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夢は人によって台無しにされるから儚い

「どうした?」


「――僕、僕、やっぱり帰ります。僕はやっぱり一般人です。舞浜から大学に通うことにします。お金持ちってみんなこうなんですか?周りの考え方についていけません。養父の養子になって鎌足伊予って名乗る事にします。」


「考え直せ。その名前はちょっと君に合わない。」


「僕は普通の人なんです。」


 俺は久々に聞いた白波の台詞に大声を上げて笑い出しており、傷ついて泣き出しそうだった伊予は俺の振る舞いに両腕に顔を埋めた。


「ひどい!」


 俺の足元に隠れていた白いふわふわはぷいぷいと鳴きながら駆け出し、なんと、伊予の頭に貼り付いた。

 伊予は頭頂部に感じる生暖かい存在にびくりと驚いたようであったが、自分の頭に貼り付くふわふわに対しては優しい手つきで慎重そうに両手で掴むと身を起こした。


「なに、これ。」


 両足をМの字型にして座り込んでいる伊予の姿はあどけなく、まるで小学生の様でもあり、一歳半の白いモルモットがとても似合っていた。


「シロロって名前のふわふわだ。今日から君の相棒だよ。新しい門出への餞別だ。欲しかったんだろう、小動物。」


「え、いや、え。僕は、え?」


 結局、伊予は舞浜に帰らず、霊園のアルバイトも辞めず、俺が一番ほっとしたのだが、歴史上の人物の下の名前を適当にくっつけた様にしか見えない本名になることも止め、白いモルモットを霊園で連れまわすようになった。

 恐らく普通の子供でしかない彼は、モルモットを他人に押し付ける機会を得るために霊園のアルバイトを辞めなかったのだろう。


 だが、白い狩衣姿で白いモルモットを連れまわす青年の姿は三十代前後の女性の心を捉え、彼は霊園の人気者となったのである。


 最近では女性雑誌にも紹介され、彼とモルモットは「しろシロくん」と呼ばれて持て囃されているそうだ。


 山口の話では。


 これで霊園を孫にこそ任せたいと周吉が考えるはずで、自分は少しずつフェードアウトして公安仕事に潜れますと、彼は嬉しそうに語っていたが、周吉が山口で稼げる限り山口を手放すはずは無いのである。

 大体、白波一族の悲願は、自分達の思惑に適う神主の存在なのだ。

 山口自身が失念しているが、公安仕事で周吉を監視しているからこそ周吉が悪に染まる前に止めようと覚悟し、違法捜査の手が周吉に伸びるようならば一緒に逃げようとまで考えている孫同然の山口こそ、白波の悲願の神主そのものなのである。


 神主をお役御免となった後は玄人と俺と自分の三人の生活なんですねと、俺の目の前で山口が楽しそうに夢見て語る姿が哀れで、俺は気が付けば彼の肩を抱いて抱きしめてしまっていた。


「良純さん。」


「お前は本当に純な奴だよ。」


 俊明和尚が俺に対して同じセリフを何度も言って笑っていたが、俺はその言葉に俺への愛おしさを養父がどれだけ込めていたのかようやく気が付き、俺は俺自身の言葉をもう一つ山口に囁いていた。


「お前は本当に可愛いよ。」


「良純さん。」


 山口は息をはぁっと吐き出した後に嬉しそうな声で俺の名を呼んだが、彼は出した声とは想像できない位に固く身を強張らせた。


「どうした?」


「かわさんとクロトの眼が怖い。」


 その時、俺と山口は世田谷の我が家の居間でちゃぶ台を囲んでいたのであり、ちゃぶ台には俺と山口の他に楊と玄人も囲んでいたのである。

 常に俺の一番でいたい玄人は山口を嫉妬の眼で睨み、単に仲間外れが嫌なだけの楊は顔じゅうに皺を寄せてパグのような顔で俺達を眇め見ていた。

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