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鶴姫と景虎の国盗り経営録 ──戦国の怪物たちを円卓に集めたら資本で世界を取りに行った件  作者: みなと
第2章 越後の景虎編  ~軍神の養子として、第二の人生が始まる~

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33/62

33 荒浜で頑張ったご褒美が、街道整備の資金繰りというお仕事でした

 直江信綱が発言を求める。

「景虎殿。とてもよく出来た話ですが。私が受けた報告とは些か異なるように思えます。確認致したい」

「なんなりと」

「景虎殿が菜種栽培を始めた後、名主を中心に、海神の祟りがあると陳情があった筈。これはどのようなことであったか」

(こいつが扇動していたか。直江は顕景の擁立派だったな。)

「流石は直江殿。よくご存じで。武田の手の者による扇動でした。伊保野様を中心に、領民には「丁寧に」説明した結果、今では動揺も静まりました」 

(給金が出る仕事を提供すること、菜種が育ち始めたのを見たことで、今では誰も祟りの話などしていないよ) 

「……それは何より」

 直江が表情を硬くして黙る。

 続けて、柿崎景家が問いかける。

「これまでの手腕、見事でしたな。それで、今後はどうされたい」

「はい。私としては、折角、栽培の目処がつきましたし、今回の武田の謀略に対して共に取り組んだ前島殿、そして宇佐美の遺児たちと、この地の振興を行いたいと考えます」

「それは引き継ぎ、顕景様の手を借りてのことか。景虎殿、貴方の報告はいずれも他力による成果ではないか」

山浦景国が苦々しく発言する。

「控えよ、源五」

 そこに顕景が発言する。

「……顕景様、私は」

「控えよ。この場は荒浜の顛末の報告と今後の協議のためだ。それに、一連の顛末を指揮したのは紛れもなく義兄上だ」

 この言葉に家臣たちが静まる。これまで黙って聞いていた輝虎が発言する。

「景虎。荒浜を慰撫し、菜種栽培から領民に希望を与え、武田の謀略から守った。顕景も伊保野もよう景虎を助けてくれた。景虎が上杉の一員となれたこと、喜ばしく思う」

 そして、輝虎は俺に命じた。

「景虎。お前は上杉の者として立派に動いた。琵琶島一帯の統治、前島と共に励むがよい」

「ありがとうございます」

 これで今回の顛末は完了した。そう思っていたところで、顕景が発言を求めた。

「お館様。お願いしたい事があります」

「顕景、申せ」

「私はこの数カ月、義兄上の行動を見て聞いてまいりました。義兄上は、私に清濁を飲み込めと言われた。それを、私なりに実践致したいのです。お館様、私に働き場をお与えください。どのようなことでも厭わず取り組みます」

 この発言に山浦景国が驚く。これまで武力に寄っていた顕景が統治に関わりたいと願い出たのだ。

 景虎は顕景の成長に内心大きく喜んだ。

「そうか。顕景、そう考えるか。では、上田長尾から上野の沼田迄、街道整備の指揮をとれ」

 この指示に直江が難色を示す。

「今の街道では問題でしょうか」

 輝虎は間髪入れずに答える。

「問題だな。今のままでは道幅も狭いし湾曲しているので行軍期間も長く、何より冬は行軍出来ん」

「その、整備を行うとなると、莫大な銭と時間がかかりますぞ」

 そこで輝虎は俺をみる。

「銭は。景虎」

「はい」

「献策せよ」

「畏まりました。暫し、お時間をください」

「うむ。では、この件は以上とする。景虎、顕景。久しぶりに共に夕餉をとろう。あとで参れ」


「で。あの場は美談としたが、何とする。説明せい、景虎」

 俺と顕景が夕餉に伺うと、既に輝虎は酒を飲んでいた。

「儂に頼れと言ったがな。あの場で儂が糾弾したら何とした」

 そう言いながら、俺と顕景に酒を注ぐ。俺は有難く頂戴してから答えた。 

「琵琶島は、物流の要です。不義を正すために前島を斬るのも良いのですが、それでは『次の前島』が生まれるだけ。……義父上。一つ、問答にお付き合いいただけますか? 人は、生まれながらにしてピュアでしょうか。それともクズでしょうか?」

「ほう、面白いことを。……人は、善だ。少なくとも、この毘沙門天が加護する世界において、人はみな仏性を宿して生まれてくる」

輝虎公は杯を傾け、続ける。

「だが、この乱世が毒なのだ。毒に当てられれば、清らかな心も濁る。儂が剣を振るうのは、その泥を削ぎ落とし、本来の『輝き』を取り戻させるためだ」

 重い沈黙を破ったのは、顕景だった。

「……義父上は理想が過ぎます。俺には、人は放っておけば楽な方へ流れる、弱き生き物にしか見えません。嘘をつき、利を優先する。だからこそ、我ら上杉には『義』という名の重い法が必要なのです」

「お前らしいな、顕景」

輝虎公が頷く。そして、俺を見た。

「それで、お前はどう答える?」

俺は杯を空にし、答えた。

「私も、善を前提とした『性弱説』です。人は弱い。だからこそ、その弱さに付け込ませる『状況』を消さなくてはならない」

「どういう意味だ、義兄上?」

「前島は、弱かったから武田に付け込まれた。ならば、付け込まれる要素を潰し、救った恩と成功体験で、武田に傾くことをバカバカしいと思えるようにする。……そうやって、琵琶島を巨大な更生施設にしてしまうのだよ」

 俺は水を飲み、最後に付け加えた。

「領民が豊かになり、感謝する忠臣が生まれるようになる仕組みを作る。それが、義父上の言う『人の輝き』を取り戻すための、俺なりの答えです」

 

長い沈黙のあと、輝虎は俺に問いかけた。

「元々の話を確認しよう。蔵田たちは説得出来そうか」

「まもなく、道具が完成しそうです。それを待って交渉に入ります」

 「本当に、硝石は採れるのだな」

 「はい。すでに生産方法は実証済みです。数カ月のうちには、まとまった量を用意できます」

 「わかった。街道整備の銭の件、引き続き任せる。前島たちの更生の件、民を慰撫して産業を振興する件、いずれも義の道を目指しているといえるであろう。やってみよ。それから、硝石は来年の春迄に間には用意しろ。使うことになるだろう」

 「ありがとうございます」

 「方法は任せるがな、次は弥次兵衛とやらのことも、硝石のことも話せ」

「……はい」

「月に一度は春日山に顔を出せ」

「畏まりました」

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