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嘘吐きなので泥棒します

 善は急げという言葉通り、楊は周吉の獣道から飛び出すと、そのまま周吉の世界へと舞い降りた。

 つまり楊には絶対に獣道を繋げられない周吉の持ち物である白波霊園へと、楊は丁度いいとそのまま入り込んだのである。

 実際だったら物理的な徒歩や車という方法しか使えないのだ。

 山口の園長室に入り込むには受付などの面倒もある。

 一分一秒を大事にせねばと楊は、部下の為という大義名分のもとに山口の部屋に潜り込んだとそういうわけだ。


「う、ぐぐぐ。」


 くぐもった声が応接セットの方から聞こえたことで、楊は山口の濡れ場に来てしまったかもしれないと顔を歪めた。


「ふぅ、ぐ、うぐぐ。」


 しかし、声は楊が想像してしまった行為の声とは程遠く感じ、楊はソファの方へと歩いていくと、ソファの背もたれの向こうを覗き見た。

 すると、ソファセットには誰も座っていなかったが、二人掛けソファの足元に縛られた哀れな青年が転がっていたのである。


「あら、大丈夫?どうしたの?」


 楊が慌てて伊予を介抱しに向かったのは、伊予の額に傷があったからである。抱き起しながら楊は、伊予の傷は転がされていたソファから床に落ちる時にティーテーブルに額を掠ったのだろうと当りは付けていた。

 しかし、強くぶつけて脳震盪を起こしていたら危険である。

 まずは急いで猿轡を外し、しかし、楊は戒めを解かなかった。

 猿轡を外した彼の次の動作は、スーツのポケットから取り出したパック式の消毒ガーゼで伊予の額を拭っただけである。


「伊予君。頭はどのぐらいの勢いでぶつけた?気分は悪くないかな?」


「あ、だい、大丈夫です。擦っただけで、頭はぶつけていません。」


「そう、よかった。」


「いえ、って。解いてくださいよ。」


「うーん。これからの俺の行動を君に咎められちゃうと困るからさ、ごめんね。」

 

 楊は伊予に元通りに猿轡を嵌めると立ち上がり、狙うものがある山口の書斎机へと歩いて行った。

 そして机の下を覗いたのだが、彼が探していた物が無い。


「ありゃ。あいつは。俺の行動を見越していたかな。えーと、どこに。」

「机の引き出し。」


 耳元に女性の囁き声が響き、楊はくすりと笑った。


「あれも君だったか。夕夏、もうずっと俺のそばにいなさいよ。」


 少女ではない大人の女性のクスクス笑いを耳元に心地よく感じながら、楊は高級そうな机の引き出しの鍵に向かって左手の人差し指を跳ね上げた。


 バシュン。


 爆発音と火花が散り、鍵があった部分は黒い穴を空けて燻っている。

 楊は鍵のなくなった引き出しを開けると、その中から靴箱サイズの箱を取り出した。

 箱を胸に抱きしめて身を起こすと、床に転んでいた青年は膝立ちで起き上がっており、楊と目が合った。

 伊予は黒煙がたなびく書斎机という状況に茫然とした顔を見せており、楊は青年に向かって軽く片眼を瞑るとそのままぱっと姿を消した。

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