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霊園にて

 葉山は以前は凄惨な遺体遺棄現場であった場所に初めて足を運んだのだと、少々空しい思いを抱きながら周囲を見回した。

 ここで楊の班が連続殺人事件を捜査した時には、葉山は姉の元夫に車で轢かれて大怪我をしており、暴力夫から逃げていた姉は葉山が助けるどころか入院している間に百目鬼によって救われていたという、自分の無力さを味わっていた過去を思い出させられたのである。


 そして、自嘲もしていた。


 葉山が玄人への気持ちを忘れようと悩んでいる間に相棒だった男に玄人を奪われ、安アパート住まいだった巡査が、今や来訪者で賑わっている人気霊園の経営者なのである。


「一度も来たことが無かったどころか、事件ファイルも読んでいないから、なんだか自分一人浦島太郎みたいですね。」


「俺も来る度に浦島太郎な気持ちだから気にしないで。なんかさぁ、霊園っていうよりも、昭和のテーマパークっぽくない?」


「かわさんたら。」


 死体櫓が作られていた現場は、小さな祠に土産物屋や団子屋までもがある憩いの神社となっている。

 そこから見下ろせる広大な遺棄された農地だった荒地は、いまや整地されて霊園として墓石を連ねているだけでなく、イギリスのキューガーデンを彷彿とさせる温室や現代的なドームまでも建てられていた。


 また、そこかしこに案内のためか惑わせるためかわからない看板が立ち並び、そのために、非日常どころか非常識な様相なのである。


 そんな風景を見回しながら楊と葉山は足を運び、遂に社務所と言う名の事務所があるという西洋の霊廟を大きくしたかのような白亜のビルに辿り着いた。


「老若男女全てを魅惑する神主が納まる場所が霊廟って、いい皮肉なのかな。」


「かわさんたら。とにかく園長室に行きましょう。」


 葉山と楊は山口に連絡を取ると、平日の昼前で参拝客も少ないからと園長室にそのまま向かって欲しいと言われていたのである。

 そして、園長室のドアを開けて再会した葉山の元相棒は、神主の格好という白装束姿だったが、彼の写真で廃刊間近の経済紙を売り切れにさせた事を誰もに納得させる神々しさだった。

 葉山と楊は、自分達を出迎えた山口が自分達に向けてくれた笑顔に、自分の胸がどきりと高鳴った気さえした。


「久しぶり、友君。」


「すごいな、山さんは。もう雲の上の人って感じだね。君のデスクも後ろの壁一面の本棚も、君の趣味というよりもインタビューを受ける学者の研究室みたいだ。」


「はは。そう、これは君の言った通りに、来客を煙に巻くための周吉特製の舞台装置だよ。高額の墓所の購入者に、僕が宮司の資格を取って三か月も無いって気付かせないための小道具なの。」


「おや、霊感商法をしているという告白なら君をここからしょっ引かなきゃ。ねぇ、かわさんって、あら。」


 葉山が自分の横を見返せば、楊の姿は既に無く、彼は山口の書斎机の前に立って、机の後ろにそびえる大型の本棚を背筋を伸ばして眺めていた。

 その姿はまるで高い所にいる小鳥を狙う猫そのものである。


「かわさん。何か気になるものでも?」


 しかし、答えたのは山口だった。


「呪術についてはかわさんは読まない方が良いですよ。読めばかわさんは力を失います。そういうものなんです。」


 山口に振り向いた楊の顔は酷く驚いているもので、葉山は何の能力も無い自分には入り込めない話題だと思いながらも、楊よりも先に山口に尋ねていた。


「どういうこと?」


「そう。どういうこと?俺が知っちゃいけないって。」


「まぁ、まずソファに座って下さい。」


 山口がソファに楊と葉山を誘うと、答えが欲しいらしき二人は渋々という風に窓側の二人掛けのソファに座り、山口は対面となる扉側にある二つ並ぶ一人掛けのソファの一つにくすくすと笑いながら座った。

 山口は楊達と一緒の空間が懐かしく楽しいと、目の前の彼等に笑顔を向けた。

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