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断腸の想い

 断腸の思いという言葉の意味を、佐藤と水野は無理やりに思い知らされていた。

 崩れた屍を抱きしめて泣き続ける女は、きっと腸が裂け、血反吐を吐いて死んでしまうまで続くのだろうとしか二人には思えず、さらに言えば、佐藤と水野が死んだとしたら楊はこのように慟哭してはくれないような気さえして、とにかく女の泣き声に気持ちが塞ぐだけであるのだ。


「あたしらはもう戻れないのかな。」


「大丈夫。多分。まだ三日のはず。まだ多分、大丈夫。」


 佐藤は水野に答えながら、物事が終焉を迎えるのは一瞬だという考えから気持ちを引きはがそうと必死だった。


 本当に終わりは突然だったのだ。


 メールを送信できたと喜び合うその時、島根巡査の後ろ、下半身だけの遺体の真横に黒い穴が開き、そこから見える情景はホテル一室のようだが、佐藤達が閉じ込められたぼんやりとした空間とは違う現実だと思える風景が現れたのである。


「あ、出られる!」


 水野は穴へと駆け出し、しかし、穴へと飛び出す手前で島根に引き寄せられた。


「どうして!」


「出ては駄目です!」


 佐藤は島根の静止の声に、自分は下半身だけの遺体の上半身部分の末路を知っていたでは無いかと息を飲み、島根に捕まっている親友の腕を掴んで自分へと引き寄せた。


「うわ!」


 声を上げたのは島根である。

 水野を佐藤に奪われてバランスが崩れたのだが、穴から突き出されてきた女性の両腕がバランスを崩した彼を捕まえ、右腕を掴まれた島根は抵抗することも無く穴の外に右腕を引き出されてしまったのである。


「あぁ、島根さん。早くこっちに戻さないと!」


 しかし、佐藤を動転させて悲鳴に近い声を出した状況にもかかわらず、その状況の危険にさらされている本人である島根の声は脅えも無く安らかなものであった。


「あぁ、花音。君は生きていたんだ。良かった。」


 そして、島根はそこで息絶えた。

 息絶えたとしか佐藤と水野には言えない。

 現実から差し出された手に捕まれた右腕はぽきりと折れ、その衝撃で島根の腕を掴んでいた人物が部屋の中で転んだどさりという音は聞こえた。


 佐藤と水野にはそれどころではない。


 折れて消えた右腕から島根の血液は全開にされた水道から迸る水のように流れ、穴から外へと血は滴り、島根自身は血を失いながらミイラのように体を萎ませていくのである。

 佐藤と水野は抱き合いながら目の前で崩れ落ちる島根を見守る事しか出来ず、そんな中、獣の咆哮を上げて穴から中に女性が飛び込んで来た。


 髪を振り乱した女性が島根を抱きしめた時、島根に意識がまだあったのかは佐藤と水野にはわからない。

 けれど、助けようとして殺してしまった絶望は理解できると、彼女達は抱き合ったまま泣き続けるしかなかったのである。

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