さぁ、ドライブだ!
「オコジョ!どうすればいい!梨々子が連れてかれた!」
大声を上げて梨々子の部屋から居間へと戻って来た男は、僕に初めて見せた焦りの表情のまま、ただおろおろと自分の娘を抱いたまま居間を行ったり来たりするだけである。
矢那でさえ風呂に落ちた猫のように硬直したまま久美に抱かれ、事態の急変にただ脅えて目を丸くしているだけなのだから、梨々子消失の事態は本気で危険なのである。
それなのに、大柄の従兄は僕の目の前で右往左往するだけだった。
葉子が純子の部屋にいる今のうちに、僕達は今すぐ後を追わねばならないだろうにと、覚悟を決めた僕は大きく息を吸った。
「ようこさーん。僕達はドライブに行きまーす。」
「え、おい、オコジョ。」
僕の大声にぴたりと久美は立ち止まり、僕は彼の腕の中の彼の命綱を彼から取り上げると床に下ろし、何か言いたそうな久美の手を引いて玄関へと向かって歩いた。
「あたくしも。」
「君はここを動かないで!」
幼い子供がしゃくりあげた声が背中に突き刺さるが、僕達が梨々子を連れ戻しに行って、そして帰還するためには矢那を安全な場所に置き去りにするしかない。
久美には矢那を一人にできないという誓いがあるはずなのだ。
「ちょっと、オコジョ。ガチョウさんが!」
「靴を急いで履いて。ここから駐車場まで獣道で行く。」
「え?おい!」
僕は久美の腕をむんずと掴むと、自分の言葉通りに獣道を久美の車の真ん前にまで伸ばして移動し、そして一瞬で車の前にいる事に茫然とする久美を自分の車にぶつかるほどの勢いで運転席へと突き出した。
そして、僕はそのまま助手席のドアへと駆け出した。
「え、おい、オコジョ!」
「黙って乗り込んで運転して。車ごとあの世に向かうよ。最初は梨々子と決めていたようだけど、僕が最初に助手席に乗るからね。」
「ははは。いいよ。ただし、梨々子を見つけたら梨々子が助手席だ。」
「いいよ。」
そんなことは覚悟の上だ。




