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鶴姫と景虎の国盗り経営録 ──戦国の怪物たちを円卓に集めたら資本で世界を取りに行った件  作者: みなと
第3章 戦準備編  ~荒浜の奇跡と、戦国を変える技術革命~

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39/61

39 蔵田屋の正体を暴いたら、商人美少女が出てきました

 蔵田から、デモンストレーションの翌日の夕方、蔵田屋の屋敷で食事をしながら話したいと連絡がきた。

 俺は指定の時間に蔵田の屋敷に着くよう、春日山から直江津に向かう。

「中西、いるか?」

「……はい、ここに」

「蔵田殿に限って俺を討つことは無いと思うが、周りはそうとも限らない。今からの会談内容は極秘だ。周囲に気を配ってくれると有難い」

「……既に手下を配備しております」

 俺は仕事出来る中西に感謝しながら、直江津の市街へと足を進めた。


「貴方とは、一度ゆっくり話したいと思っていました」

 夏の夕闇の中、鹿威しの音が庭に響き、空には月が昇ってきた。俺は蔵田からの酒を杯に注いでもらいながら応える。

「こちらこそ、先日はお叱り頂きありがとうございました。おかげでやりたかったことを先に進めることが出来ました」

(こいつが門前払いした、という噂が、俺を取るに足らない者という印象を周囲に植え付けてくれた。有難いことだ)

 俺が笑みを浮かべて、今度は蔵田に酒を注ぐ。

「……その顔が、本来の景虎様ですかな。昨日の破岩杭の実演。度肝を抜きました」

「蔵田殿のおかげですよ。荒浜に注意を向けられず、開発に集中出来ました」

「荒浜と言えば、先日の依頼。魚の骨や内臓、木炭を買い付けたい、しかも定期的に。確かに直江津の美化に貢献しましたが……それらは何に使っているのです? まさか奇術ではありますまい」

「ご存じの通り、有機栽培の肥料作りですよ」

「……利器の開発を秘匿にするためで、そんなに大々的に行うものですか?しかも大きな鉄鍋を何個も作らせたとか」

「特殊製法なのです。だから、結果として、このようなものも出来る」

 そう言って、俺は横から小さな箱を手渡した。

「開けてみても?」

「勿論。気に入って頂ければ差し上げましょう」

 蔵田は訝しみながら箱を開ける。油の火を頼りに中身を確認し、手で触り、愕然とする。

「……!!これは、硝石!」

「蔵田五郎左衛門、あまり火に近づけないほうがよい。火とは相性がよいので」

「まさか、これをどうやって手に入れたので」

「先程申し上げた通り、有機肥料の製造過程で生み出したのです。さて、そろそろ本音で語りましょうか、蔵田殿」

 そう言って、俺は隣の部屋に声をかける。

「景虎様、五郎左衛門は私ですが」

 そこで俺は杯を置いて話す。

「そろそろ本人が出てこい。ここからは商いの話だぞ」

「……!」

 蔵田は脂汗を流して黙る。

 やがて、隣の部屋とのふすまが開いた。そこには俺と同い年くらいの利発そうな少女が座っていた。

「お初にお目にかかります。蔵田五郎左衛門にございます」

「上杉三郎景虎です」

 俺も続けて会釈する。

「景虎様、いつからお気づきになっていましたか」

「初めての面談の時。この老人は途中で立ち上がり、我々に背を向けた。あの動作は拒絶の意思表示にも見えるが、商人とはいえ、武器を持った者を相手に背を向けるのは、些か不自然に思えた。それで動作を観察していたが、手の動きが、何かの合図に思えた。そして、その後の言動の静かさ。何か指示を受けたと考えた」

「それだけでわかるものですか?」

「流石にそれだけではわからない。しかし、疑問に思ったのならそこは確認をする。知っての通り、正室の伊保野は越後の目と耳を持つし、側室の鶴は耳がよい。そこから確証を得るのは難しくはなかった。蔵田殿はほとんどの者にこのことは知らせていないのだろう。だから、今日は俺だけで来た」

 少女は嬉しそうに扇を広げた。

「素晴らしい。やはりこれまでの姿は擬態でしたか。爺、もう下がって良い。ここからは私がお相手致しましょう」

「しかし……」

「私は同じ事を二度言いたくない」

「はい……」

 爺と言われた男は退出していく。その後ろ姿に「私にも酒と肴を用意して」と追い打ちをかける。


 再びの静寂。庭で鹿威しが鳴った。

「さて、景虎様。既に破岩杭というとんでもない成果をお見せ頂きました。銭の相談と仰っていたとのことですが、如何ほどご入用ですか? 五千貫でしょうか、一万貫でしょうか」

