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鶴姫と景虎の国盗り経営録 ──戦国の怪物たちを円卓に集めたら資本で世界を取りに行った件  作者: みなと
第2章 越後の景虎編  ~軍神の養子として、第二の人生が始まる~

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22 軍神に新兵器案を見せたら、荒浜送りと正室追加を命じられました

 俺は懐から図面を2つ取り出した。

「なんだ、これは」

 「1つ目は弱い岩盤を固める方法、もう1つは固い岩を砕く装置です」

 輝虎は頭をひねって図面を凝視する。

 「……わからん。カラクリもわからぬが、本当に出来るのかもわからん」

 「そうですね。岩盤を固める方法、俺は便宜上「人口石」と名前をつけてみましたが、これは武蔵の滝山城修復で実証済みです。材料は、石灰石に粘土などを混ぜ合わせて作ります。越後でもおそらく材料が手に入るので、実演してお見せします」

 「そうか、滝山城で使っているのか。それはなかなかの軍事機密だな」

 「北条宗家から、この技術を同盟関係の上杉家に展開して構わないと言われております」

 「北条家もこういった形で義を示すか」

 輝虎は目を瞑って呟いた。

 「……変わったな、北条家も」

 俺は続ける。

「もうひとつはこちらの岩を砕く装置です。種子島の原理を基に、より高い火力とより高い指向性で前に進む力を強めたものです。仮に「削岩杭」と名付けてみました。完成すれば、大幅に工期を削減できるでしょう。ただ、少しだけ時間を頂きたいのです。まだ図面で構想中の段階ですので」

 「火薬を用いる装置か。儂は、種子島は好かん。卑怯な道具だと儂は思う。だが、このような活用方法があるのか。これが出来れば種子島も悪いものではないな。だが、このようなものが出来るのか?」

 「理論上は。しかし、実物を見せねば、先ほど申し上げた商人の方々も納得はしないでしょう。ですので、装置の完成をもって、策を実行に移したいのです」

 「なるほど」

 「そこでお願いがあるのです」

 「ほう。申してみよ」

 「防諜しやすい場所をお借りしたいのです。そこでこの図面を実現する装置の開発をいたします」

 「たしかに、このようなものを春日山城でやっていたら筒抜けだな。それも面白くはあるが」

 輝虎は嬉しそうに呟いたあと、しばらく考えてから答えた。

 「……石灰石、砂利、砂、鉄、火薬で爆発音。 海の近くが良さそうだな。 景虎、琵琶島の北の荒浜という地区がある。そこはどうだろう。琵琶島には港もあるので材料は運びやすい。そして荒浜へは琵琶島からしか行けない。あの地区は塩害にやられ作物も実らず寒村があるばかりじゃ。防諜にはもってこいであろう」

 荒浜は、直江津の北に約五十キロ、琵琶島城(柏崎)の更に先にある土地だ。波飛沫が常に舞い上がる「死んだ地」――荒浜。そこは、かつての大津波と長年の塩害によって、ぺんぺん草すらまともに生えない呪われた砂地だ。

 「良いですね。すぐに砂利と砂が手に入りそうなのも良いです」

 「よろしいでしょうか」

 これまで黙っていた鶴が問いかける。

 「上杉家の方々からは、北条の息子をどう扱うか考えあぐねているでしょう。そんな時に御屋形様から「実績を示せ」と宛がわれたのであれば、事実上の左遷であると嘲りをうけるかと」

 「それで良いんだ、鶴。防諜の基本は油断させること。今は注目されている。俺が何をしても、 だからそのような場所で、細々と菜種栽培でもやっている、と思われている方が都合が良い」

「……」

 さて、と輝虎が話す。この話はここまでのようだ。

「あとは伊保野と顕景だな。あいつらには先に話しておくべきだろう」

 (うわ、嫌な名前が出てきた)

 伊保野は輝虎の姪で史実では俺の妻になるし、顕景は伊保野の弟で後の上杉景勝だ。史実では顕景が俺を殺すことになる。だが、俺は既に鶴と所帯を持っている。歴史は変わる筈だ。

「お二人は義父上の一族でしたね」

 鶴が当たり障りのない質問をする。

 輝虎は頷き、そして俺を真っ直ぐに見据えて付け加えた。

「……景虎、鶴よ。これは必要なことだ。景虎は新たに伊保野を妻を娶れ」

「……」

 鶴は無言だ。

「……はい? 私には既に鶴が……」

「お前を名実ともに上杉の後継とするためだ。私の姪を正室として迎え、一門の絆を固めよ」

――実質的な「上杉家ナンバーツー」への指名。

 俺が固まっていると、輝虎は苦笑して言った。

「良いな? お前の描く世界には上杉の力が必要だ。一度、鶴姫と語り合え」

 

「……なぜ二つ返事で受けなかったのじゃ?」

 部屋に戻ってすぐに、鶴は呆れたように息をついた。

「え? だって、お前と離縁なんて……」

「御実城様は一度も『離縁しろ』とは仰っておらぬだろう。正室の座を譲る、ただそれだけのことじゃ」

 鶴はリラックスした様子で、俺の隣に座り直した。

「上杉の姪御殿となれば、北条から来た吾よりも立場は上。だが、吾が三郎様の魂の伴侶であることに変わりはない。……越後に行くと決めた時、最初から覚悟の上よ」

「鶴……」

「三郎様。吾は幸せなのじゃ。日陰を歩んできて女子らしきせよとお仕着せを与えられそうになっていた吾を、これほどまでに必要としてくれる夫を持ってな」

「……俺は、お前と一緒に歩んでいきたいんだ」

「おう。これからも共に行こう。吾を退屈にさせるなよ?」

 鶴はいつもの軽快な口調を止め、不意に真剣な顔で俺を見上げた。

「……我儘を、一つだけ」

「なんだ?」

「二人でいる時だけは。……吾を、一番に見ておくれ」

 俺は愛おしさを抑えきれず、彼女を強く抱きしめた。

「当たり前だ。俺は、お前を愛してる」

 

 夜風に当たる輝虎の背後に、女性が一人控えていた。

「中西、いるか」

「御実城様」

 現れたのは、代々上杉に仕える隠密の長だった。今代は女性のようだが、本当に女性なのかもわからない。

「景虎をどう見た」

「……優秀な御仁かと。御実城様の前で、嘘は感じられませんでした。不誠実な男ではございませぬ」

「そうか。ならば……景虎の身辺警護を頼む。我が姪と、鶴姫も併せてな」

「承知いたしました」

 影が消える。輝虎は一人、夜空の月を見上げた。

「さて、早く越後へ戻らねばな。……顕景(後の景勝)との棲み分けも考えねばなるまい」

 軍神の心は、すでに未来へと動き出していた。

 新しい息子が持ち込んだ「世界」という名の暴風を、どう乗りこなすか。その瞳は、少年のように輝いていた。

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