最終章
「蛍!ほたるこーい。」
夕夏は白地に赤とんぼが描かれた浴衣を着て、大きなうちわをパタパタとさせながらホタル狩りに夢中になっていた。
楊は庵の縁側に腰かけながら少女が喜びながら駆けまわる姿に目を細め、隣に座る紺色の地に赤とんぼという夕夏とお揃いでも色違いの浴衣を着た男には鼻に皺を寄せて抗議をした。
楊の着る浴衣は夕夏と全くのお揃いであり、三十代の男が着るには白地に赤トンボは恥ずかしい柄となっているのである。
「こんな柄で男物も売っているのですね。親子ペアって奴ですか?」
「いいえ。私が仕立てたんですよ。気に入ったのなら持って行ってください。」
「……そうなんですか?」
「えぇ、和裁は得意でねぇ。玄人の浴衣はもちろん、クミもユキにも私が仕立ててあげましたよ。伊予にはこれから色々してあげられると、嬉しいばかりです。」
「矢那には?」
「あれは、ほら、クミがぜーんぶやっちゃうから。矢那が自分のデザインしたタイツが履きたいと言えば、靴下工場まで買っちゃいましたからね。あれは本当に見境が無い。矢那も矢那で、欲しいものは全部久美に言う。私では無くね!可愛げのない子供です。」
「そうですね。大事な父親の為に、父親の体に父親の恋人の怪我を移しちゃいましたからね。そんなことをしたら、もしかしたらクミに嫌われるかもしれないと思いながらね。はは、あの子は可愛い良い子ですよ。」
「はは。あの子はそれで久美からご褒美だと新しい財産を手に入れましたよ。今度は靴屋だそうです。タイツ屋で当てたから、今度は自分専用にオーダーしていた靴も売り出してみたくなったんだそうですよ。子供に手玉に取られているなんて、本当に馬鹿な父親だ。」
楊は情けない父親である久美に対して笑い声を上げながらも、自分も大層気に入っている生意気な少女に助けられたと感謝もしていた。
矢那のお陰で楊が結婚していなかったことが周囲に知られる事となり、彼を嫌う振りをしていた彼の大事な妹分達に再び受け入れられたのだ。
楊が矢那に彼女の好物のパンプティングを焼いてあげたのは言うまでもない。
矢那の住まう久美の部屋に持ち込んだ保冷鞄に入っていた中身は、青い魚の形をしたラザニア皿で焼き上げたものだった。
大きなダイニングテーブルを前にして、あどけない子供のように座る矢那の前に鞄から取り出した皿を置き、さらに楊は鞄から自分が煮詰めたベリーとダークチェリーのシロップが入ったタッパを取り出すと、それを豪快にプディングに注いでみせた。
だが、幼女から歓声があがるどころか、彼女は眉をくいっとあげるという大人の女性の仕草付きで楊を見上げただけだった。
「――冷凍庫にアイスは入っている?」
「ふふ。クミちゃん特製のバニラアイスがあるわよ。」
「最高。」
彼は久美の自家製だというバニラアイスを追加してのせると、再び鞄から小型のタッパを取り出した。
それは楊特製のカラメルシロップである。
今度こそ幼女の歓声がダイニングを満たした。
「まささん、あなたは女心がわからない振りをするのが得意ね。」
「いや、普通に解んないし。普通にプリンにはカラメルシロップでしょう。」
「そうかしら?こんなにフルーツソースをかけておいて?」
「そうだよ。」
「まぁ、そういう事にして差し上げるわ。最高のパンプディングをありがとう。それから、そのピンクの生き物もあたくしへの贈り物なのかしら?」
「え?」
楊は矢那の目線を追うと、久美の家のリビングの床に連れてきた覚えも無いウーパールーパーが転がっていた事を知った。
矢那のいる場所、あるいは白波の敷地には楊のオコジョは楊に貼り付いて脅え、楊の火の鳥は存在を探索できないほどに消えてしまうというのに、と楊は最近手に入れた両生類を感心した目で見てしまった。
また、意思の疎通ができないので、白波の人の方があれを使えるのかもしれないと考えた。
そちらの方があの両生類の幸せかも、と。
「あら。いいよ、君が欲しいのならあげる。」
「うれしいわ。あたくしの蛇にも餌が必要みたいだから。」
これは餌じゃ無いとウーパールーパーを庇い、そのせいで楊は矢那に将来のお約束をさせられた記憶を思い出し、ぎゅうっと目を瞑ると、周吉に同調する言葉を吐いていた。
「確かに、かわいげのない子供でした。将来結婚してくれないと、今すぐ丸裸にしちゃうわよって脅されましたからね、僕は。」
今回の改訂は、この作品をなろうに投稿した際、どのような投稿にすれば読みやすいのかも理解していないで投稿したものを直したものです。
今までの状態のものを読んでくださった方々には、申し訳ない思いと感謝の念が絶えません。
本当にありがとうございます。
また、今回の改訂に当たり、次作用に考えていたが使うことの無かった設定、今回の事件には三つの消失事件があった事で長谷が動いていた、また、周吉が悪魔と言ったのは、彼が読み間違えているのではなく、悪魔のような悪霊の存在が彼には見えていたから、を「ろくでなし」章で加筆いたしました。(2021/10/3)




