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何でも拾う男 だった!

 山口は嬉しそうな笑顔で葉山達の元へと箱を抱いて戻って来て、葉山は山口が近づくにつれて強くなってくる鼻につく臭いにぞわりと怖気が走り、山口の抱える箱の中身を見ないで帰りたいとさえ考え始めていた。


 しかし、そんな葉山とは反対に楊の眼は見開かれ、なぜだがとてつもない期待に打ち震えている様子さえもあるのだ。


 葉山は楊のその姿に、葉山が予想した言葉を楊が発した時点で楊を引きずって帰り、同僚の行方不明事件は別視点で捜査することさえも決意せざるを得なかった。


 山口が小学生のような満面の笑顔を見せているのだから猶更だ。


「えっと、俺は見るよりも言葉で説明の方がいい。」


「ええ。友君はオコジョを見たがっていたじゃない。本物だよ。オコジョ。これ、本物のオコジョなんだよ。」


 小動物を楊に押し付ける気が満々のような山口は、見せたいと言っていた葉山へではなく、楊に見せつける様にして小箱の上部をぱかっと開いた。

 中にはガーゼと牧草が敷き詰められており、そのガーゼは白かったものが生き物の糞尿でところどころが茶けてる。

 そんな小汚く獣の臭いの充満する箱の中にいた生き物は、体長が二十センチ程の腹が真っ白な以外は茶色の小さなイタチであり、それには左後ろ足が無く、さらに言えば前脚は両脚とも時々ビクビクと痙攣するという不自然な動きなのである。


「オコジョってこんなに小さいの?」


「ううん。もっと大きいよ。この子は大怪我したから成長が阻害されたんじゃないかってね、僕はそう聞いている。」


「そう。赤ちゃんのまま大きくなれない子なんだ。」


 一瞬玄人の姿が葉山の脳裏に浮かんで呟いてしまったが、アンモニア臭が強すぎる生き物を葉山は触る事に躊躇してしまった。

 けれど葉山と違い、楊はそんな哀れな生き物の様子を見るや、さっと箱の中から取り出してしまい、それどころか熱心に、鼻が曲がるほどに臭い生き物に顔を間近に近づけた。

 楊は密に細にその生き物の状態を確認しているようで、葉山は楊の好きにさせることにした。


 哀れな生き物が楊の手に入った途端に、葉山こそ先程迄の嫌悪感がすっと消え、その代わりに保護したいという庇護心が湧いてき始めたのである。

 いや、この小さな獣を自分が飼いたいという気持ちまで、彼の中で急に芽生え始めたのだ。


 その小型の肉食獣は葉山の庇護心をさらに掻き立てようというのか、見ず知らずの楊の手の中に捕まれても脅えるどころか、楊の右手の指先を弱々しく両手で掴んで、まるで乳飲み子がミルクを強請るように齧り付いているのだ。


「山さん、俺達に見せたという事は、このオコジョを証拠物件として俺達に持って行って欲しいって事だよね。」


「友君、それは違う。」

「違うよ。」


 楊と山口が同時に葉山に答え、山口は言葉を続けるどころか年長者の楊の言葉を促す事にしたらしい。


「違うって何がですか?」


「これはオコジョじゃないよ。イイズナの方。最小のイタチ。かわいい。可愛いけど、かなり痛めつけられたんだね。それで、この子が行方不明の女の子とどう関係があると言われているの?」


「え、あ、オコジョじゃ無いのですか?」


「え、山さんは知らなかったの。」


「当り前でしょう。僕は今までオコジョだと思っていたもの。僕が違うと言ったのは、持って行って欲しいとは思っていないって事。ねぇ、かわさん。これはオコジョじゃなかったの?赤ちゃんサイズのオコジョじゃないの?」


「違うよ。これはこれで成獣。この子の尻尾は短いし、本物のオコジョはこれよりも体が大きくて尻尾は長い。これはオコジョの赤ちゃんどころか成獣のイイズナ。冬毛だったら一目でわかっただろうね。イイズナは尻尾の先が黒くならないから。」


「どうしてかわさんは獣医や動物園の飼育員などを目指さなかったのですか。」


「うるせぇよ、葉山。俺が高等数学がからっきしな事をディスってんのかよ、この東大野郎。」


 楊は部下を罵倒しながら左手だけで自然な動きでスーツを開くと、中に着ていたベストの胸ポケットから小さな何かを取り出した。

 そして、彼の右手に齧り付いているその小さな生き物にそれを差し出したのである。

 楊によってイイズナと訂正された生き物は、楊の指が摘まんでいる小さな干し肉に大喜びで齧り付き、干し肉に齧り付いたがために楊の指先から離れたイイズナを楊は箱の中に戻した。


 そしてその箱はテーブルでもテーブルの下でもなく、山口に返す事もなく、楊の横にそっと置かれたのだ。


 楊は持って行こうとしている!

 山口が駄目だと言っても、持って行こうとしている!


 落ちている生き物は何でも拾って持ち帰るという楊の真髄を見たようで、彼の自然すぎる動きは葉山には感嘆しかないが、楊がスーツの下に着ていたベストには違和感しか湧かなかった。

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