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僕はいらない孫みたいです

 俺は情けない自分に大きく溜息を吐き気を落ち着けると、女子高生に囲まれている山口ならば女子高生のどれかにモルモットを押し付けられるはずだと、山口にモルモットを押し付けるべく彼の霊園へと向かうことにした。

 しかし着いて見れば山口は不在であり、そういえば玄人がデートだと浮かれながら朝から出掛けてしまっていたことも今更に思い出していた。


「畜生。あの野郎はクロと水族館だったか。ほら、シロロ。ちょっと散歩をしてこい。適当にウンコも落としておけ。頑張れ、ウンコ製造機。」


 キャリーバッグの蓋を開けられたモルモットは嬉しそうにプイプイと鳴き声をあげてバッグから飛び出し、俺は期待通りにシロがウンコを製造しながら部屋を歩き回るかと思ったが、シロは俺の足元どころか俺の両足の間に潜り込んで体を丸めただけだった。


「お前なぁ。はぁ、モルモットって、本気でやる気のない生き物だよな。クロが大好きな筈だよ。あいつはナマケモノ属だものな。」


「あ、いらっしゃいませ。っておかしいですね。ここは霊園だから。」


 俺は声が掛かった戸口へと振り返り、白波ながら白波らしさが無い子供に軽く頭を下げた。


「私こそ勝手にお邪魔しています。」


「あ、あの、どうも。」


 妙に挙動に脅えがあるとよく見れば、伊予はいつもの狩衣ではなくカーキ色のカーゴパンツに黒のコーデュロイジャケットを合わせているという私服のままで、彼の姿に今日は土曜日でもなかったと俺は思い出していた。


「どうした?伊予君は。今日はアルバイトの日では無いでしょう。山口に不在を頼まれたのかな。」


 伊予は見るからにそわそわとし始め、自分の太ももから尻へと何度も両手で拭うように動かしている。

 まるで、自分が話す言葉をカーゴパンツのポケットから探しだそうという風でもある。


「どうしたんだい?」


 ぴたりと動きを止め、今度は数秒固まっていたかと思うと、ごくりと大きく唾をのむ音さえも聞こえた。

 彼は俺に何かを告白することを決意したようだ。


「相談があるなら聞くよ。君は真っ当な子供だからね。」


「はは、そう言って貰えて、ですが、あの。僕はここを辞めようかと思って。」


「どうして。」


「だって、あの、いえ、これは内緒ですから。すいません。」


 彼は頭を下げたが、俺にすまないからと思っていての行動ではなく、言えない言葉を押さえつける為の行動のようである。

 彼は数日前に山口や楊によって酷い目に遭わされているのだ。


「山口が公安で怖くなったか?あいつは行動が時々極端なんだよね。」


「聞いていましたか?」


「本人から聞いてはいないけどね、監視カメラの記録を観た。俺もあれを確認しているから、君に起きた事は知っているよ。何せ、監視カメラは周吉さんに頼まれて俺が設置したものだからね。」


「それは知っています。だからお祖父ちゃんにも不信感です。孫の僕があんなに酷い目に遭ったのに何も淳平さんに言わないのは、お祖父ちゃんにとって僕がどうでもいい孫だからでしょうか。」


「どうでもよくないけど、あの人は儲かるか儲からないかで判断するからね。でも、君を慰めるぐらいはしたでしょう。何もなかったかな。」


 伊予は眉根を寄せて数十秒ほど考え込む顔をしたが、俺にそれだと答えるには根拠が薄いと思うのか、おどおどとした顔つきで窺うように話し始めた。


「――桃缶を五缶も貰いました。矢那が凄く大喜びで、なぜか僕を凄く褒めたたえてくれましたが。――もしかして、それ、ですか?」


「そうかも。白波の子供はあれで育っているから、大人になってから貰うとご褒美だと喜ぶんだってね。クミちゃんは喜んでいなかったか?」


「――桃のタルトを焼いてくれました。それから、白波酒造の出店に連れていかれて、一缶だけですが五百円で交換してくれました。これでお前も立派な白波の子供だって、背中を叩かれて。よくわかりません。」


「子供に仕入れと納入を教えているんだって。頑張って働いて手に入れた桃缶は一缶五百円で売れましたが、買ったお店は一缶二千円で売っていました。その仕組みを知ったら俺だったら働く事が嫌になるけどね。」


 俺の説明が彼への止めとなってしまったのか、伊予はがっくりとひざを折り、そのまま四つん這いへとなってしまった。

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