消えている少年
青天目の質問に対し、長谷は微笑んだ。
「君って真っ当だよね。そこは偉いと思うよ?」
「長谷さん?皮肉ですか?」
長谷はテーブルの上に乗っている調査報告書を手に取ると、それをほいという風に青天目に放った。
青天目はそれを落とさずに受け取り、受け取って見れば自分の作った調査報告書では無かったと目を瞠った。
青天目にも見慣れている書式の警察の報告書のコピーであり、その書類製作提出者には楊勝利の名前があった。
「あ!楊が調べていたのなら、いや、あいつが解決していた事件を俺にって、これは単なる嫌がらせなんですか!」
青天目が長谷に怒鳴って見せたのは、結局は自分は長谷にとっては家族では無いと突きつけられたからであり、それが悲しいと思っている自分が許せないからでもあった。
そして、楊が作成した書類を破り捨てようとして、その書類の項目が家族消失事件でも家庭内殺人事件でもなく、児童保護施設への子供の保護依頼というものであったと気が付いた。
驚きながらページを捲れば、岸田家の長男は両親による虐めに遭っていたという近隣住人や学校の同級生などの証言もまとめてあった。
長男は知能指数は通常以上でありながらも、吃音というハンデを持っていたため、両親の理想の家族になり得なかったからであろう、と青天目は証言報告書を読みながら涙が零れそうになった。
報告書には少年、岸田颯太の手紙のコピーも入っており、便せんに三ページに渡って、両親にされた事としてもらえなかった事が切々と書かれていたのだ。
僕は部屋から出てくるなと言われています。
お父さんやお母さんの友達に挨拶するな、顔も見せるなと言われています。
お父さんもお母さんも、毎週同じ曜日に仕事を早退すると首になるからと、親の付き添いが必要な言葉の教室に通わせてもらえませんでした。
この数行の後に、親が決めた颯太が岸田家で生きていくためのルールが細かく書いており、青天目はそれだけで岸田夫妻を殴り殺したい憎悪が生まれた。
手紙の最後となる数行には、青天目の目から涙が零れるのを止められなかったほどである。
僕は勉強ができるのだから、僕が誰とも話さなければ良いだけの話だと、お父さんとお母さんは言います。
パソコンがあるから、僕はたくさん勉強をして、自宅で出来る仕事をすればいいとお父さんとお母さんは言います。
でも僕は、弟みたいにお父さんと遊びたいし、学校で話しかけてくれる優しい人達におはようって言いたい。
「日本の親権は強い。そのお手紙を祖父母に送ろうが、担任教師に送ろうが、親が善処すると言えば、救いを求めている子供を助けられずにそこで終わり。だからなのかな?その手紙のコピーは回覧板に添えられて、町内一周したんだよ。岸田夫妻はその日から、町内において、何をしても否定される人非人扱いだ。」
「それじゃあ!この颯太君にもっと酷い虐待が!あいつは一体!」
そこで青天目は出世を続ける楊の本髄を見たような気がした。
楊は長男に親から目に見える暴行を受けさせ、それを使って親と子を引き離したのだろう、と。
青天目は何て奴だと憤慨しながらも、助け出された子供を思って、楊をよくやったと内心では褒めながら報告書のページを捲った。
そこにあったのは、岸田颯太の捜索届と岸田家の家宅捜査の報告である。
所持品が自室内に残されている事から颯太の家出を疑う事が難しいが、自宅内において当該失踪者の血痕はあるが殺害と見做せるほどの証拠にはなりえず、また失踪した家族全員が財布などの所持品を残している事から、彼らの失踪は自主的なものとは言えないと書かれてあった。




