術は思い込みが全て
「畜生、こんなもの。」
「百目鬼さん?」
俺は見つけたそのままそのものへと向かっており、パーティーションに掛けられている女性の手の平くらいのサイズのドリームキャッチャーを取り上げた。
通常のドリームキャッチャーは木の枠に蜘蛛の糸のように糸が掛かっており、木の枠には鳥の羽やビーズが飾られているものであるが、水野の持ち物であるそれは、木枠がピンク紫に塗られている上に、ピンク色の糸で中心がハートの意匠になるように編まれているものだった。
しかし、枠に飾られているピンクの羽とビーズが問題だ。
羽は無理矢理に抜かれたであろうとしか思えない山鳩の羽であり、ビーズが小動物の骨らしき物である以上、それは忌まわしいものとしか言えないであろう。
そしてそれは俺が捨てたいと思う前に俺の手から瞬時に取り上げられ、取り上げた男は忌々しそうにスマートフォンで写真に撮るとそのままどこかにメールを送った。
さらにその証拠物は、髙が取り出したビニール袋に放り込まれて彼の内ポケットに片付けられた。
俺は彼の行動の素早さにもう一度見せろとも言えず、そんな俺の見守る中、彼は再びスマートフォンを耳に当てていた。
「もし。そう、僕。え、知っていた?」
「宮辺さんですか?――術具はこれですか。知っていたって。」
彼は煩そうに顔を歪めると俺から少々離れ、スマートフォンの相手に俺に聞こえないようにしてやり取りをし始めた。
数十秒しないで通話が済んだようだが、彼は長々しい深呼吸までいれて俺の不安を煽り、その上で俺の存在を思い出したかのように、ゆっくりと体の向きを変えて俺を見返してきたのである。
「さらに何かがあったのですか?」
「いいえ。このガラクタを手に入れたのが山口の霊園って情報だけです。」
髙は俺の目の前に自分のスマートフォンを掲げた。
そこには私服で華やいでいる水野と佐藤に髙の妻という三人の美女が、神主姿の山口を囲んでポーズを取っているという画像が映し出されていた。
「今の電話は奥様で?」
「ええ。術具やおまじないの類いならば妻に聞くのが一番です。彼女が言うには、そのドリームキャッチャーは白波の売り物ではなく、この写真を撮ってくれた少女からの贈り物なんだそうですよ。手作りの恋愛祈願の品だそうです。好きになった男性の魂がその網にかかるというね。」
「水野に向かった恋心はそれに引っ掛かって、水野の所には辿り着けないという寸法か。恋敵に贈るにはいい品なのかもな。」
「え、百目鬼さん。」
「だって、そうでしょう。ドリームキャッチャーは、持ち主に向かう悪意を事前にキャッチして持ち主に悪夢を見せないというお守りなんですよ。それが良い夢を呼ぶんじゃない。悪夢を捕まえる魔除けなんです。」
「あ、そうか。やっぱり百目鬼さんは警察官になれば良かったのに。」
「嫌ですよ。あぁそうだ。黒曜石の亀を売っていたという小売店の一つを素人ながら警察官のように張ってみましたがね、客層が見事に若い女性ばかりでしたよ。店員に若い男がいても、一時間眺めて二十人に満たない客は全て女性でした。それだけの事象から導くには強引ですけどね、俺達には時間が無いという事で、俺は犯人が男か女かでは、女だと前提しました。」
「ははあ。それで、妬み嫉みをあなたは言っていたのですね。これは女性の犯行だと。美人を狙った男が美人を虜囚にするために誘拐を企てたのではなく、女性の、それも恋敵に対する排除行為でしかないと。そうか、すると、もとからあの二人は誘拐される予定で。」
「あの場には術具が揃っていたから術を発動させた。ただ、それだけ、でしょう。」
「では、あなたに恋い焦がれる女性が犯人ですか。」
「いいえ。淳平でしょう。最近消えた女性は全員、淳平と接触した者ばかりです。」
「え、そうでしたっけ。」
「そうでしょう。」
「あぁ、あの写真。たった一例で結果に持っていくなんてあなたらしくない。強引ですね。」
「時間が無いのだから仕方が無い。違うとあなたも言わない。間違いは無いようですね。」
「えぇ。もう一例がありますから。山口に助けを求めた公安の女刑事がいます。あぁ、彼女は消えていませんよ。病室で日比野と同じ死に方をしていただけです。」
「それは本人ですか?」
「あぁ、そうか。病室に残っていたのは殆どミイラ化どころか風化しかけている腕一本と致死量の血液だけでしたので、彼女が死んでいるものと見做してしまいましたが、そうですね、この僕としたことが、思い込みは危険ですねぇ。」
「玄人が呪術は思い込みが全てだと言っていました。」
「思い込みですか?」
「そうです。相手に思い込ませることが出来たら、それが術の完成なんだそうですよ。あいつと楊が今一つなのは、相手を騙しきれないからでしょうね。その点で言えばあなたこそ大呪術者だ。あなたこそ、水野と佐藤が的だと思っていたからこそ、俺に声をかけたのでしょう。俺がもしかしたら犯人を知っているかもしれないと想定までしてね。」
「ひどいな。本当に百目鬼さんは僕には意地悪だ。」




