お姉さまたちは言う、お前友達を選べ、と
「お、目を開けた。よし、梨々子、お前はどうしてここに来ることになったのか説明をしろ。」
ぱっちりと目を開けた梨々子は見覚えのある美女二人に見下ろされており、お姉さんと慕った彼女達の姿に喜んで飛び起きると、梨々子がいるのは深道といた納屋のようだが、深道といた時よりも広く感じるどころか建物が巨大化しているようだと気が付いた。
そして梨々子を覗き込む二人の後ろには青いツナギを着た男性三人が彼女達と同じように梨々子を興味津々に見つめており、彼等の斜め後ろには人体だったらしき破片の山と下半身だけの女性の肢体が転がっていた。
そこで梨々子が悲鳴を上げる前に、死体の隣に病院で着せられるパジャマを着た女性が立ち膝になって片腕のないミイラをひたすらに抱きしめている様子が見て取れたことで悲鳴を飲み込んだ。
女性の後姿は、梨々子が久美が恋しいと嘆く姿にそっくりだった、のだ。
「えっと、ここはどこで、あの人達は?」
「それは後。それよりも、私は今すぐあなたの情報が欲しいの、言えるかな。どうしてここに飛ばされたのか。」
前下がりのボブを揺らしながら梨々子を伺う佐藤の眼は少々どころか血走っており、梨々子は自分をこの変な所に送った深道よりも、自分の状況よりも、佐藤に対しての恐怖感の方が勝ってしまった。
「きゃあ。あ、あの、深道という同期に変な呪文でここに送られました。」
「おう、深道か。」
尋ねていた佐藤ではなく水野が合点がいったという声を出し、そこに佐藤が少々棒読みにも聞こえる声で無表情のまま呟いた。
「すごーい。やっぱりかわさんて、優秀だったのかしらね。」
「ただのダークホース的なものじゃん?偶然偶然。」
自分の過去の想い人を無能扱いする過去の想い人の部下達は、梨々子の学友の事を知っている口ぶりだ。
「あの、深道を知っているの、ですか?」
水野がにっこりと梨々子に笑い返してきたが、その笑顔は癒しというよりも悪たれな子供が浮かべるそれである。
「いや、だってさ、かわさんが梨々子をストーキングしていたからさ。ちょっとからかってやろうかなって、梨々子の事をあたしらも見張ってたの。」
「え、まさ君が私の事をストーキング?」
「うん。そしたらさぁ、弁当仲間が全部ちょっと難ありっていうかさぁ。」
「ちょっと難ありじゃないでしょう。梨々子、お前はもうちょっとツルむ相手を選びなさいよ。」
「そうそう。深道は頭が逝っちゃっているし、秋月はナチュラルボーン盗人でしょう。息をするように万引きしちゃうから驚いたよ。まぁ、補導したけどさ。」
「あと、小平。あれは陰険だねぇ。あ、梨々子には偽名だっけ。小野マリモ。」
「こだいらだったの!」
梨々子は思わず叫んでいた。
小平和奏こそ梨々子の小学校時代の敵であり、彼女のせいで梨々子は両親の住む世田谷を離れ、当時横浜市に住んでいた祖母の家に閉じ籠ることになったのである。
その半年後に楊に出会った事で梨々子は再び学校に通えるようにまでなったのだが、彼女が世田谷の実家に戻れたのは高校からである。
偏差値が高い所ならば梨々子と話が合う子に出会える上に、小学生時代の知り合いが一人としていないはずだと勧めたのも楊であったのだ。
楊のお陰で梨々子はようやく両親と暮らす事ができただけでなく、日本一偏差値が高い女子高に通える自分という自分への自信をも取り戻せたという過去迄思い出し、憤り続けるどころか梨々子はがっくりと頭を下げた。
その取り戻した自信など、入学して一か月で脆くも粉々に砕け散ったのだ。
高校でも梨々子は受け入れられるどころか、小学校時代と同じく同級生達にスポイルされてしまったのである。
大学のランクを下げてまで楊の近くにいることを決めたのは、梨々子が楊に守られていた頃に戻りたかっただけなのだ。
「あぁ、嫌なこと思い出しちゃった?確かに嫌な子だよね、あの子は。ネットで気に入らない女の子の写真付きで嘘情報ばっかり流していたもの。だから安心して。彼女も私達が補導したから。ちゃあんと教育的指導付きでね。」
首の骨が折れたらこの二人のせいだと思いながら梨々子は再び首を上向け、そして、教育的指導と言い切った佐藤の隣で水野がウンザリとした顔で目玉をぐるりと回した所作を見て、深道の言葉の意味を知った気がしたのである。




