71話 兄上はポンコツですか?
騎士の誓いの二日後、わたくしとカイゼルは学園に馬車で向かっていた。
「…………セイラン、手を握っていても……」
「フフフ!あら?カイゼル、学園ごときが怖いのかしら?」
先日までわたくしも怖がっていたことは棚に上げて、カイゼルの手を握ると彼はほっとした様に息を吐いた。
カイゼルが自然と弱さを見せてくれて、それだけでわたくしは顔がほころんでしまう。
馬車が止まり、通常であればカイゼルが先だが今回はわたくしが護衛として先に降りた。
わたくしの後にカイゼルが姿を現した途端、どよめきが起こる。
「カイゼル殿下だ」
「なんで悪女と」
「聖女と一緒に居るんじゃなかったなのか??」
「やぁ、おはよう。ちょっと訳あって身を隠していたんだが、そこをセイランが助けてくれてね。聖女様との噂は全部嘘だ。
俺が心の底から愛しているのはただ一人、このセイラン・マルティネスだけだから、そこのところよろしくたのむよ」
カイゼルはわたくしの隣に立ちながら、近場の男子生徒達に向けて言い放った。
「カイゼル‼‼‼」
男子生徒が何かを言おうとした瞬間、わたくし達の次の馬車から、怒号とも思える声でウィリアム殿下が降りてきた。
「おはようございます兄上」
「呑気に挨拶をしている場合か‼‼貴様が見つかればリリは……」
顔面蒼白で告げるウィリアム殿下にわたくしは密かに安堵してしまった。
ウィリアム殿下からは最初に再開した日以来、全くと言っていいほどにリリアンの話が出ない。もう完全に気持ちが無くなってしまったとしても、あまりにも薄情ではないかと思っていた。
カイゼルは柔らかく微笑みながら、ウィリアム殿下に囁いた。
「ご安心下さい、聖女様の力は唯一無二に等しい、そんな彼女をみすみす陛下が殺すとは思えません。交渉の材料になりそうな彼女の家族は既に俺の侍女と共に遠方に避難しています」
にっこりと笑いかけると、カイゼルはウィリアム殿下から少し離れた。
「それよりも兄上、少し話したいことがあるのですがご一緒に昼食はいかがでしょうか?」
「…………あ、あぁ、いいだろう」
何だか変な感じね。
ウィリアム殿下が現王太子、カイゼルは選ばれなかった第二王子であるにも関わらず、カイゼルの方が圧倒的に王に近しく見えてしまう。
誰にでも優しく接し、ウィリアム殿下には敬語を使っているのにどことなく威厳のある雰囲気を漂わせている。
「ありがとうございます、じゃあ、行こうかセイラン」
「えぇ」
カイゼルに促されて、学園の方に踏み出した瞬間にウィリアム殿下がまた大声を張り上げた。
「ま、待てセイラン‼‼」
「……兄上、いつからセイランを名前で呼ぶようになったのですか??彼女はパース帝国の皇女です。ちゃんと許可は取りましたか?」
珍しくカイゼルが低い声で脅す様に言い、当のウィリアム殿下はもちろんわたくしも周囲の者も目を丸くした。
というか、そういえば……。
「そういえば、許可した覚えは無かったわね。何となく流れで呼ばれてそのままになっていたわ」
「……いや、その…………」
どもるウィリアム殿下にこれまた珍しくカイゼルは彼を睨みつけていた。
「今、私は喪中なので正式ではありませんが、セイランは俺の婚約者です。兄上には立派な聖女様という婚約者がいらっしゃるでしょう。他の女性を呼び捨てにしては要らぬ火種を生むのでは??」
「っ!……そうだな、マルティネス嬢、失礼した」
「よくってよ」
わたくしが護衛であることを忘れたのか、カイゼルはわたくしの肩を抱き、引き寄せて学園の入り口に向かう。
「よぉ!カイゼル‼久しぶりだな!すげー怒ってんじゃん!」
「カイゼル殿下お久しぶりです」
ミックとイバンが入口の所で迎え入れてくれたことで、カイゼルも我に返ったらしくわたくしから手を離した。
「久しぶり、二人とも元気そうで何よりだよ」
カイゼルを教室まで送り、流石に授業中は護衛が不可能なのでわたくしは自分の教室に戻り、授業を受けた。
授業が終了し、昼。
鐘の音と共にカイゼルの教室に窓から入り、わたくし、カイゼル、ウィリアム殿下は食堂に向かった。
いつもウィリアム殿下が使っている様なテラスに向かうことはせず、人払いを事前にお願いしてあった従業員用の個室に昼食を持ち込む。
ウィリアム殿下の取り巻きがついて来ようとしていたが、殿下が断ってくれたおかげで三人での食事だ。
「兄上、単刀直入に聞きます。今でも聖女様を愛していますか?」
「「は?」」
わたくしの予想では、カイゼルはウィリアム殿下を引き込むのだと思っていた。
でも急に愛しているかと聞くので、ウィリアム殿下と共に素っ頓狂な声が出てしまった。
