長い道、思い出すは素晴らしき日々
楊は自分が泥棒で嘘つきなことをよく知っている。
そして、無くしたものが大事なものであるほど、手元にあった時よりもそのものを取り戻そうと躍起になるものだという事も。
手足を落とされた人間は、あるはずのない指先の痛みを感じるという幻肢痛という後遺症を抱えるという。
「痛いのは人間だけじゃないよね。君達は手足が落ちたらその手足を食べてしまうよね。それは自分が手足を失ったという事実を受け入れようという行為なのかな。」
楊は小さな小箱を胸に抱きしめ、そして、その小さな命がびくりと痛みに慄くそのタイミングで自分の新たな獣道を作り出した。
黒ずくめの楊から溶け出したかのように、彼の爪先から真っ黒なビロードの細長い絨毯が飛び出し、それはシュルシュルと意思を持って蔦のように伸びていく。
「けもの道は一つだと、誰が決めたんだろう。」
死んだはずの曽祖父から贈られた漆黒のロングコートはあるはずのない風に煽られ、裾を短冊のように宙にはためかせた。
このコートは防汚に防刃、防炎と、曽祖父が楊の為に特別発注したという品であり、楊のお守りのような存在でもある。
出来ると考えていながらもその後に不安があるからこそ、彼は季節外れであろうがその漆黒のコートを纏い、彼の考えるこれからに挑もうとしているのである。
「さぁ、行くぞ。君は死んでいる。それなのに、死んでも生きている。どちらかにしよう。もちろん、君が苦しまない方を俺は選択するよ。」
見えない風に煽られたコートの裾は翼のように楊の後ろへと広がり、楊は自分が作り出した真っ黒な道に足を一歩踏み入れた。




