそ)の利益で奪還軍資金を稼いでいたとのことだ。

「……なるほどな。重い。だが」

「……景虎様?」

 俺は彼女をまっすぐに見つめた。

「……あの福良津か。どうやら、ふるきの復讐を俺は手伝った方が良さそうだ」

「興味本位や憐れみで言うのであればここまでにしてください。……そもそもどうやって、復讐を成就させるというのですか。福良津はここから遠く離れ、いまだに一向宗の支配下です。だいたい、なぜ助力を申し出るのかを教えて頂けませんか」

(なるほど、この娘も一筋縄ではいかない賢い娘だ)

「理由はいくつかある。まず、上杉家は早晩、一向宗とは全面対決になる。その時に福良津は良い中継点になり得る」

 この説明にはふるきは特に反応しない。それはそうだろう、上杉が一向宗と反目し合うようでなければ、身を寄せなかったであろう。

 「次に、俺は日本海の開運を味方につけたい」

 「支配したい、の間違いではありませんか?」

 「ある意味正しい。だが、独占したいのではない。むしろ自由に航行して誰ので開かれた海運にしてみたい。俺が気にしているのは、異国に対抗する海運力を手に入れられるかという点だ」

 「……」

 「それを実現する為には、直江津に至るまでにいくつかの港が必要になる。能登半島の西岸は、その施策にうってつけの地だ」

 「中継港ですか」

 「そして最後に、再び日の本の民が、自由に異国と交易が出来る世の中にしたいからだ」

 「それは、なぜですか」

 「そうすることで、異国の文化・技術を取り入れて、日の本の国自体が豊かになっていくと考えているからだ。どうだろう。そこまで行かなくても、十分に再投資のテーマとして考えるべき内容だと思わないか?」

 しばらくの間、ふるきは目を瞑って考え込んでいた。おそらく、俺の話に何か裏がないかを考えていたのだろう。やがて眼を開けると、俺をまっすぐ見た。

 「わかりました。今の話が全て嘘で、上杉が越中を攻める間の陽動作戦を仕立て上げる為に福良津を見立てただけだとしても、私は景虎様の話をお聞きしたいと思います。どのように復讐を手伝っていただけるのか、どうぞ教えてください」

 ふるきは、毒を食らわば皿までと言わんばかりの顔で、深く頷いた。

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