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鶴姫と景虎の国盗り経営録 ──戦国の怪物たちを円卓に集めたら資本で世界を取りに行った件  作者: みなと
第2章 越後の景虎編  ~軍神の養子として、第二の人生が始まる~

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28/58

28 堺から危険な天才たちが来たので、荒浜で新兵器の開発を始めました

 相模にいた時、鶴に依頼していた職人たちがようやくやってきた。

「ほら、挨拶をせい」

 鶴に小突かれて、渋々、自己紹介をしていく。

「……弥次兵衛(やじべい)だ、です」

権左(ごんざ)だ」

「……助蔵っす」

 弥次兵衛:天才だが危険な銃工

 弥次兵衛は、堺でも指折りの名工の下にいたが、銃身の内側を削る芯抜きの技術に執着するあまり、火縄銃の権威を無視して銃身の条溝ライフリングを研究していった。その過程で、弥次兵衛の技術を妬んだ同僚が、南蛮人と親密な関係にあることを「仏敵と密会して共謀しようとしている」と一向宗の門徒に密告し、工房に火を放たせた。その時に弥次兵衛は試作品の小型連発銃で、扇動していた同僚と僧侶を撃ちながら逃亡していた。


 権左:火薬に魅入られた狂気の職人

 権左は、硝石の精製中に発生する有毒な煙や、配合比率の実験に執着していた。その実験の過程で爆破事故を起こし、顔の半分に火傷の跡がある。堺の商人仲間から貴重な硝石を無駄遣いしたと、負債を負わされていた。


 助蔵:金属と偽金の魔術師

 助蔵は、堺の両替商のもとで、密かに本物より本物らしいびた銭(何処かしら破損している明銭)の偽金を作っていた。その過程で様々な金属の融点や合金の強度への造詣を深めていた。両替商が検挙された時に罪を被せられ、死罪を待つ身だった。


 いずれも南蛮流の研究を少々やりすぎてしまった者たちだ。

「……我らに、何をさせようというのだ、若様」

 弥次兵衛が、濁った目で問いかける。

「炭鉱掘りでもさせるのかい?」

「そんな勿体ないことをさせるか。お前ら三人に創ってほしいものがあるのだ」

 助蔵が興味本位で聞いてきた。

「何をです? 越後で偽金作りはちょっとまずいんじゃないですか?」

「これだ。これの試作品を一月で創ってほしい。これが成功すれば、お前たちの名を偉大な発明者として歴史に刻まれるだろう」

 三人は、はじめは若造の思いつきくらいに付き合っていたが、俺の出した設計図を眺め、やがて内容に引き込まれていく。

「……若様。この配合比率は何処で教わりました?」

「さてな、権左。お前が興味を持ったのは、むしろ、粒状に成形(グレイン化)するところだろう。お前がこれまで扱ってきた粉とは異なる次元で爆破出来るぞ」

 少量の水と酒で湿らせ、粒状に成形すると火力が増す。

「……それは本当なら、今の鉄の筒は全部壊れちまいますぜ」

 助蔵が尋ねてくる。

「そうだな。だが、連続して撃てるようにしたいし、より大きなものを撃ち込みたい。だから助蔵、お前の冶金の経験が必要になる」

「俺にはこの彫り物をしろっていうことか」

 これまで図面を見て何も話さなかった弥次兵衛が呟いた。

「勿論、施条ライフリングは掘ってもらう。併せて、最適な弾薬の形や銃身の口径、長さも考えてほしい。最終的には大量生産に耐えられるように規格化したいんだ」

「面白いんだが、規格化ってのはなんです?」

 俺は鉄造たちを呼んだ。

「鉄造、七介、蓮次。相模で作った、規格化されたものを見せてやれ」


 それから二刻後。

「わかった、もういい」

「いや、弥次兵衛よ。お前はまだ規格化に凄さがわかっていない。この絞ったあとの角度を如何に再現するかが……」

 あの不貞腐れていた鉄造が、あんなに真剣に説明してくれている。彼らを越後に連れて来てよかったなぁと俺は思っていた。

「若様、助けてくれ」

 ついに弥次兵衛たちが根を上げた。

「面白いだろ、ここは。それで、俺の言ったものは作れるか?」

「……まあ。もし断ったら、そこの海に捨てられそうだしな。これを作るもの楽しそうだ。やってみるよ。お前らはどうする?」

「良いんじゃないか。びた銭作りよりは価値がありそうだ」

「俺も構わない。だが、これが出来たらとんでもない量の火薬が必要になる。それはどうするんだ?」

 最も火薬に造詣の深い権左が聞いてくる。

「火薬の材料だろう。任せておけ。お前たちが量産するまでにはなんとかするよ」

 

「なあ、旦那様」

「なんだ、鶴」

 俺は鶴の薬湯を飲みながら答える。

「あの三人は使い物になりそうか?」

「逸材だと思うぞ、流石は鶴だ。よく探してくれた」

「だと良いのじゃが」

「何か不安があるか?」

 うーん、と腕を組んで鶴が話し出した。

「いや、無いとは思うのじゃが、あれらは忍びかもしれないと、な」

 なるほど、と俺も思った。

「もしそうなら、随分と手の込んだ方法じゃないか。心当たりがあるのか」

「勘じゃ」

 じゃが、と続ける。

「どうも、弥次兵衛が気になってな。あやつ、歩き方が武家でも町人でもない、妙な足運びじゃ」

「ほう」

「生い立ちを聞くと、本来ならとっくに殺されていてもおかしく無い」

 確かに一向宗に襲撃されて、しかも撃ち返して生きているなど聞いたことがない。

 「怪しいかな」

 「怪しいじゃろう」

 俺はため息をつきながらゴチた。

 「鶴。何処の手の者の可能性が高いかな」

 鶴も薬湯を飲みながら考え込む。

 「……うーん。まず無いのは、織田家じゃな。一向宗と敵対関係にある。武田もありそうじゃが、堺まで手を伸ばすのはちと難しそうじゃ」

 「だとすると、一向宗と協調関係にあるのが……」

 「浅井家、朝倉家、三好家、そして比叡山延暦寺、あたりじゃろうか。じゃがなぁ、イマイチ理由が結びつかんのじゃ」

 「朝倉家が一番ありそうだけど、そこまで手を回すかな」

 「だからわからんのじゃ」

 鶴はそう言って、茶碗を片付け始める。

 「……案外、一周回って織田家かもな」

 「一向宗と敵対関係にあるぞ?」

 「あり得ると思ったのは、生い立ちが事実として、殺される前に織田家の者が匿った場合だな。堺は織田家の管理下だ。そしてもう一つの場合は、そんな生い立ちは全くのでまかせで、堺の商人と口裏を合わせて創作した場合だ」

 「あぁ。そっちの方がありそうじゃな。どうする、旦那様。今のうちに問いただすか?」

 「わざわざこんなに手の込んだことをして来たんだ。生半可な覚悟ではないだろう。なんなら堺で家族でも人質を抑えられているかもしれん」

 「ありそうじゃなぁ。……まあ、泳がせて動きを探るのが一番の近道じゃ」

 「じゃあ。監視の目をつけてもらうとして、少々餌になるものでも用意してみるか」

 荒浜の夜は更けていく。風が吹くたび、どこからともなく笛のような音が鳴る。誰もいないのに。

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