刑事の相棒となれば一般人でいられない
髙は水野の部屋を出ると、今度は女子大生の自宅へと俺を連れ込んだ。
深道という表札のある家は大量の生き物を飼っているのか、獣臭や糞尿が腐って濃縮したかのような悪臭が漂い、臭いだけで道を違えることなくその家に辿り着けるのではないかという程であった。
呼び鈴に応答して出てきた老女は深道結愛の祖母だと名乗り、髙の出した警察手帳に脅えるどころか何の感慨も無く孫の部屋のある階上を指さした。
「どうぞ。あれはすぐに帰ってきますから。」
膨らみすぎたこけしのような体格と無表情のその女性は、俺達にそう告げると俺達が返答する間もなくくるっと方向転換をして、彼女が先程迄いたらしき部屋へとのそのそと戻っていった。
俺達は同時に溜息を吐くと上がり込み、俺はそこで帰りたくなってきた気持ちを奮い立たせながら階段を一歩一歩と登っていったのである。
「どうして俺が先頭なのかわかりませんけどね。」
「僕より見逃さない目があるじゃない。」
「何を言いますやら。」
階段を上がり切った二階は二部屋ある造りで、階段の上り口から右手に三つドアが並んでいる。
真ん中のドアはトイレで、結愛の部屋が一番奥となると一目でわかったのは、奥のドアには彼女の部屋だと解り易くアルファベットで装飾されており、ドアノブには水野の部屋にあったガラクタがぶら下っていたからである。
「おや、あれがここにあるのなら、普通に善意でおまじないを水野に上げたと考えるべきかな。本人があれが本当に恋を呼び寄せるおまじないだと思っているからこそ部屋ノブに飾っているのでしょう。」
「分っていて言うのは止めてくださいよ。ドアノブにあるのは侵入防止だからでしょう。」
「まじめに返さないでよ、つまらない。」
「遊びたいなら楊とやってくださいよ。」
「うーん。かわさんはかわさんで好きにやっているようですからね。山口からイイズナを盗まれたって訳の分からない連絡を貰いましたよ。」
「はは。あいつは何をやっているのだか。それにしても、嫌な臭いですね。犬は繋がれていなかったし、猫を飼っている気配もないのに。」
「――死臭ですよ。おや、驚かない所を見ると気付いていましたね。あぁ、いやだなぁ。百目鬼さんがくどくどと言って先に進まないのは、目的の部屋を開けたくなかったからかぁ。」
「当り前ですよ。俺は警察では無いんでね。」
「死臭を嗅ぎ分けられる一般人なんていませんよ。」
髙は本気で嫌そうに俺の前を通り過ぎると、取り出したスマートフォンを耳に当てながら結愛の部屋を引き開けた。
開けられたドアから見渡せる風景と言えば、四畳半程度の部屋に押し込められるようにベッドが入れられた狭い部屋である。
ベッドの脇にある勉強机は小学校の入学時に買ってもらっただろう品物で、上の棚を外したその代わりに、部屋の主が好きそうな水晶の置物や、大昔の本の装飾が印刷されたノートや図書館から借りたまま返されていないらしき専門書が並んでいた。
どぎついピンク色のレースで装飾された黒いカラーボックスの本棚には、漫画や小説ばかりが並び、背表紙の文字が「王子」や「恋」等が並ぶところを見れば、楊が最近まで婚約者にしていた金虫梨々子と同じくらいの精神年齢だろうと考えた。
絨毯も濃いピンク色で毛足の長いものであり、通販で買える大量生産の安いものであろうと一目でわかったが、そこには大量生産品にはないオブジェが置かれていた。
俺達が一歩も部屋に踏み入れないのはそのオブジェが原因であり、髙などはスマートフォンの通話先に出動の命令を入れているほどであるのだ。
いや、それはドアを開ける前だ。
彼が今話している内容は、行方不明だった入間未知の遺体を発見をしたという追加情報である。
「深道結愛を入間未知殺害犯として緊急手配。殺害方法は棘のようなものを持つ鈍器によるものと思われる。発見時には武器を所持しているものと見て、注意。」
髙はスマートフォンの相手に告げるとスマートフォンを切り、俺は遺体を眺めながら、家族がいて、どうしてここまで臭気を発しながら腐っていく遺体を誰も見つけなかったのかと不思議に考えていた。
「家族は家族を守ろうとするから、ですか。」
「違うでしょう。嫌なだけですよ、面倒が。見ない振りをすれば消えてなくなるとでも思っていたのでは無いですか。」
「まじめに答えないでくださいよ。」
「ここにかわさんはいませんからね。」




