28 堺から危険な天才たちが来たので、荒浜で新兵器の開発を始めました
相模にいた時、鶴に依頼していた職人たちがようやくやってきた。
「ほら、挨拶をせい」
鶴に小突かれて、渋々、自己紹介をしていく。
「……弥次兵衛だ、です」
「権左だ」
「……助蔵っす」
弥次兵衛:天才だが危険な銃工
弥次兵衛は、堺でも指折りの名工の下にいたが、銃身の内側を削る芯抜きの技術に執着するあまり、火縄銃の権威を無視して銃身の条溝を研究していった。その過程で、弥次兵衛の技術を妬んだ同僚が、南蛮人と親密な関係にあることを「仏敵と密会して共謀しようとしている」と一向宗の門徒に密告し、工房に火を放たせた。その時に弥次兵衛は試作品の小型連発銃で、扇動していた同僚と僧侶を撃ちながら逃亡していた。
権左:火薬に魅入られた狂気の職人
権左は、硝石の精製中に発生する有毒な煙や、配合比率の実験に執着していた。その実験の過程で爆破事故を起こし、顔の半分に火傷の跡がある。堺の商人仲間から貴重な硝石を無駄遣いしたと、負債を負わされていた。
助蔵:金属と偽金の魔術師
助蔵は、堺の両替商のもとで、密かに本物より本物らしいびた銭(何処かしら破損している明銭)の偽金を作っていた。その過程で様々な金属の融点や合金の強度への造詣を深めていた。両替商が検挙された時に罪を被せられ、死罪を待つ身だった。
いずれも南蛮流の研究を少々やりすぎてしまった者たちだ。
「……我らに、何をさせようというのだ、若様」
弥次兵衛が、濁った目で問いかける。
「炭鉱掘りでもさせるのかい?」
「そんな勿体ないことをさせるか。お前ら三人に創ってほしいものがあるのだ」
助蔵が興味本位で聞いてきた。
「何をです? 越後で偽金作りはちょっとまずいんじゃないですか?」
「これだ。これの試作品を一月で創ってほしい。これが成功すれば、お前たちの名を偉大な発明者として歴史に刻まれるだろう」
三人は、はじめは若造の思いつきくらいに付き合っていたが、俺の出した設計図を眺め、やがて内容に引き込まれていく。
「……若様。この配合比率は何処で教わりました?」
「さてな、権左。お前が興味を持ったのは、むしろ、粒状に成形(グレイン化)するところだろう。お前がこれまで扱ってきた粉とは異なる次元で爆破出来るぞ」
少量の水と酒で湿らせ、粒状に成形すると火力が増す。
「……それは本当なら、今の鉄の筒は全部壊れちまいますぜ」
助蔵が尋ねてくる。
「そうだな。だが、連続して撃てるようにしたいし、より大きなものを撃ち込みたい。だから助蔵、お前の冶金の経験が必要になる」
「俺にはこの彫り物をしろっていうことか」
これまで図面を見て何も話さなかった弥次兵衛が呟いた。
「勿論、施条は掘ってもらう。併せて、最適な弾薬の形や銃身の口径、長さも考えてほしい。最終的には大量生産に耐えられるように規格化したいんだ」
「面白いんだが、規格化ってのはなんです?」
俺は鉄造たちを呼んだ。
「鉄造、七介、蓮次。相模で作った、規格化されたものを見せてやれ」
それから二刻後。
「わかった、もういい」
「いや、弥次兵衛よ。お前はまだ規格化に凄さがわかっていない。この絞ったあとの角度を如何に再現するかが……」
あの不貞腐れていた鉄造が、あんなに真剣に説明してくれている。彼らを越後に連れて来てよかったなぁと俺は思っていた。
「若様、助けてくれ」
ついに弥次兵衛たちが根を上げた。
「面白いだろ、ここは。それで、俺の言ったものは作れるか?」
「……まあ。もし断ったら、そこの海に捨てられそうだしな。これを作るもの楽しそうだ。やってみるよ。お前らはどうする?」
「良いんじゃないか。びた銭作りよりは価値がありそうだ」
「俺も構わない。だが、これが出来たらとんでもない量の火薬が必要になる。それはどうするんだ?」
最も火薬に造詣の深い権左が聞いてくる。
「火薬の材料だろう。任せておけ。お前たちが量産するまでにはなんとかするよ」
「なあ、旦那様」
「なんだ、鶴」
俺は鶴の薬湯を飲みながら答える。
「あの三人は使い物になりそうか?」
「逸材だと思うぞ、流石は鶴だ。よく探してくれた」
「だと良いのじゃが」
「何か不安があるか?」
うーん、と腕を組んで鶴が話し出した。
「いや、無いとは思うのじゃが、あれらは忍びかもしれないと、な」
なるほど、と俺も思った。
「もしそうなら、随分と手の込んだ方法じゃないか。心当たりがあるのか」
「勘じゃ」
じゃが、と続ける。
「どうも、弥次兵衛が気になってな。あやつ、歩き方が武家でも町人でもない、妙な足運びじゃ」
「ほう」
「生い立ちを聞くと、本来ならとっくに殺されていてもおかしく無い」
確かに一向宗に襲撃されて、しかも撃ち返して生きているなど聞いたことがない。
「怪しいかな」
「怪しいじゃろう」
俺はため息をつきながらゴチた。
「鶴。何処の手の者の可能性が高いかな」
鶴も薬湯を飲みながら考え込む。
「……うーん。まず無いのは、織田家じゃな。一向宗と敵対関係にある。武田もありそうじゃが、堺まで手を伸ばすのはちと難しそうじゃ」
「だとすると、一向宗と協調関係にあるのが……」
「浅井家、朝倉家、三好家、そして比叡山延暦寺、あたりじゃろうか。じゃがなぁ、イマイチ理由が結びつかんのじゃ」
「朝倉家が一番ありそうだけど、そこまで手を回すかな」
「だからわからんのじゃ」
鶴はそう言って、茶碗を片付け始める。
「……案外、一周回って織田家かもな」
「一向宗と敵対関係にあるぞ?」
「あり得ると思ったのは、生い立ちが事実として、殺される前に織田家の者が匿った場合だな。堺は織田家の管理下だ。そしてもう一つの場合は、そんな生い立ちは全くのでまかせで、堺の商人と口裏を合わせて創作した場合だ」
「あぁ。そっちの方がありそうじゃな。どうする、旦那様。今のうちに問いただすか?」
「わざわざこんなに手の込んだことをして来たんだ。生半可な覚悟ではないだろう。なんなら堺で家族でも人質を抑えられているかもしれん」
「ありそうじゃなぁ。……まあ、泳がせて動きを探るのが一番の近道じゃ」
「じゃあ。監視の目をつけてもらうとして、少々餌になるものでも用意してみるか」
荒浜の夜は更けていく。風が吹くたび、どこからともなく笛のような音が鳴る。誰もいないのに。




