75話 残された騎士道
※アスラン視点です。
私、騎士団長アスラン・マーティンは騎士の中の騎士と呼ばれ、31年前国王陛下に忠誠を誓った。
「騎士アスラン・マーティン。
謙虚であれ、誠実であれ、礼儀を守れ、裏切ることなく、欺くことなく、力無き者には常に優しく、強者には常に勇ましく、己の品位を高め、堂々と振る舞い、民を守る盾となれ、主の敵を討つ矛となれ騎士である身を忘れるな」
31年前、私は14歳で首席入団を果たした。
騎士としての生活は夢の様でとても楽しかった。
入団から21年後、私が最も期待している弟子、セイランと出会った。
「またか……」
「どうした?ありゃ!公爵家の令嬢から手紙じゃないか⁉モテる男は違うねぇ!」
友人のアーロンが冷やかしてくるが、私としては全く嬉しくない手紙。
これが騎士としての私を尊敬しているという内容だけなら嬉しい。
だが、内容は剣の指導をしてほしいというものだった。
「何が楽しくて、子供の、しかも令嬢の剣の指導なんてしないといけないのか……」
「まー、そう言ってやんなよ。大事な守るべき力無き者の一人だ。案外お前の所のライナスと良い縁談でも出来るかもしれないし、一度行ってみろよ!」
私は大きなため息を吐いてその三日後、アーヴィン公爵家へと向かった。
令嬢は小さいながら可愛らしい顔立ちで私に屈託なく話しかけてくる。
男の恰好はしているが、剣を持ちたいというくらいだからもっと男勝りな子かと思っていたんだが……。
「あー、それじゃあ適当にその棒を振ってみてください。何か悪いところがあったら言いますんで」
「分かりましたわ‼どんどん指摘してくださいまし‼」
意気揚々と令嬢は剣に見立てた棒を振り回し、私はその姿に目を見開いた。
なんだ、この動きは。
まるで本当に誰かと戦っているように避け、剣を受け止め、打ち込む。
小さい姿でヒラヒラと舞うその姿は美しく、まるで小さな小鳥が遊んでいるかのようだった。
どちらにしても、令嬢の動きではない。
思わず手を掴み、マメを確認するとまだ真新しいマメが出来ていた。
木の棒を振り回してからそんなに経っていない。
「……失礼、セイラン様はおいくつで?今の動きはどこで覚えたのですか?」
「わたくし7歳ですわ。あの動きは一斉試合の時のアスラン様の動きを真似てましたの」
小さな令嬢、いやセイランからは私はあんなにも楽し気に、そして美しく映っていたのか。
彼女は金の卵そのものだった。
私はセイランの剣の師となり、彼女はメキメキと実力をつけて行った。
そして、セイランに出会ってから6年後、地獄の日々が始まった。
「アスラン・マーティン、貴殿を騎士団長に任命する」
謁見の間、厳かな雰囲気に包まれる中、私は騎士団長となった。
地位に執着は無いが、騎士団長はまた別だ。
全ての騎士の憧れであり、騎士の象徴的存在。
飛び上がらんばかりの喜びに包まれる中、前騎士団長はただただ悲し気に下を向いていた。
そんなにも、騎士団長の座から降りることが嫌なのか??
私が騎士団長に勝つようになったため、前騎士団長は降格、それなりに年齢がいっていたため引退しても問題無かったが彼は騎士団に残り、現在は私の補佐である副団長を務めてくれている。
「アスラン・マーティン、お前にはこれよりある魔法陣の守護の任を与える。詳細はそこの副団長から聞くといい」
「?はい、承知致しました、陛下」
訝しむ私を残し、陛下は去り、私は副団長に連れられて王宮の地下、そのまた下の隠された空間へと向かった。
「団長……いえ、副団長、これは?何の魔法陣なのですか?」
真っ暗な空間でその魔法陣は禍々しく、青白く光り輝いていた。
鼓動しているかの様にその光は強弱をつけて光輝いている。
「……アスラン、いや騎士団長、これからは貴方がこの魔物を作る魔法陣を守るのです。コレは平民の魔力を搾り取り、世界の各地へと魔物を出現させる魔法陣。
そして、グラス王国を世界一の国へと導く手段、これを守ることがこのグラス王国騎士団長の務めです」
「…………」
言葉が出なかった。
平民の魔力を搾り取る?
