4 疾風迅雷
オープニングに選曲したのは、この春発売されたミニアルバムから「孤独のRunaway」。
「いきなりギターから始まるんじゃイヤだろ?」
そう言ってカズヤが決めた曲だ。学園祭のタイムテーブルの空白を乗っ取るため、カズヤと林は細工を施した。林のSEの直後、オリジナル音源にカズヤの声と自分たちのハモりを重ね、わざと大きめに響かせてから沈黙を作る。校内のざわめきだけが残り、空気が張りつめる。
その静寂を切り裂くように、ヒデキのギターが走り出した。鋭く、前へ突き進むイントロ。
“逃げ出す衝動“をそのまま弦に乗せたようなフレーズ。林のキーボードが控えめに土台を支え、中庭にいた学生たちが一斉にステージへ視線を向ける。ヒデキもカズヤもまだ姿を見せない。
ヒデキは赤いシャツ、カズヤは青いシャツを着て、ハッキリとしたコントラストを演出し、黒のスーツでビシッと揃えた。「太陽のKomachi Angel」のジャケット写真から二人でイメージを模索し、手配した衣装だった。
下手から歩きながらステージに向かうカズヤの声が静かに立ち上がる。
語りかけるようなトーンで、しかし芯の強さを秘めた声。胸の奥がざわつくような緊張感に、中庭にたむろする学生たちがいつのまにか“観客”へと変わっていく。
音が広がるBメロに入ると、カズヤの声に熱が宿り、観客の手拍子が自然に生まれる。
その波がサビへ向かって膨らんでいくのが、ステージの上からでもわかる。
サビに入った瞬間、空気が弾けた。
カズヤの声は一気に前へ飛び出し、観客の手拍子が中庭の奥まで広がる。
「……すげぇ」
ヒデキは思わず笑ってしまった。右手の指は震えているのに、ギターは勝手に力を増していく。
サビの熱を受けて、ヒデキのギターが前面に出る。観客が息を呑む気配がわかる。
でも初舞台のヒデキには、反応を確認する余裕なんてなく、ただ必死に音を紡ぎ続ける。
カズヤが歌い終えるたびに、視線がヒデキへ集まる。
ギターが終われば、今度はカズヤが前へ出る。
二人だけのステージなのに、間が空かない。
まるで呼吸しているようだった。
再びギターだけがステージを支配した。より長く、より攻撃的に、高音域へ駆け上がる。観客が拳を突き上げ、熱がさらに増す。
カズヤはその音を受け止めながら、一歩後ろへ下がり、ペットボトルの水を口に含み、ラストのサビへ向けて呼吸を整える。
ラストのサビ。カズヤは声を限界まで張り上げ、ヒデキのギターはさらに高く、さらに鋭く駆け上がる。カズヤの最後の一声が空気を支配し、観客はその余韻に飲まれたまま固まった。
その余韻を引き込むように林のキーボードが「太陽のKomachi Angel」のイントロを奏で始める。
ヒデキは息を整えた。まだ一曲終わっただけだ。それなのに、もうステージを降りたくないと思っていた。




