無事の便りと新たな手掛かり
水野と佐藤、そして鑑識の三名が消えてから三日も経ったのだが、昨夜の楊のスマートフォンに水野からのメールが届いていたのである。
葉山は楊の差し出した画面を食い入るように見つめたあと、溜めていた息をほっと吐き出した。
「あいつら、生きてますね。良かった。生きて動いている。」
「ポンがこの情報を持って戻って来たんだ。これで大丈夫って言うのはわかったけれど、交信は後一回しかできない。」
「戻って来たポンは場所がわからないのですか?」
「パンがいるからさ、わかったはわかったんだけど、彼女達を閉じ込めている空間は始終ぐるぐると動いているようなんだよ。」
「動いていると道を作ることが出来ないのですか?」
「獣道こそ目的地を確定しなければ伸ばせないんだ。だからさ、助けるにはね、やっぱりホシを捕まえて術を破るしかない。君は警察庁の人でしょう。全国での類似事件ぐらいは検索してくれたんだろうね。」
「えぇ。俺が思う類似ってだけですけどね。昨年と一昨年にありました。女子大生失踪事件です。一昨年は熊本の実家に帰省中の田陸恵茉。自宅の自室から消えています。昨年は東京です。こちらも今回のように一人暮らしのマンションの自室からの消失でした。」
「東京の子が過去形で名前も言わないのはどうして?」
「今回の遺体だからです。DNAが入間未知に合致しませんでしたので行方不明者のデータと照合しまして、日比野愛良と確定しました。」
「あれ、日比野愛良って。あれ、どこかで。」
楊は自分のスマートフォンを取り出すや住所録を検索し始め、その様子に葉山は楊と被害者に親交までもあったのかと、ぞっとしながら覗き込んだ。
画面は「は行」の名前ばかりだが、それは見事に女性名だらけで、それも数年楊の部下をして彼の私生活を知ってもいる葉山が知らない名ばかりである。
「すごーい。かわさんの神髄を見たって気がしますよ。いつのまにこんなに女性と知り合っていたのですか。」
「梨々子の大学の同期の子だよ。変な子がいないか確認しないとね。変なサークルとか変な団体さんに勧誘されて変な事になったら怖いじゃん。」
「――全部、調べたのですか?」
「うん、ピン達が。ちびが住所さえ知ってればオコジョを飛ばせるっていうから。」
楊が謹慎で特対課の課長を外されていた時期、上に異を唱えるどころか精力的に内職をしていた楊の姿を葉山は思い出していた。
「課長職を解かれても全く平気どころか喜んでいたのは、そんなろくでもないことをしていたからなのですね。」
「いや。俺は普通に窓際好きだよ。仕事をしないで給料を貰えるなんて最高じゃないの。」
「はぁ。――それで、変な子はいました?」
「要注意が二人いたね。秋月葵って子は手癖がかなり悪い子だったし、このは行の深道結愛って子は、うーん、言いたくない。とにかく、梨々子に近づけたくないって子だね。」
「二人だけで良かったですね。結果がわかったのならそのデータはさっさと消さないと。見つかった時に問題になりますよ?」
「でもさぁ、大丈夫そうな子は全部消してね、残してあるのはその二人含めたアラート組の三十五名なの。それでもまずいかな。」
「アラートがそんなに?」
「うん。梨々子が昼休みに一緒にいる子達がさ、みんな梨々子と違う学部の子だからね、同キャンパスで別学部も全部含むことになっちゃって。」
葉山は過保護すぎる若い祖父が出来た梨々子嬢にかなりの同情を捧げてから、楊の住所録には日比野がなさそうだと話題を変えた。
「かわさんは先日警視庁の人と合同捜査してましたから、そこで聞いたのでは?」
「合同捜査はしていたけど、公安でもないただの県警刑事の俺は蚊帳の外だし、捜査内容は麻薬使用の宗教団体でしょ。麻薬も合成麻薬の奴で……。でも、君がわざわざ言うという事は、関係者の関係者だった?」
「日比野愛良は警視庁の馬淵花音巡査の実姉の配偶者の従妹です。」
「あぁ。思い出した。そうそう、馬淵さん。山口に相談していたんだよ。そうだ、そうだ、その時にその名前を聞いたんだ。」
「山口に、ですか?かわさんでなく?」
「そう。だって、山口は髙の秘蔵っ子じゃない。髙はあの合同捜査で俺をないがしろにして大将になっていたからね。無能な肩書だけの俺なんか眼中なんかに無いでしょう。」
「山口の外見がそこらのアイドル以上だからですよ。」
「お前だってそこらの俳優以上だろ。」
「はは。かわさんが言いますか。」
二人は取りあえず山口に馬淵の相談内容を聞き出すために席を立った。
警視庁の公安の馬淵よりも、近所で営業している霊園の経営者となった元同僚の山口の方が捕まりやすいというだけの話である。