カイゼルはわたくし達のそんな様子を気にもせず、スープを一口飲む。
「……質問の意図が分からない…………何なんだ」
「以前なら当り前だと答えていましたね。残念です、兄上はちょっと自分の思惑と違う部分が見えれば相手を見限る」
「……貴様にそんなことを言われる筋合いは無い‼‼何なんだ一体‼‼」
「…………聖女様のあの男好き、俺はずっと不思議でした。それで西の塔で一緒に居た時に聞いてみたんですよ、なんでそこまで色んな男の所に行くのか、兄上だけじゃいけないのかって、そしたら彼女、分からないと答えました」
「分からない??」
「ただ単純に好きだから、男を漁っていたのではなかったの??」
基本はカイゼルに任せようと思っていたのに、思わず口を挟むとカイゼルは柔らかく微笑んでわたくしの頬に優しく触れた。
「そう、俺もただ男好きでちやほやされたいからだって思ってた。でも違った。兄上、彼女は今、謎の恐怖の中に居ると俺は思っています。兄上はこの国の実態をどこまでご存じですか?」
話が段々際どくなってきたため、周りを確認するが聞き耳を立てているような不躾な従業員は居ない。その代わりミックとイバンが先回りして隣の部屋に居るが。
「どこまで?とは……」
「……兄上も国外に出たことがあるなら気がついたでしょう?平民のこと、陛下は平民の魔力を使ってある魔法を作動させている。そのせいで聖女は傷ついて世界そのものを恐怖しています。
そして、どこかに居る自分を守ってくれる王子様を探している。俺はそう思います。」
「???リリが?だがリリは聖女ではない」
「正確には半分しか聖女じゃない、が正しいです。兄上はポンコツですか?」
「な‼‼貴様‼‼」
カイゼルの突然の暴言に怒り、ウィリアム殿下がカイゼルの胸倉を掴みに来たところをわたくしは軽く殿下の手の軌道を変えてカイゼルに当たらないようにした。
それにしても、カイゼルらしくない。
彼は人一倍、ポンコツという言葉に敏感なはずなのに……。
そんなわたくしの思いとは裏腹に、真剣にカイゼルはもう一度聞いた。
「兄上答えてください、兄上はポンコツですか?」
「ふざけるな‼そんな訳ないだろう‼‼」
ウィリアム殿下怒鳴り、カイゼルは平然と頷いた。
「そうです。俺がポンコツじゃなくなったからと言って兄上がポンコツになったわけじゃない。産まれた時から俺よりもずっと優秀で、魔力が多くて王族特有の碧い瞳をもつ、それが兄上です、今も昔も」
「カイゼル??お前何を……」
「それと、兄上は今聖女様以外に気になる女性が居ますね?貴方はその女性を始めどう思っていましたか??何をしましたか?」
カイゼルの言葉にウィリアム殿下は驚愕の表情をして、わたくしを見た。
すかさず、カイゼルがわたくしの手を握ってくる。
「え?」
「……うるさい、貴様には関係ないだろう」
「そうですね、兄上が誰を好きだろうと行動を起こさなければ関係ありません。ですが兄上、弟としてこれだけは言わせてください。
お願いですから今、自分がもっているものを見るようにしてください。
兄上が優秀なことに変わりはありません、聖女様が兄上の婚約者であることに変わりはありません。
婚約の過程で魔法がどれだけ使われたのかは分かりませんが、彼女の力なら今、兄上を無理やり好きにさせることも出来たはずです。でも、兄上は今正常に見える。
彼女は助けを求めている、彼女と自分をちゃんと見てください」
「…………」
切々とカイゼルは訴え、黙り込むウィリアム殿下。
しばらくすると、ウィリアム殿下はポツリと話し出した。
「聖女の力が……無いと分かったとき、リリは悩んでいた。…………アレは私を洗脳するかを悩んでいた??リリは私を信用して力を……」
「俺には分かりません、聖女様は近々俺に接触しにくるはずですからその時に聞いてみてはいかがですか?そして、一緒に陛下から聖女様を助けましょう!」
「………………」
ウィリアム殿下はまた黙りこくってしまったが、気持ちはほとんど固まっている様に思えた。
何となくウィリアム殿下とリリアンがこちら側になりそうな雰囲気に安心すると共に、わたくしはカイゼルが若干怖くなっていた。
彼が本気でリリアンを助けたいと思っているのはこれまでの経験から分かる。
彼は優しい。でも、話のもっていき方が上手すぎて……。
実はカイゼルは相当腹黒い、なんてことないわよね???
これも全て聖女の力によるものだと願いながら、わたくしがカイゼルの手を握り返すと、彼は柔らかい笑みで返してくれた。
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