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これから内職仕事です

 楊達が辞去して一時間も経たないうちに山口のスマートフォンは振動し、掛けてきた相手が無視できない人間だったと彼はうんざりとしながら電話に出た。


「何でしょう。」


「馬淵が死んだ。」


「まさか。」


「来れる?」


「行きます。」


 答えて通話を切った所で、山口は今の自分は髙の部下では無かった筈だとがっくりとしゃがみ込んだが、彼に使われる事にはなぜか心が浮き立っていた。


「あぁ、俺って根っから彼の兵隊さんなのかな。迷うことなく馬淵の事はあの人に報告しちゃったし。俺は一生髙さんの駒なのかなぁ。」


「どうかしましたか?」


 気配が無かった気配の出現に山口は驚きながら声のする方へと見返し、そこには白波であって白波でない子供が少々緊張した面持ちで山口を見下ろしていた。


「君こそどうしたの。」


「えぇと、あの、これから淳平さんは一昨日に誘拐した人の所に行くのですよね。」


「えぇと、その日は君はお休みだったよね。」


 伊予は返事をする代わりに無造作に左の袂に右手を突っ込み、袂から取り出したスマートフォンを山口が見守る中数回指先でタップし、それから時代劇で印籠を翳すようにして山口に見せつけた。

 一分も無い動画だったが、内容は山口の私室である園長室での隠し撮りの映像である。

 山口が馬淵に当て身を喰らわせて気絶させた後に、彼女を抱えて部屋を出るまでの短い動画を山口は眺めながら、その動画を撮ったカメラは周吉が部屋に設置した本棚の本のどれかなのだと気が付いた。


 位置と角度を考えながら本棚を見返せば、山口でも梯子を使わねば届かない上から二段目の左から三冊目、その本は今後も山口が手に取ることは無い本だった。


 古語にしか思えない文体で書いてある神教に関しての本格的な学術書など、宮司資格があるとしても、山口には読む気どころか手に取る気など一生起きないからだ。

 さらに言えば、山口自身が本棚の事を舞台の小道具だと思い込んでいたのだから、敢えて本の位置を変えたり抜き出したりなどするわけは無いのである。


「はは。やられたね、周吉さんたら、全く。それにかわさんも。かわさんが見つめていたのはカメラか。あの人は本当に狸だね。それから君も。君はやっぱり白波の子供なんだね。」


「なんだか険のある言い方ですね。僕はお祖父ちゃんに淳平さんの身辺警護も頼まれていたってだけですよ。変なファンの子が部屋に入り込んだりしたら大変だって、お祖父ちゃんが。だから、バイトの日はまず早送りで室内の様子を確認して。」


「そう。どうして僕が女性を誘拐したと知っていてお祖父ちゃんに黙っていたの?録画を確認したのは朝一でしょう。彼女は僕に殺されるか酷い目に遭わされたかもって、考えなかった?」


 伊予は山口の言葉に見るからに言葉を詰まらせ、それから昔の玄人のように頭をがっくりと下げてしまった。

 山口はその姿に伊予の哀れな身の上を思い出し、さらに玄人の誕生日の夜からの自分の情けなさまでも思い出し、気が付けば伊予の左肩を掴んでいた。


「あの、ごめんなさい。」


 伊予の弱々しい子供のような謝罪の声に、山口ははっと我に返った。

 伊予は両親が離婚した時に母親に引き取られたが、母親は離婚した半年後には再婚している。

 再婚後に生まれた子供二人は彼と血が繋がった弟妹となるのであろうが、彼はその家庭の中で異物のような気持ちで成長し、いるのかいないのかわからないという存在感も取柄もない子供として、つまり、自分が家族の邪魔にならないようにして生きてきたようなのだ。


 彼の妹の矢那による話では。

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