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高3の夏、親友がギターを始めたら、僕らの人生が変わり始めた件 ―Guitar Kids Rhapsody―  作者: 御樹本 正輝


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7/8

7 有終之美

「アンコール! アンコール!」


聴衆の中から、アンコールを要求する声が聞こえた。そして、その声はどんどん数を増していった。大きなうねりになっていった。


舞台袖で汗を拭いながらヒデキは訊ねる。

「どうする? 何やる?」

ポカリスエットを飲んでいたカズヤは「どっちでもいいよ」とぶっきらぼうに答えた。

実は念のためにアンコール曲を用意していたのだ。

「LADY NAVIGEATION」「BAD COMMUNICATION」の2曲だ。

ヒデキは「アンコールをやる?やらない?」と確認していたのだが、カズヤはやる気まんまんで「どちらの曲を演奏するか」の確認だと勘違いしていた。

「林、曲のデータはどっちが先?」

「BAD COMMU」が先です。

「じゃ、そっちで」とカズヤはすんなり決めてしまった。


「ごめん、俺はLADY NAVIをやりたいんだけど」

遮るように珍しくヒデキが主張する。

「BAD COMMUは打ち込みがあって完成する曲だろ」

「最初から最後までギターと歌だけで勝負してきたんだ」

「最後くらい、俺たち二人だけで終わりたい」

林は少し考えてから口を開いた。

「カズヤさん、最後はシーケンサーなしで、LADY NAVIやりません?」

挿絵(By みてみん)


20秒程度のインターバルで、ステージに戻ってきた。

「温かい声援、本当にありがとうございま~す!」

「アンコールまでやらせてもらって感激です。時間もまだチョットあるみたいなので、もう1曲だけお付き合い願います」



結果的には2日間開催された数々のイヴェントの中で、もっとも盛り上がった内容だった。

全校生徒のほとんどが知らないままに進めたライヴだった。

「おい、カズヤ。先生方になんて言って許可もらったんだよ」

「さぁ、一緒に謝りにいこうか?」カズヤはイタズラっぽい笑顔でヒデキに言った。

後ろでやりとりを聞いていた林は吹き出した。

「マジで謝んの?」ヒデキは不安そうに言う。

「こういうのはやったもん勝ち」カズヤはまったく悪びれてない様子だ。



「失礼しま~す」と二人は職員室に入っていった。

もちろん、サングラスは外し、衣装がわりのスーツは制服に着替えて。

「すみませんでした。ハメはずしすぎちゃいました」

とカズヤは頭を下げる。ヒデキもそれに合わせてスミマセンと頭を下げる。

すると職員室から拍手が起きた。

教頭が口を開いた。ヒデキはこの先生と仲が良かった。

反対にカズヤにとっては天敵のような存在だった。

「我々も若い頃は、とんでもないことをたくさんしてきたんだ」

「あんまり頻繁にやられても困るけど、事故もなく、みんなが盛り上がったから良かったじゃないか」

とお咎めもなく、二人は無事に解放されることになった。

二人はほっと胸をなで下ろした。


……と思った、その時だった。

職員室を出ようとすると、教頭はカズヤだけを呼び止めた。

どうやら校旗掲揚のポールを滑り下りたことが問題らしい。

「馬鹿な奴。すぐに調子に乗るんだから」とヒデキは助け船も出さずに職員室を後にした。

そのやり取りを見ていたカンナは何も言わなかった。ただ、誕生日を祝ってくれた無茶な生徒を思い出し、クスリと笑っていた。

ちなみに、翌日のカラオケ大会でも、カズヤはまた何か騒ぎを起こしたらしい。



指先はまだ熱を持っていた。弦を押さえ続けた左手がじんじん痛む。でも、その痛みさえ心地よかった。

ギターを弾けば、誰かが笑う。誰かが手を叩く。その声が、自分をもっと前へ進ませてくれる。

ヒデキはケースを肩に担ぎ、夕暮れの校舎を見上げた。指先の痛みは消えない。でも、その痛みは今日という一日を忘れさせない勲章のようだった。

「また、弾きたいな」

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