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鶴姫と景虎の国盗り経営録 ──戦国の怪物たちを円卓に集めたら資本で世界を取りに行った件  作者: みなと
第3章 戦準備編  ~荒浜の奇跡と、戦国を変える技術革命~

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40 バブルを起こしたら、直江が本気で詐欺扱いしてきました

 春日山の城下にある巨大な蔵。そこは今、越後中、更には隣国からも集まった豪商たちの熱気に包まれていた。

 壇上では、俺が指示した「木製の競り木槌」を蔵田殿(爺さんの方)が叩き、声を張り上げる。

 カンカン!

「――さあ、次は最大の目玉だ! 沼田街道・第三宿場、角地の飲食店・宿泊の独占権! 開始価格は……千貫(一億二千万円)!」

 商人たちがどよめく。あまりに強気な価格設定。

「高すぎる!」「まだ道すら通っていない場所に、誰がそんな――」

 その時、会場の隅で、派手な着物を着流したいかにも成金風の男が、不敵に笑いながら手を挙げた。

「千五百貫だ。安すぎるぜ、そんな額じゃあよ!」

 この男、実は俺の指示で変装した前島である。

「なっ、千五百貫だと!?」

 商人たちの色めきに、蔵田屋がさらに追い打ちをかける。

「おやおや、お目が高い! ここには上杉軍の主力部隊が必ず宿泊します。つまり、軍御用の酒と飯……その利益、計り知れませんぞ!」

「千六百貫だ!」別の商人が叫ぶ。

「千八百貫!」また別の声。

 会場次第に、理性を失った熱狂バブルに包み込まれた。俺は二階の桟敷席から、その様子を蔵田殿(少女の方)と冷めた目で見下ろしていた。

「……前島の奴、ノリノリだな。サクラの才能がある」

「うちの爺も、あれは楽しんでおりますね。年甲斐もなく扇動者のようでお恥ずかしい。ですが景虎様、少し釣り上げすぎでは? 暴動が起きるかもしれませんわ」

 隣で蔵田殿が、面白そうに扇で口元を隠す。

「いいんだよ。これは土地の切り売りじゃない。上杉が未来の繁栄を保証しているという世論操作なのだから」

「しかし、これは酷い。皆、欲に飲み込まれています」

「これから、この結果を差配してもらうからな。やりがいがあるだろう。蔵田殿」

 結局、その土地に権利は当初の予想の三倍、三千貫(三億六千万円)で落札された。


 競りの熱気が冷めやらぬ夜。景虎の執務室に、足音も荒く家臣たちが踏み込んできた。上杉家の頭脳と称される男、直江信綱だ。その後ろには、帳簿を抱えた侍従たちがズラリと並んでいる。

 

「景虎殿。公儀の場を借りたあのような詐欺まがいの集金、断じて看過できませぬ!」

 直江は、俺が発行した奉納手形を机に叩きつけた。

「実体のない未来を売って銭を奪う……これは領民への収奪だ。すべて没収し、御実城様へ進言いたします!」

(来たな、上杉家きっての堅物中間管理職。まあ、そう言うと思ってたよ)

 俺は、直江の鋭い視線を受け流しながら、一通の書類を差し出した。

「直江殿。進言は結構ですが、まずはこれをご覧ください。今後五年間の、上杉軍の行軍費用の試算表です」

「……何ですか、これは」

 直江が表を覗き込む。そこには、新しい街道が無い場合と出来た場合の、兵糧の輸送コスト削減、および行軍日数の短縮が、緻密な計算と図で示されていた。

「直江殿であれば、これまでに関東への行軍にどれだけの資源を用いたかわかっているはず。その実績を元に試算すると、今後の支出量は自ずとわかってきます」

「……これは机上の空論だ、現地調達すれば」

「出来ますか? 特に上野の地侍たちの状況で。それで下野、常陸へと軍を維持出来ますか?」

「くっ……」

「今のボロボロの道では、兵を動かすだけで我が家の家計が火の車だ。とても関東進行など継続出来ない。まして信濃進行など画餅だ。だが、この街道ができれば、軍事費は、低く見積もっても三割は削減できる試算だ」

「……軍は商いではない」

「これは異なことを。では、義で動かれるお館様は「手柄は足にあり」の言葉を如何されるか。春日山から北の柏崎まで北上し、柏崎からは東に小千谷、魚沼へ、そこから南へ湯沢を通って谷川岳を避けて上野に入る。合計四十五里(約180km)。これを遅くても五日で移動出来るようになる。しかも雪が振ってもです。脅威的だと思いませんか」

 直江たちは黙ってしまった。頭が良いので、いちいち内容に納得せざるをえないでいる。

「ぐっ……。だが、そのための銭を、商人の射幸心を煽って集めるとは!」

「煽っていません。投資させているのです。商人は銭を出し、道を作り、道が富を生み、その富がまた上杉を潤す。これは収奪ではなく、富の循環です」

 直江たちは完全に黙ってしまった。そこで俺は思い出した事を話す。

「そうそう。小千谷おじやに宿場町が出来ていくのですが、どうもこの地で中核となる施設を皆様が遠慮されましてね。しかし、ここは越後のほぼ中央部、ここに多くの物流が予定されるのですが、然るべき信頼出来る方にお任せしたいが困っていたのでいのす」

「何が言いたいのです」

 俺は立ち上がり、直江の懐に「特別な手形」を滑り込ませた。

「そういえば直江殿の所領、坂戸城は小千谷から北に七里(28km)の場所でしたな。何か騒動が起きたとき、半日で駆けつけることが出来る立地。どうか、小千谷の施設設営と運営、お願い出来ませんか? この街道に重要拠点を貴方の管轄下で、貴方の有能な部下たちと運営し、大いに発展させて頂きたい」

(お前の所領は街道から外れている。このままでは街道発展の恩恵受けられない。だからお前らも儲けて一緒にハッピーになろうぜ)

「なっ……私を、買収しようというのか!」

 直江がいきり立つが、俺は直江の肩に手をかけて語る。

「いいえ。貴方の誠実さを、さらに上位の大義に昇華してくれるようお願いしているのです。……共に、越後を日ノ本一の経済大国にしませんか?」

 直江は手形を見つめたまま、しばし動かなかった。

(……認めたくない。こんな若造のやり方など)

 だが、脳裏に浮かぶのは、これまでの行軍で疲弊した兵たちの姿。雪に阻まれ、泥に足を取られ、何度も無駄に消えた兵糧。

(……もし、本当にこの道が出来るなら)

 直江は苦々しく唇を噛み、苦々しく、しかし確実にその手形を懐に収めた。

「……景虎殿。監査を行い、御実城様に報告致しますが……不備がなければ、通しましょう。私は、越後のために動く。それだけは誤解なきよう」

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