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かわさんのお守り

 氷のように冷たい佐藤の声と楽しそうに指を鳴らす水野に脅えたか、男達は慌ててじゃんけんを始めた。

 佐藤と水野は誰かがツナギを脱いで下着になればいいと考えていたのだが、彼等は負けた二名の人間がシャツを差し出すだけにとどまり、しかしシャツを二枚手に入れられた男が、一枚をパレオのように下半身に巻けばいいからと健気に喜んでツナギ達を庇った。


 そこで二人は彼に免じて、ツナギ男達を殴り飛ばす事を一先ず先延ばしにする事にした。


「すいません。本当にありがとう。それで、ですね、鑑識の青いツナギからあなた方が神奈川県警だとお見受けしますが、楊勝利警部補って方をご存知ですか?」


「え、あたしらの上司。今は警部だよ。」


「え、あなたは警視庁の方でしょう。県警の流され署の人がそんな有名人なの?」


 佐藤は右肩に水野の体当たりを受け、佐藤の後ろでは鑑識連中達が佐藤を鬼だと囃し立てている声まで聞こえた。

 彼女は軽く唾を飲み込むと、警視庁の刑事が楊を探している訳を聞こうと彼を見返した。


「あら。」


 すると男は全てが元通りというような安堵の笑顔を浮かべており、佐藤は元々見栄えの良い男の笑顔の輝きに少々ぐらついてしまい、彼になぜかを聞き返す言葉を失ってしまっていた。


「ねぇ、どうしてかわさんに会いたいの?」


 百目鬼という完璧な外見の男に夢中な水野だからか、彼女はハンサムな巡査に全く絆される様子はないようだ。

 その上、佐藤が水野をありがたいと思う事に、佐藤こそが尋ねたかった質問を巡査にぶつけてくれていた。


「え、だって、神奈川県警の特対課の課長でしょう。公安では有名ですよ。自分は公安の死人探索班ですからね、尚更。それでこんな状態ですから、もしかしたら彼なら助けてくれるかなって。」


「あぁ、そうだね。うん。あたしらがいるからさ、写真撮ろう。写真。そうだよ、スマートフォンが生きていれば、かわさんに連絡できるじゃん。」


「あ、そっか。クロが通話が繋がれば空間も繋がるって言っていたわね。」


「ほら!スマートフォンはあるか!」


 水野の声掛けに青ツナギ達も自分のスマートフォンを探し出したが、取り出されたスマートフォンはどれも壊れていた。

 ところが、壊れてもおらず電池が切れていない物が一つだけ見つかり、それを取り出した水野こそ不思議顔を見せていた。


「あれ、なんであたしのスカートのポケットにかわさんのスマートフォンが入ってんの?それも生きてる。」


 知らぬ間に自分のポケットに入っていれば気味が悪いだけだが、そのスマートフォンの裏面には達筆な字でポンと書き殴ってあり、その字は佐藤と水野が見間違えるはずのない楊の字であれば水野が脅えるはずなど無い。

 水野はスマートフォンを大事そうに持ちなおした後に、その角をそっと撫でた。


「ポン。いい子。」


「どうしてみっちゃんがかわさんのスマートフォンを持っていたの?」


「え、知らないよ。ポケットにこの子を入れた覚えないし。大体取り出して自分で吃驚よ。このポケットはスマートフォンサイズじゃ無いもの。」


 佐藤は楊が自分達へお守りか何かを飛ばしたのだろうと理解したが、自分ではなく水野の方へという事に少々どころか傷ついてもいた。

 水野と楊は兄妹のようにメールをし合い、水野の部屋の合鍵さえも楊は持っているのだ。

 水野は誰にでも受け入れられる。

 それに比べて、自分は好きになったどの男性からも、いつだってその他大勢の扱いしか受けない。


「どうした?さっちゃん。急に暗くなって。とりあえずこれでメール打とうか?」


「あ、そうだね。」


 佐藤は何もないようないつもの顔をいつものように親友に向けたが、楊のスマートフォンが自分にはなかったというその事実が重く辛く、スマートフォンが入っていた水野のポケットを羨むように自分のパンツのポケットを探っていた。


「うそ。」


「どうした?」


 デザインだけでハンカチも入らないポケットは四角く膨らんでおり、その四角いものの存在に佐藤は一瞬で有頂天になっていた。

 そしてそれを錯覚で終わらせるものかと、佐藤は少々乱暴な動作でパンツのポケットから彼女が欲しかった物を取り出したのである。


 彼女はまるでお年玉をもらえた五歳児のような感慨に陥っていた。


 普段の佐藤がしないこと、スマートフォンにチュっとキスしただけでなく、大喜びの声までもあげていたのだ。


「やった!私の所にもあった。私のは、パンだ。パーン!」


「そっか。かわさんはオコジョを三匹持ってたもんね。これはその子達なんだね。じゃあさ、どっちの子を今回使う?」


 佐藤は自分が情けないろくでなしだと自分に認めた。


「え、さっきから写真を撮ろうって言っていたのはみっちゃんでしょう。ポンよ。」


「えぇ、あたしももう少しポンといたかったのにさぁ。」


 佐藤はパンを上着の内ポケットへと片付けた。

 大好きな楊を胸元に隠しているような気持ちになりながら。

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