魔物を出現させる?
そんな物を守ることが、務め?
「このことは我々しか知りません。騎士の誓いに背く行為をするのは一番上の、選ばれた人間だけでいい」
騎士の誓い。
謙虚であれ、誠実であれ、礼儀を守れ、裏切ることなく、欺くことなく、力無き者には常に優しく、強者には常に勇ましく、己の品位を高め、堂々と振る舞い、民を守る盾となれ、主の敵を討つ矛となれ騎士である身を忘れるな。
王国民に嘘を吐くことは誠実とは程遠い。
平民の魔力を搾り取ることは、裏切りではないだろうか。
聖女の祝福と偽ったその魔法陣をひた隠すのは、欺くことにはならないだろうか。
王国の平民こそが力無き者、それなのに私は何をしている?
慣習に従い、家族さえも騙す私は権力という強者に負けている。
己を恥じ続けるその姿に、品位も何も無い。
心より堂々と振舞うことなど不可能だ。
民を守ることも出来ていない。
主の敵を討つ矛、そして謙虚であること、それだけが私に残された騎士道。
「私は……一体何をしている?」
どれだけ悩んだだろう。
どれだけ苦しんだだろう。
果ての無い悩みは私を蝕んだ。だが……。
「アスラン?どうしたのかしら?フフフ!そんな腑抜けた顔では今日こそ一本取りましてよ!」
悩み、悩み、悩み疲れた時、愛弟子であるセイランが目に入った。
『いいですか?もしも、英雄や聖女を見つけたら魔物で殺すかそれとなく事故で殺してください。彼らはこの魔法陣を壊す役目を担っている』
聖女や英雄を正面から殺せば、民が黙っていない。
そして、殺し損ねた時にグラス王国が世界の敵であることの確固たる証拠を残してしまう可能性がある。
そのため魔物を利用するか事故を装えと言われた。
聖女や英雄は魔法陣を壊す役目を担い、生まれたときから魔力を多く持ち、異常な部分があるという。
セイランは英雄か聖女だ。
我が愛弟子は気配を読む力も、剣に対する執着も異常そのもの。
なら、セイランが全てを終わらせてくれるのか?
私のこの苦悩に満ちた人生も、この国王以外喜ばない悪辣な慣習も全て終わらせてくれるのか?
国王はセイランが魔法を使えないことで、聖女や英雄から除外している。
今の内に力をつけさせて、そしていつか私よりも強くなったら……。
「いつか、セイランが私よりも強くなったら良いといつも思っていた。私に残された騎士道は謙虚さと主の敵を討つこと。
考え続け、それでも私の残された騎士道だけは守り抜きたいと思った。
私に陛下を裏切ることは出来ない。だから……」
「だからわたくしを強くして、戦って負けたい、そう思ったのかしら?」
魔法陣の一つ前の部屋、最後の砦となる大広間で秘密の階段から彼女は現れた。
誰よりも傲慢で真っすぐで、純白の姿が美しい私の愛する弟子。
「あぁ、戦って敗れたい気持ちもある、セイランに死んで欲しくない、傷ついて欲しくない気持ちもある。だが、そんなことはもうどうでもいい。最期の勝負といこうか、我が弟子よ」
私はゆっくりと剣を抜き、セイランに向けた。
普通なら、戦うことを嫌がるのではないだろうか。
だが彼女もゆっくりと剣を抜き、微笑みながら私に剣を向けた。
「フフフ!無様ね、アスラン・マーティン!貴方の言う最期の勝負、受けて立ちましてよ‼」
私達は睨み合い、そして動き出した。
もうどちらかが死ぬまで止められない戦いを、始めてしまった。
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