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鶴姫と景虎の国盗り経営録 ──戦国の怪物たちを円卓に集めたら資本で世界を取りに行った件  作者: みなと
第2章 越後の景虎編  ~軍神の養子として、第二の人生が始まる~

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32 裏切り者も遺児も全部まとめて救ったら、義弟が俺を認め始めました

 荒浜の夜が明け、水平線から鈍色の朝日が昇り始めた。

 俺は、伊保野と顕景に弥次兵衛のことを話した。場所は、荒浜を一望できる小高い丘の上だ。

「……前島殿だけでなく、宇佐美の遺児たち、そして弥次兵衛まで。皆、許すというのですか? 武田への内通、栽培の妨害、そして今度は織田への内通。どれも断罪に値するもの」

 顕景の言葉は硬い。その瞳には、裏切りを許せぬ純粋な怒りが宿っていた。

「弟の言う通りですわ。それが一晩で皆の態度の変わりよう」

 伊保野もまた、探るような視線を俺に向けてくる。

「裏切り者はまた裏切るものです。義に背いた者を信じ、国の根幹を任せるなど、俺には到底……」

 顕景が拳を握りしめる。彼の義が激しく葛藤していた。

 俺は顕景の肩に手を置いた。

「顕景、清濁を飲み込め」

「……!」

「一度の裏切り、一度の過ちで人をすべて裁いていたら、この乱世、俺たちの周りには誰もいなくなる。前島も、宇佐美の遺児たちも、そして弥次兵衛も。皆、食うため、生きるために必死だった。その必死さを、壊すためではなく、創るために使わせるんだ」

「……泥の中からしか、蓮の花は咲かない。言葉の意味はわかるが、なかなか……」

 伊保野も顕景も考え倦ねていた。

「御実城様にはなんと?」

 伊保野が不安げに問う。

「勿論、これから報告とご提案に伺う。それに」

 俺は周囲を見ながら語りかけた。

「中西、いるのだろう?」

 いつのまにか、すぐ近くに軒猿の中西控えていた。

「……ここに」

「いつも警護をしてくれて感謝している。今の話も聞いていただろう?」

「はい、勿論」

「聞き漏らしたことがあれば尋ねてくれ」

「いえ。ございません」

「流石だな。では、一言漏らさず御実城様に報告してくれ。それからすぐに伺うとも」

「委細、承知しました」


 改めて、俺は伊保野と顕景に語った。

「伊保野、顕景。これが俺の考える義と利だ。俺は義と利は共存するもの、高めあうものだと考えている。どうだ、越後は俺を受け入れてくれるか?」 

 俺の言葉に、顕景はしばらく海を見つめていたが、やがて短く息を吐いた。

「……承知いたした。私は義兄上のやり方に、まだ心からは頷けぬ。だが、義兄上が背負おうとしているものの重さは、理解したつもりだ」

「感謝する、顕景」

「……私も、義父上のもとに一緒にまいりましょう。景虎様は、この荒れ地で栽培に成功し、そして、武田の陰謀を未然に防いだ、のですね」

「その通りだ、伊保野」

「……なんだか話が変わっていませんか、姉上」

「顕景。見え方は人それぞれ。私にはそう見える、と言うことです。それに」

 伊保野は不敵な笑みを俺に見せた。

「硝石が作れれば、その戦略物資を中心に、越後を含めた一帯の商いの流れが大きく変わりますもの。この地は長尾上田と春日山の中継点となれる場所です。今後が楽しみになってきました」


 俺たちは直ぐに支度を済ませると、春日山に向かった。今回は伊保野、顕景、それに前島と宇佐美の姉弟も同行する。鶴には本格的にこの地での生産を認めて貰うまで、領民たちに生産方法を指導しつつ、周囲の防諜を担ってもらうことにした。

「すぐ帰ってくる」

「うむ。なに、心配などしておらん。旦那様は正室殿を立派な共犯者にしておるしな。ゆるりと行ってまいれ。吾に土産は要らぬぞ」


 二日後、春日山城。

 書院に通された俺たちは、久しぶりに御実城様(輝虎)と面談する。側には、た柿崎景家(弥次郎)、直江信綱、山浦景国(源五)が控える。

「景虎、よく戻ってきた。息災か?」

 輝虎が朗らかに問いかけてくる。だが、その眼光はすべてを見透かすように鋭い。

「ははっ。荒浜での取り組みは、よく身体を鍛える機会となりました」

「そうかそうか。それで、何か報告があるとのことだが」

「では早速ご報告を致します。まず一点目、荒浜で菜種の栽培を開始することが出来ました。その規模は約百町(三十万坪 約100万㎡)。これに伴う菜種の収穫量は、順調にいけば六〜七百石(約100トン)にはなると推定します」

「あの荒れ地で収穫を」「そんなに採れるのか」「農村百世帯分くらいか」

 重臣たちが囁く。

(よし。まず上々の反応だ) 

「あと半年頂ければ、五倍には出来ると考えております」

 ここで姿勢を正し、息整えた。

「次に。武田の謀略を未然に防ぐことができました」

「む、武田だと」

 家臣たちがざわめく。顕景の表情が硬くなる。

「ふむ。申せ」

 輝虎が促す。

「はい。琵琶島一帯に武田の調略の手がかかっておりました。全領主の遺臣たちや収穫の乏しい領民に諫言で釣り、騒動を起こす手筈でありました」

「なんと」「おのれ、武田め。相変わらず汚らしい真似をする」「許せぬ」

 家臣たちが憤るなか、前島の顔色がどんどんと悪くなっていく。宇佐美姉弟も顔面蒼白だ。

「そのような中、ここにいる宇佐美定満殿の遺児たちが名主の河野と共に、私たちに知らせてくれました。そこで、お館様には以前から前島殿に「便宜」を図って貰うよう言われておりましたので。前島殿と相談して、武田の手の者を成敗致しました」

 伊保野は表情を変えず、無表情のままだ。対照的に普段は表情を変えない顕景が、どんどんと顔の表情も変えていった。

「そして、動揺していた領民たちを伊保野様は慰撫され、顕景殿は手勢を率い、付近の治安維持を努めて頂きました」

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