74話 打算的な友人の謀略
「よく見ていてください?これが‼悪女の加護の力です‼‼」
閃光と共に魔物が現れた瞬間、わたくしはドレスの中に隠し持っていた短剣を取り、追い風に乗って魔物を切り裂いた。
「キャアァァァァァアア‼‼魔物‼魔物が生まれた‼」
「悪女の加護は魔物を生むんだ‼‼」
誰かが叫び、その叫びにまた誰かが叫ぶ。
まずい‼悪女の加護と聖女の祝福を反対の効果と強調しているから‼
魔力の高い貴族達も聖女の祝福を体に刻み込むようになってしまう‼‼
「待って‼違う‼誤解でしてよ‼‼魔物を本当に作っているのは聖女の祝福で‼‼」
「プ‼アハハハ!無理ですよセイラン様、人間一回ケチがついた物はそうそう信用しません」
「ふざけるな‼‼これは何なんだ‼‼」
わたくしが笑うミックに怒鳴ろうとすると、先にミックの胸倉を掴んだのはイバンだった。
普段冷静な彼がここまで怒るのは珍しい。
……これはミックの単独行動???
怒るイバンにミックは余裕の笑みで答える。
「そんな怒んなよ、元宰相子息様には分かんねぇだろうけどさ、俺本気で宰相になりてーの。んで、カイゼルはもう王太子から外れちまったし、だったら別の飼い主見つける方が良いだろ??」
阿鼻叫喚の最中、その状況に似つかわしくなくミックはゆったりと答え、チラリとわたくしの後ろを見た。
つられて見るとそこにはカイゼルが居た。
「カイゼル悪い‼俺実は陛下のネズミなんだわ!」
ニカッと爽やかに笑う彼はどう見ても悪びれているようには見えなかった。
考えてみれば、西の塔からカイゼルを逃がしたのもミック、悪女の加護を考えたのもミックだった。
「カイゼルを西の塔から逃がしたのは……国王??」
ミックと出会うときはいつも食堂か教室付近。
学園の入り口、ライナスの居る場所では会ったことが無い。
「そそ、やー色々とゆっくり話しても良いんだけどさぁ。セイラン様とカイゼルはやばいんじゃねぇの??」
ミックの言葉に我に返り、振り返ると遠目にジリジリと警備の騎士や衛兵がやってきていた。
「ミック、やりたい事は終わったのか?」
わたくしとイバンが焦っている中、カイゼルは落ち着いた声で淡々とミックに聞いた。
その声には怯えも焦りも苛立ちも何も無い。
その様子にミックも驚いたらしく目を見開いてカイゼルを凝視している。
「もう一度だけ聞く、やりたいことは終わったのか?」
「…………もう、ほとんど終わって、後は待つだけ……だな」
???