「五万貫(六十億円)」

「……」

 少女は無表情になる。

「越後中から掻き集めても、そのような銭はないでしょう」 

「いや、策がある。これを見て頂きたい」

 俺は、困惑する少女の前に、一枚の「紙切れ」を差し出した。

「……景虎様。これは何ですか? 護符ですか?」

 少女が怪訝そうに、俺が制作した『越後街道奉納手形』を指で弾く。

「いいえ。それは未来の通行料を今に凝縮した証書です。蔵田五郎左衛門、街道を作る銭がないなら、銭は作ればいいのです。……このように、紙に刷ることで作ります」

 俺は、上野と越後の地図の上に指を走らせた。

「この紙を買った商人は、街道が完成した後、十年間の通行料がタダになります。さらに、多くの協賛を頂くことで、宿場町の一等地に店を構える権利も得られます。上杉家はこの紙の価値を、保証致します」

「……つまり、御実城様に『嘘をつけ』と言うのですか? まだ出来てもいない道の通行証を売ると」

 少女の瞳が鋭くなる。

「嘘ではありません。『必ず成し遂げるという意志』を換金するのです。義父上が『この道は成る』と言えば、道は成る。……毘沙門天に誓って成ると言った言葉は金塊よりも重い。そうでしょう?」

 俺の笑みに少女は押し黙った。

「更に、軍役奉仕と違って、平和と産業振興への協賛なのです。きっと、こぞって参加頂けると思いますよ」

  

 俺が計画を話し終わると、少女はうっすらと額に汗をかいていた。

「景虎様……。これは、あまりに危ういです。万が一、街道が未完成に終われば、蔵田屋の信用は地に落ちます」

「五郎左衛門殿。商売に危険は付き物でしょう?」

 黙る少女の前で、もう一箱の硝石と菜種油を取り出す。

「荒浜で採れたこれらの製品。これが、街道の完成によって迅速に運搬出来るようになる。上野を起点に関東に物資を潤沢に送れる。人も、そして勿論、軍も」

 俺は声を潜め、獲物を追い詰めるように囁いた。

「この手形の販売、および街道周辺の商業利権の差配……すべてを蔵田屋に委託したい。貴方は、ただの商人から『上杉の財務責任者』へと成り上がるんだ。どうする? 降りるなら、隣町の商人を呼ぶだけだが」

「……っ。……承知いたしました。この蔵田屋、全財産と全ての交流、情報を投じ、この権利を越後中に売り捌いてみせましょう」


 蔵田とに会談の帰り道。

「中西、いるか」

「はい、ここに」

「お前は蔵田五郎左衛門の正体はあの少女だと知っていたのか」

「さて。……蔵田殿は、怯えておりましたな」 

「そうか? 真面目に公共事業の資金調達ファイナンスを考えていただけなんだがな」

 中西がクスリと笑った。

「……蔵田屋への委託。表向きは信頼ですが、裏では『不祥事があれば一族郎党消す』という脅しを込めてましたね」

 いつになく中西は饒舌だった。

「なんだ、中西。お前はそんなに喋るのか」

「今日は少し、嬉しいのです。御実城様の認めた景虎様がいよいよ動き出すのが見れそうで」

 俺は夜風を吸い込みながら、静かに笑った。

「……戦で勝つ必要なんてない。勝つ前に勝っておけばいい。敵が刀を抜く前に、足場を奪い、補給を断ち、判断を誤らせる。気づいた時には詰んでいる。それが一番効率がいいんだよ。その原資を、まずは山のような財をみせてやるよ」

本日もお読み頂きありがとうございました!

ついに三人目のヒロインが登場し、戦国クラファン(国債)の仕込みを始めました。


次回明日20時は、

「バブルを起こしたら、直江が本気で詐欺扱いしてきました」

です。お楽しみに!


お陰様でランキング急上昇中です。

続きが気になると思っておけましたら、

画面下の【ブックマーク】や【評価の⭐(☆☆☆☆☆)】を押して、景虎の軍資金ポイントを応援していただけると凄く励みになります。


それでは明日もお楽しみに。

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