36 岩を割ったら終わりだと思うなよ? 次は連射銃だ(700丁)
昨日の不動岩の回、たくさん読んでいただきありがとうございました
「不動岩」が真っ二つに裂け、土煙が収まっていく。重臣たちが腰を抜かし、輝虎がその破壊力に目を見開いている中、俺は煤で真っ黒になった弥次兵衛の元へ歩み寄った。
「見事だ、弥次兵衛。これで街道整備が実現出来る。……さて、荒浜に帰って、次のことを始めようじゃないか」
「……若様。その不敵な笑み、ろくな予感がせぇへんのですが」
弥次兵衛が顔を拭いながら、警戒を露わにする。隣で柚子が「お父ちゃん、諦め。若様の目は、もう次の獲物を見てるわ」と呆れ顔で笑った。
俺は周囲に聞こえないよう、弥次兵衛、権左、助蔵の三人を呼び寄せた。
「いいか。破岩杭で『回転』と『衝撃』の理論は証明された。次は、これを人が一人で持ち運べる大きさにするんだ」
「持ち運ぶ?…… 若様、まさか火縄銃にそれを?」
助蔵が目を丸くする。俺は懐から、ニ通の図面を取り出した。
「そうだ。火縄銃と、短筒だ」
「また無茶なことを」
俺は無視して条件を伝える。
「一つ、全天候型であること。 火縄を毎度つけるのではなく、火打ち石か、あるいは権左、お前が研究していた衝撃で発火する薬(雷汞の雛形)を使おう」
「二つ、連射可能であること。 銃身を束ねるか、回転させるか(リボルバー構造)、とにかく一発撃って終わりなんて勿体ないことは終わりにしよう。これが出来れば、一丁の銃の価値が三丁分にも五丁分にもなっていくんだ」
「三つ目。直進性、これが肝心だ。弥次兵衛、お前の得意な『施条』を全ての銃身に刻むんだ。弾丸も丸玉じゃない、尖った椎実型(ミニエー弾)にするんだ」
三人は絶句した。当時の常識では、雨が降れば鉄砲はただの杖だ。連射など夢のまた夢。ましてや、螺旋の溝を掘った銃身から尖った弾を飛ばすなど、狂気の沙汰だ。
「……若様。それ、戦の景色が全部書き換わってまうで」
弥次兵衛が呟く。
「ああ、そうだ。雨の中でも、百間(約180m)先の敵の眉間を、三連続で撃ち抜く。そんな素敵な相棒(銃)を俺は作りたい」
権左が火傷の残る顔を歪めた。口元が少し笑っている。
「……面白い。グレイン化した強力な火薬を、雨に濡れないよう金属の筒(薬莢の概念)に詰め込むってわけか。やってやる」
「助蔵、お前は銃身の強度だ。ライフリングの摩擦に耐え、連射の熱で曲がらない鋼を、燕三条の連中と練り上げろ」
「へっ、びた銭作りより千倍マシっすね。歴史に名を刻んでやりますよ」
俺は、最後に弥次兵衛の肩を強く叩いた。
「弥次兵衛。お前が堺で追われたのは、時代が追いついていなかったからだ。だがここでは違う。俺が、お前の技術が世界一であることを世の中に分からせてやる」
「…………。若様、ほんまに人使いが荒いわ」
弥次兵衛はそう毒づきながらも、その瞳にはかつてない程の熱い火が灯っていた。
「冬迄に完成させろ。そして、春迄に量産しろ」
「若様、何丁必要で?」
「七百丁」
「……」
そのあまりの無理難題に皆が沈黙する。
「……銭は大丈夫ですかい?」
「ああ。これから唸るほどの金が入ってくる」
「……よっしゃ、腹くくったわ。すぐ荒浜戻んぞ。冬までに仕上げるさかいな!」
「「「おおっ!!」」」
技術者たちの掛け声が、海風にかき消されていった。
春日山城
直江景綱と山吉豊守を前に、破岩杭の大量生産の依頼を始める。
「そういうわけで、破岩杭は、山吉殿にお任せ致したい。こちらが、その設計書と解析結果です」
「……このような大事なもの、私に預けて良いのですか?」
「勿論。山吉殿は無闇に流布したりしないでしょうし、防諜も徹底されるでしょうから。それに、街道整備には早期に複数台を稼働させる必要があります」
「……ふむ」
山吉は設計書をめくっていく。
「私は職人ではないのですが、そんな私でも出来る方法に見える。これは流布されたら、あっという間に模倣されるでしょうな。防諜を徹底させましょう。ただ……」
そこで山吉は腕を組んで考え込んでしまう。
「ただ、この製造方法は分業制?ですか。これはうちの職人たちが望まないかと」
「それでしたら、俺が小机から連れてきた工程管理の責任者たちを派遣しましょう。彼らは小机で、初めに菜種の搾油機の規格化と量産化に成功した者たちです。嬉々として取り組むでしょう」
「そういうことなら、熟練の職人でなくても良い、と?」
「工程によってはお願いするかもしれませんが、そういう工程もあると思います」
暫く考え込んだ山吉は、最後にこう答えた。
「最善を尽くしましょう」
「おお、ありがとうございます」
俺は頭を下げてお願いした。
「しかし」
そこで直江が話し出す。
「何台必要になりますか? 銭もかかるでしょう」
俺は試算していた台数を答える。
「お館様がお求めの街道整備の為ですと、まずは百台は必要になりましょう。試作機の製造に五百貫(約六千万円)かかりました。同じ量の銭をかけるわけにいきませんが、材料費込みで一台五十貫はかかるでしょう」
「……火縄銃一丁で八貫から十貫かかるのにその五倍以上とは。それが百台で五千貫(約六億円)ですか。そのような銭の工面は無茶だ」
「いえ。銭は、まもなく工面致します。それがお館様と俺の約定ですので」
「……何を企んでます?」
直江が疑わしく俺を見る。
「まもなく、商人たちが喜んで出してくれるようになります。暫しお待ちを」
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
不動岩で実績を示したことで、ここから資金繰りと連射銃計画が一気に動き出します。
続きを楽しみにしていただけたら、ブックマークで応援していただけると励みになります。




