裏事情を話し合う
久美の病室に楊と玄人を引き連れて訪ねてみれば、俺の想定した流れにはならなかった。
楊が男前の共感力を見せて久美を救うと思ったが、楊は個室で横になる久美の様子を知って慌てふためいただけだった。
「うそ!何そのイイズナちゃんと同じ状態!イイズナの呪い?え?何が起きたの!」
その反対に、俺に良い所を見せたいと思ったらしき玄人が、混乱し始めた楊を尻目に、いかにもな呪術者風にして動きはじめたのである。
俺も楊も茫然とするしかない。
どこの劇団で演技を磨いてきた、と玄人を問い詰めたいほどの、真に迫った陰陽師風なのである。
普段は面倒だと唱えたがらない祝詞を唱えながら久美に近づき、唱え終わりと同時に久美の体を両腕で全力を込めて叩いたのだ。
久美の肋骨の二、三本ぐらいは確実に折れたと、俺が一瞬考えたほどの玄人による乱暴な攻撃だった。
「げふ、ごほ。」
「ちょっと、クロト!あぁ、大丈夫?クミちゃん、大丈夫?」
梨々子は玄人を睨みながら婚約者を守るようにして上半身をベッドの上に投げ出し、しかし、攻撃を受けた久美本人はそんな梨々子を抱きしめて嬉しそうな高笑いを上げただけである。
「あ、ああ、大丈夫だよ。ほら、梨々子。俺の腕が動く。元通りだ。やっぱりオコジョは凄いよ。一瞬で穢れを祓ってくれた。こいつは我が白波の最高の術師だよ。」
玄人が楊に対して優越そうな目線を送り、楊が大きく舌打ちした音が聞こえた事で、俺は何となく疎外感を感じていた。
彼等二人だけの世界に突入し始めた目の前の頭の悪そうなカップルはどうでもいいが、楊と玄人が俺が立ち入れない二人の世界を俺の目の前で繰り広げているのだ。
兄妹喧嘩程度のものだが、玄人にとって俺は飯炊き要員でしかなく、親友と思っている楊が本当の悩みを俺に打ち明けることは無いだろうというという事実を、俺はこの時漠然と考え、そして繊細な俺は自己の存在の空しさを知った事で落ち込んでしまっていたのかもしれない。
そうでなければ、俺がこの世で一番警戒するべき人間の誘いに、それも電話一本貰っただけで簡単に駆け付けるはずがないのである。
「ちょっと、真面目に聞いてくださいよ。」
事件が一先ず終結した数日後、俺は髙に呼び出され、なぜか事件のあらましなどというものを聞かされているのだ。
イイズナの千切れた足でイイズナの精神世界を召喚できると知った人間達、まぁ、その人間達はブラックホールか悪魔の召喚だと思い込んでいたようだが、彼等は獣の足を奪い合い殺し合いながら自分が敵と考える人間を消していたのだという。
彼女達の悪行が表に出たのは、日比野愛良が馬淵巡査を消そうとして間違って愛良が横恋慕していた島根巡査を消してしまった事による。
馬淵は島根消失から愛良の行状を調べ上げて問い詰め、とぼけるだけの愛良に業を煮やし、実は獣遣いでもあった彼女は自分の知っている方法にて愛良を失踪させた。
つまり、自分の獣道に愛良を閉じ込めたのだそうだ。
しかし、閉じ込められた愛良は馬淵に島根の行方も方法も語らないどころか、島根には馬淵が年寄りすぎると罵り煽るだけだったという。
そこで馬淵は神奈川県警の特対課を知り、山口に繋ぎを取って愛良の術具を持っているだろう人物を探させ、結果として入間未知も愛良と同じ罪を背負っているものとして捕えようと企んだ。
だがしかし、入間に逃げられただけでなく、捕えていた愛良までもが逃げ出そうとして死んでしまい、そこで楊班の事件となってしまったというのである。
「山口を訪ねての命乞いは、イイズナに関わった全員を殺す目的を完遂するために、脅える一般警察官を演じる為でしょうかね。でも、かわさんでさえ見つけられなかったイイズナの世界を、あの人はどうやって呼び出して穴まで開けたのやら。」
「俺に聞かれてもって奴ですが、クロの話では、あの病院が問題だったそうですよ。なんでも、吸引機能付きの大型ドリームキャッチャーだそうで。」
「何それ。」
「精神病を昔は幽霊や妖怪の仕業にしていたでしょう。自分の幻聴を霊的なものだと思い込んでいる患者も多くいます。病院が五芒星に見える造りなのは、入院患者に霊的に守られていると思わせる仕掛でしかないそうです。本当の結界や術は見えないものですよって、偉そうに言われましたよ。」
「で、ドリームキャッチャーとは?」
髙は早く続きを、という風に俺に期待の目を向けた。




