嘘に塗れた真実
「え?もしかしてあいつの関わりはここからなのか?それであいつは岸田家の颯太が見つかった場合の保護施設での保護を申請なのか?」
しかし、青天目は楊が書き残した一文を読んで、続く言葉を飲み込んだ。
楊は颯太の部屋から見つけた他の所持品により、全てが颯太自身の狂言であると見做さざるを得ないと書き記してあるのである。
「狂言?」
颯太の部屋から見つかったものは、何枚もの魔法陣のようなものと、引越し前の学校での友人との寄せ書きだった。
楊が転校前に在籍していた小中学校に問い合わせたところ、颯太に吃音の事実はなく、友人も多い明るい生徒であったが、死や遺体の処理について特に興味を示していたというのである。
「通常であればミステリー小説家になりたいという快活な少年の言葉通り受け取るべきであるが、転校先で起こした両親と弟への仕打ちを考えると、人の殺害にこそ興味があったのではないかと考えざるを得ない。か。だけど、十四歳の少年に親の肉体の解体など。」
「悪魔を呼び出したんだよ。颯太君は。悪魔を呼び出せるか興味があった彼は、翌日からは時間が有り余ることになるだろう終業式の夜に、弟を生贄にして悪魔を呼び出した。」
青天目は長谷を見返した。
悪魔などと鼻で嗤って返すべきであるが、自分の目の前で猫を抱いている男こそ、不老不死の魔人であるのだ。
悪魔はいるはずだと考えるしか無いのである。
「長谷、さん。」
「凄い子だ。失敗した時の事を考えての狂言だ。弟殺しは親の仕業。僕は知りません。全部親のやった事です。弟も理想じゃ無くなったから!とね。」
「まさか。ですがどうしてそこまで悪魔が呼び出せると思い込んだのですか?」
「それは、彼には召喚する事ができたから、としか言い様がないね。」
「え?」
長谷は青天目を静かな目で数秒見つめた後、ニカっと子供めいた笑顔に表情を変えた。
「魔が差した、と言うじゃあないか。その魔が、生贄の欲しい悪魔そのものの囁きであるのならば、人間の、それも情緒が不安定な子供に抵抗など出来やしないのではないかな。では、万能感を得た子供は悪魔に立ち向かえるだろうか?」
青天目はハッとして、足元に転がるアヘンチンキの古臭い瓶を見下ろした。
「岸田颯太のような子供達に、あなたがアヘンチンキを渡した?生贄を望む悪魔の召喚を防ぐために?」
長谷は狡猾そうな笑顔を作ったが、青天目は長谷が悪魔復活を妨げたらしいことを讃えるどころか、子供を叱るようにして長谷のその所業のを怒鳴り叱りつけたのである。
「いい加減にしなさい!そんな危険な子供達がいる事を事前に知っていたのならば、あなたの大事な楊の特対課に任せればいいじゃないですか!そうすれば子供達を麻薬中毒にする必要も無かった!一体何をやっているのですか!」
すると長谷は子供のように不貞腐れた声を出した。
「だって詰まんないんだもの。息子は会いに来ないし、青天目君はすぐ怒るし。」
「くだらない事ばっかりやっているからでしょう。いい加減にしなさい!」
長谷は子供のように唇を尖らし、ぷいっと青天目から顔を背けた。
「あなたは!」
「にゃあ。」
青天目の愛猫が、長谷を怒らないでという風に、飼い主の青天目に向かって鳴いたことで、青天目は仕方が無いなと、大きく溜息を吐いて諦めた。
目の前の魔人は嘘つきでしかない。
真実を語ったらこの世から消え去ると思い込んでいるぐらいに、彼は大嘘つきなのだ。
青天目は再び身を屈め、アヘンチンキの瓶の入った袋を拾い上げた。
瓶が割れないように丸めた古紙もそこに入っていたが、青天目はその紙屑が古い週刊誌のページらしいもので、東京都市伝説なんていう題が目についたことで手元の動きが止まってしまった。
いや、渋谷七人みさきの挿絵に学生服姿の少年が一人混じっていると、ぼんやりと眺めてしまっていた。
岸田颯太に似ているな、と。
渋谷七人岬の都市伝説は、援助交際をしている女の子達がスペイン坂で消えるというものです。
ですので、女の子が七人描かれていなければいけない所に、男の子の颯太がいると言う事で、颯太の呼び出してしまった悪魔がこれだという答となります。
悪魔だと思い込んでいたのが実は悪霊でしかない七人岬で、これは他者を取り込めば自分がそこから解放されるというルールがあるので、悪霊側も必死です。
イイズナによる失踪事件は術具のイイズナさえ処分できれば終結できるので、長谷はアヘンチンキを使ってでも魔法少女ごっこをしている女の子達から七人岬を切り離したかったのでした。
此方のプロットは、この作品の後に、前回は実はこうだった話として進めようと考えていたものでしたが、周吉が今作で生贄が必要な悪魔だから手が出せない、と言っていたり、長谷がアヘンチンキで誤魔化したとおりに、七人岬の対処法が思いつかなかっために次作が無かったのです。
そこで、今回改訂にあたり、岸田颯太事件を長谷と青天目に語らせました。