二人の会話の意味が分からずにイバンと顔を見合わせていると、カイゼルは真剣に頷いてわたくし達全員を逃げるように促した。
「じゃあこの混乱に乗じて逃げよう。ミックも一緒に」
カイゼルが服の中に隠していた小さな笛を取り出し、思い切り吹くと甲高い音がした。
そして次の瞬間一陣の砂嵐が舞い、わたくし達は何とか逃げられた。
入口付近に居たドミニクと合流し、馬車で十分に王宮から距離を取った後に馬を買い、少し遠回りをしながら王都の端にあるいつもの森へと入った。
そこで、ケビンお兄様や野獣部隊の面々とも合流した。
「……カイゼル、説明してくれないかしら?なぜこの裏切り者を連れ帰ったの?」
ドミニクと合流したとき、地面に魔法陣を押しつけていた。
だからドミニクの魔力が回復して砂嵐の魔法を使えるようになったことまでは良い。
でも、裏切り者のミックに怒らない理由が分からない。
「多分、ミックは裏切っていない。そうだろ?ミック」
「…………」
一応縄で手首を後ろに縛り付けているミックは、信じられないものを目にするようにカイゼルを凝視していた。
「いやいや!何で分かったんだよ!悪役風にしてた俺スゲー馬鹿みてぇじゃん!」
「何となく、が一番の理由だけどミックは宰相になりたいのに、ケビンもこっちについている状況で陛下につくのはおかしいと思ったんだ」
「それで?なぜ裏切ったフリなどした?聖女の祝福が広まれば俺の帝国はさらに危険にさらされる。答えによってはその首、胴と別れると思え」
「逆、ですよ。ケビン皇太子」
ケビンお兄様が睨みつける中、ミックはまるで悪戯が成功したかのように笑顔で返した。
ミックの話をまとめると、わたくし達が帝国に行っている間に陛下と繋がりを持ち、手を組むことになった。
陛下の狙いとしては貴族の魔力。
そのため今回の茶番が実行されたということだった。
陛下の動きが全く無かったのも、ミックが全て情報を流して操作していたため動く必要が無かったということだった。
そしてミックの狙いは……。
「ドミニクさん、聖女の祝福はどこにどうやって刻まれますか?」
「尻に近い腰ですね。生まれてすぐに王宮役人の魔力検査を受けた後に家族、通常はその親が入れ墨を入れます」
ドミニクの答えにミックは満足そうに頷き、カイゼルを見た。
「聖女の祝福は普通どこの家庭でも受け継がれている、教会にある聖女の祝福の原本を各家庭で写して入れ墨を入れんだ。カイゼル、お前が親だとして聖女の祝福がちゃんと刻まれていないと大変なことが起こる、そんなときどうする?」
「えっと……聖女の祝福を確認するかな」
「そ、皆聖女の祝福を刻む回数なんてほとんどないから不安で仕方が無い。だから教会にある原本を見に行く。
だからさ、俺その原本に線一本足したんだよ。魔法陣は少しでも内容が変われば作動しない、今頃、スゲー勢いで描き替えられてるぜ。聖女の祝福」
「「「‼‼‼」」」
「待ちなさいな!じゃあ今頃魔物は!」
「スゲー勢いで消えていってると思いますよ」
ミックの言葉を聞いた瞬間、ケビンお兄様は動き出した。
小さな紙とペンを持ってこさせ、何かを書くとそれをカイゼルに渡す。
「カイゼル!これをコーディ―に持って行かせろ!帝国の皇宮、皇帝陛下宛だ。夜明けと共に帝国から騎士団を王国に向けて攻めさせる」
「分かった‼」
カイゼルはすぐさまコーディを出し、手紙をくくりつけて飛ばした。
通常鳥はグラス王国の国境から出た時点で撃ち落とされやすいが、コーディであれば夜の闇に乗じて人の目を盗み国境を越えられる。
「全員聞け‼またとない好機だ‼‼夜明けと共に王宮に攻め込むぞ‼‼このくだらない争いは明日‼完全に終わらせる‼‼」
ケビンお兄様が声を張り上げると、野獣部隊の面々は重く頷いた。
ただしわたくし達、グラス王国組はカイゼルを見た。
なぜならわたくし達の王はケビンお兄様ではなく、カイゼルだから。
カイゼルは照れくさそうに頭を掻いてから真剣な顔をした。
「ミックが頑張ってくれてまたとない好機が来た。大事に、そして大胆に行こう!でも俺には皆の命が一番大事なんだ、どんな怪我でも俺が絶対治す。だから死なないでほしい‼
明日を平和の始まりの日にしよう‼‼」
「「「仰せのままに、我らが王よ」」」
わたくし、ドミニク、イバンはゆっくりと頭を下げた。
ミックだけがちょっと悪戯っぽくカイゼルを見る。
「カイゼル、実力の証明としてこれ以上ないだろ?」
「十分すぎるくらいだよ、未来の宰相」
カイゼルとミックはわたくしの目から見て、まるで昔からの友人の様に笑い合っていた。
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