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消失していた家族

 青天目は年代物のガラス瓶に違和感ばかりを感じ、それを取り上げると、殆ど無意識の警察官時代の行動をおこした。

 軽く瓶口の臭いを嗅いだのである。


「何ですか、これは。この瓶の匂いって、あっ。」


「あぁ。舐めちゃだめだよ。お縄になる。よーく洗ってからリサイクルに出してちょうだいね。」


「舐めませんよ。これはアヘンじゃないですか。警察の講習で嗅いだことがありますよ。どこからこんなものを!」


「えー警察の押収室。意外と管理がずさんだから驚いたよ。」


「あなたは生前は警視監という偉い警察官だったでしょう。それなのに警察から泥棒なんかして!何をやっているんですか!こんなものを使ってまた何かくだらないことをやったんですね。」


 しゃがんだ姿のまま長谷を青天目は叱りつけたが、そこで長谷は悪びれるどころか楽しそうな笑い声をハハハと立てた。

 猫は長谷の手にもっと撫でられたいという風にラグのように彼の胸元に貼り付き、長谷はさらに優しい手つきで猫の背中を撫でた。


「大したことじゃないよ。魔法少女になりたがりの子達がいたからね、僕がちょっと、ほら、指導してあげたっていうかね。目を覚まさせてあげたっていうかね、ちょっとした慈善行為だって。」


「慈善?少女って事は年端の行かない少女でしょう?そんな子供にアヘン?」


「精神が成長していないだけの、年齢的には選挙権もある女の子。」


「だからと言って!」


 青天目はそこではっと息を飲んだ。

 自分が目の前のクライアントに頼まれていた調査と、目の前のクライアントに手渡したが読みもしなかった調査報告だ。

 彼は瓶の入った袋から手を放すと、すくっとその場から立ち上がり、ソファに横になっている長谷を見下ろして真っ直ぐに見つめた。


「四年前の一家全員消失事件の、犯人、だった?」


 新興住宅地に越して来たばかりの三人家族は、その新興住宅地でとても浮いていたことで、彼らの行方不明は夜逃げか何かとしか思われていなかった。

 けれども、青天目調査によると、五歳の子供と三十代の両親という三人家族の岸田家は、夫妻とも正社員で借金等は自宅ローンのみという夜逃げなどする必要のない優良な経済状態の家庭であった。

 また、夫妻それぞれの勤務先での同僚目線においても、夫婦どちらも気さくで楽しい人達と好印象の人物評価である。


 そんな彼らは、四年前の七月の半ば、中学校の終業式の日に忽然と消えた。


 青天目が近隣を聴取して回ったが、そこで得た情報は、迷惑な家族が夜逃げをしただけでしょうというだけのものしかなかった。


 岸田家は迷惑な家族だった。


 彼らは家を買い、彼らなりの理想的な家族のイメージを抱いていたのだろうが、夜勤勤務のある仕事に従事する家族がいる家や、赤ん坊が生まれたばかりの家、病人が療養している家などが、彼らの自宅近隣に住んでいる可能性を全く考えて生活していなかったようなのだ。


 平日は子供の甲高い大声の会話が夜遅くまで続き、土日の休日には友人を招いてのバーベキューによる騒音と煙害、あるいは、岸田家の自宅前の私道での父と子のキャッチボールや縄跳びの音だ。

 岸田家は引っ越した三か月後には、住宅街での鼻つまみ者になっていた。


 さらに青天目が調査を続けると、誰もが岸田家の迷惑な三人と言うが、岸田家が四人家族であったという事実に突き当たったのである。

 岸田一家が消えたその日から、戸籍上も住民票でも四人家族であった岸田家を、誰もが三人家族としか認識していない不可思議だ。


「当時十四歳の行方不明の少年が成長していれば、今は大学生ですよね。あなたはそれで加害者の女の子達に罰を与えるために?」

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