オコジョ使いの本領
灰色の靄の中のような不確かな世界で、車はシルクサテンのように輝く道にかろうじて乗っている。
安定感もなくタイヤが横滑りするようなつるつるの狭い道であるが、僕の従兄はその白く光沢のある道を全速力までもいかないが現状で彼が制御できる速さで、彼の愛するヘリコプターやセスナを操縦する時のような余裕をもって大型のファミリーカーを走らせているのである。
僕は助手席に座りながら、梨々子を連れ去ったものにオコジョで出来た僕の白い道をひっかけて安定させることに集中していた。
何しろ、僕の道が振り払われて途中で千切れたら、僕達は車ごと異空間に取り残されるのである。
これは、青森の武本家からオコジョを全員総動員しての荒業だ。
僕が武本家の絶対的な当主で、当主だからこそ露天風呂を満杯にできる程の大量のオコジョを使役できるのだと、今日こそ自分に感謝した日は無い。
「すごいね。クミちゃんは車の運転もこんなに上手かったんだ。」
「かわちゃんが車の運転についてはプロ級らねっかさ。俺は梨々子をモノにするために日々鍛錬しているんですよ。」
「梨々子が好きなのは運転よりもエンジン改造の方だと思うけどね。」
「知っている。そこが最高。俺のヘリに乗せて、ヘリに何かがあればあいつが修理するんだ。知っているか、ヘリはね、完成された車と違ってね、まだまだ未完成の乗り物なんだよ。恋人と一緒に新たなヘリの提案をしていくなんてさ、理想の結婚生活じゃないか。いい女だよ、あいつは。」
「海里が梨々子に酷いことを言ったのはそれが理由か。疎外感を梨々子にぶつけてしまったって泣いていたものね。吾輩は船しか知らん。ユキもクミも船よりも飛行機の男達だ。吾輩は船に取り残されてしまうってね。」
「バカな話だねぇ。空母を保有ってやつこそ、男のロマンらねっかさ。」
「――僕はそれで海里に言ってやったんだ。男は追うものじゃなくて追わせるものだって。それに、結婚前の独身時代にしか独身女性の楽しみを謳歌できないぞって。海里は友情を取り戻すために日本に航路を向けている。梨々子は赤ん坊を産んでもかわちゃんや葉子さんがいれば旦那はいらない。まぁ、頑張ってね、お兄ちゃん。」
「オコジョはあ!畜生!梨々子は絶対に俺が手に入れる。誰が由貴や海里に渡すか。俺だけの女だ!」
僕は久美の言葉をそのままスマートフォンで梨々子に中継していた。
梨々子がスマートフォンを持っているかは関係ない。
彼の言葉を梨々子の深層に送る行為でしかないので、その時の僕には術具としてスマートフォンが使い勝手が良かったというだけである。
相手が術も悪魔も何も理解しておらず、ただ偶然に召喚術が使えるという楊型の呪術者であるならば、僕も固定概念を捨て去り、新たな呪術者に進化するべきなのである。
全く。
せっかく僕が楊に教育を与えられる指導者になれるところを、強さを失わないために学ぶなと楊に教えることで山口が台無しにしたのである。
何が、普通は会えないからこそ会いに来てくれるものだよね、だ。
お前こそ会いに来い。




