救いの僕達、なのに
「あちゃあ、こんなにいた。七人乗りなのにどうしよう。」
僕が呟くや当たり前だが水野と佐藤に頭を叩かれ、久美に轢かれかけた三人組は僕の呟きに危機感を持ったようで、七人乗りの車に乗りっぱぐれる事のないように次々と車に乗り込んでしまった。
僕は叩かれた頭を撫でながら水野達が閉じ込められていた世界を見回して、死体の多さに大きく舌打ちをするしかなかった。
「梨々子!無事だったか!」
「あ、クミちゃん、それは後回し。さっさと運転席に戻って。梨々子も黙って乗って。あ、青ツナギのお兄さん達、邪魔なベビーチェアは外に捨てちゃって。」
久美は梨々子を抱きしめる寸前だったために僕に殺意の籠った視線を返し、僕の後ろでは車から力いっぱい放り捨てられたベビーチェアが砂に埋まる音をざっしゅと立てていた。
佐藤と水野は僕に片目を瞑るとそれぞれ車に乗り込みだし、僕はずっとミイラを抱きしめている女性の前にしゃがみ込んだ。
「お姉さん。後悔はあと。現実でしようよ。結果として誰も助けられなかったとしてもね、あなたは救おうと頑張ったのでしょう。」
名も知らない彼女はわぁっと声を上げて泣き出し、僕は面倒だと思いながら彼女の手を引いて立ち上がらせようとした。
「だめ、彼を置いていけない。聡君と一緒にいさせて。私が殺したのよ!私はここにいるべきなの!」
「これはね、あなたのせいではないよ。彼はとうに死んでいたから、これは自然の摂理。だから、仕方が無いの。」
「うるさい!私はここでいいの。」
僕は大きく息を吐くと、車の方へと大声を上げた。
「すいません。このミイラを荷台に乗せてあげて。」
「あぁ、あたしらが連れて行くよ。」
「うん。助けてもらったからね、島根さんには。」
車から飛び出して来た佐藤達は小気味よい程のチームワークで泣く女性からミイラを奪い、縋りつく彼女をものともせずにミイラを車内へと運んで行った。
「あぁ、聡君!」
「さぁ、彼と一緒にいたいのなら、早く車に乗って。」
僕に無理矢理立たせられて背中を押された女性はのそのそと車に向かい、後部座席の引き戸に辿り着いた途端に水野と佐藤によって車の中に引き込まれていた。
「玄人、自然の摂理ってどういうことなの?」
久美に立ち上がらせられていた梨々子は足元がかなりぐらいついており、両腕は折れたものを無理矢理に接合したかのような歪な形に歪んでいた。
「起きるべくして起きたって事。梨々子はいいからクミちゃんの隣に乗って。クミちゃんもそんなに梨々子が心配なら、無理やりにでも抱き上げて連れて行って。」
彼は僕をじっと真面目な顔で見つめたが、その目は梨々子をここから連れ出していいのかという質問が暗に含まれていた。
梨々子は痛みを感じていないどころか、自分の体の具合にも全く気が付いていないのだ。
しかし、ここから連れ出したら梨々子がどうかなるのか、など、梨々子の前で出来る質問ではない。
そして、少しどころかかなり霊的世界を知っている久美には、この世界から抜けることで今の状態の梨々子に危険は無いのかという不安に思い当たったのであろう。
「命が最上。体は二の次。そして、僕は現世ならば最高の術者だ。」
「頼むよ、オコジョ。」
「きゃあ。」
久美は梨々子を抱き上げると車に向かい、運転手を迎えた車はエンジンを始動した途端に僕の目の前を通り過ぎて一直線へと走り去っていた。
「ちょっと、なんでクロは来ないの!」
「おい!止まれよ!誰かを置いていく必要があるなら警察のあたしが降りるよ!」
僕は元気な二人の怒号に笑い声を上げ、そして彼らにわかるように大きく手を振った。
彼らを逃がすためには術者が道を作らねばならない。
僕は車に乗る前に承知していたとおりに、そのためだけにこの地に一人取り残されるのである。
戻るための道標とされた矢那が、僕がやろうとしている事を知って、取り残される僕を思って泣き出した事には驚いたが。




