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呪術的な所から消え失せたのならば

 髙は当たり前のように山口に言い放った。


「こんな状態。発見時にはミイラ化した右腕が真ん中に転がっていた。それで、山口には何が起きたか読めるかな。」


「もう、わかるわけ無いでしょう。血の広がり方から噴き出したものでもなく上から零しただけにしか見えませんから、どのように馬淵が襲われたなんか想像も出来ません。そのミイラ化した腕もないし、これは本当に馬淵の血ですか?」


 話ながらも人の血の微かな生臭さも嗅ぎ取っていた彼は、馬淵で無かろうと人が一人は死んでいると確信はしていた。

 そこで血溜まりから目線を上げると、被害者の無念を少しでも晴らせるように、起きたことの一片でも見つけるべく部屋の周囲をもう一度目を凝らして見回した。


 天井に壁、ベッドのカバー、つまり、人が刺されたり、あるいは自分で傷つけたとしても、その怪我を負った時に凶器に付着した血、あるいは傷口から噴き出した血が飛散しただろう痕跡を探したのだ。


「ほんとーに何もない。まるでだらだらと血だけをポットから流したみたいだ。」


「それは僕達もわかっているから、君を呼び出したのはそれ以外をね。」


「え?」


 髙が自分を呼び出したのは山口の経験を期待したからでは無いのかと、山口は髙の返しに呆気に取られてしまった。

 だが、山口の相棒こそ鬼畜と名高い男だったと、山口に懐かしく思い出させる言葉を言い放った。


「山さん鈍い。霊的になんか読んでってこと。」


「ひどい。二人とも、僕を道具扱いだ。」


「うーん。だって、馬淵を入院させて術具を奪った事を俺やかわさんでなく髙さんに報告していたのはいいよ。それは理解できる。でもね、馬淵をここに入れてお終いなんだったらさ、何か術的な守りの一つはしていたかなって、普通は思うでしょう。君の守りから何があったのかの一片でもわかればね、水野達の捜索の手掛かりにはなるでしょう。」


「あぁ、そうか、そうだよね。でもね、君に言った通り僕は幽霊が見えるだけの人で、クロトやかわさんみたいなことは出来ない人なんだよ。」


「え、そうしたら術者に襲われたらどうする気だったの。」


「クロトかかわさんが助けに来るかなって。」


「――そう。それじゃあ、馬淵さんの事は最初から捨て駒?」


「いや。僕がここに馬淵さんを預けたのは、ここは霊的にも安全な場所だから。」


 葉山に対してぼそぼそ声で言い訳を返していたが、山口の言葉にひどく驚いた声を出したのは全ての情報を掌握しているらしき髙であった。


「うそ。」


「え、髙さんが教えてくれた場所だから、髙さんこそ知っていると思ってましたよ。」


「いや、僕もここは公安仲間から教えてもらっただけだし。そうなの?」


「はい。この建物は上から見ると五芒星なんですよ。五角形の建物の装飾と中庭の樹木の並びで五芒星が描かれています。五行のマークも方角ごとにありますし、少々の呪いにも対処できるはずなんです。」


「うそ。」


 同じ言葉を繰り返した髙は摺りガラスになっている窓を開けて、たった十センチの隙間でもそこから建物や中庭を見渡した。


「本当だ。続いている。屋上から確認しなければわからないけれど、中庭の木の並びに今まで気が付かなかった。」


 同じように髙の隣から外を覗きだした葉山も同じ感嘆の声を上げた。


「本当だ。それじゃあ。もしかして、これは馬淵の自殺なのかな。」


 驚かされたのは山口の方だ。

 先ほどの会合では馬淵が日比野愛良を探しており、愛良が島根を殺したという疑いがあるという話では無かったかと葉山の肩を掴んだ。


「友君、何か知っているの?」


 振り向いた彼は嫌そうな顔をして見せた上、頬の目尻に近い場所をピクリと痙攣させた。


「俺は書類に書いてあった事しか知らないよ。島根巡査が消えたのは移動願いを出した翌日だってことくらいしかね。彼の足取りはその後に馬淵と飲食店で見かけられたのが最後だって事も付け加えておく。」


「島根を消したのは、馬淵だった?」


 山口に会いに来た馬淵は、次は自分が消えるのだと山口に語った。

 それに対して山口が馬淵に尋ね返した言葉は、どうしてイイズナを持つだけで自分が消えると言い切れるのか、だ。

 馬淵の答えは、術具を手にした者は報いを受けるから、だ。


「彼女は使ってしまったのか。」

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