69話 決闘
「おい、聞いたか?あの傲慢悪女の噂!」
「聞いた聞いた‼貧民街を買い取ったんだろ??」
「それだけじゃない‼一夜にして貧民街のゴロツキを一掃したとか!」
「いやいや、流石にそれは尾ひれがついているだろ」
「嘘だと思うなら貧民街に行ってみろよ!ゴロツキ達が皆、町を掃除していて笑えるぜ‼」
「良い話題になっていますねぇ」
貧民街のゴロツキを一掃した日から二日後、学園の食堂で、ブレントが胡散臭い笑顔で語りかけてきた。
「少し噂に惑わされ過ぎないかしら?つい7,8カ月前までわたくしの事を傲慢悪女と蔑んでいたくせに」
ゴロツキ達を従えたその日、わたくしは王国の騎士団を呼びつけ、彼らの罪などを詳細に記録してもらった後に牢屋に空きが出るまで町に貢献させることとなった。
ついでに悪女の加護を貧民街の住人に、幸福が訪れるお呪いとして教え、聖女の祝福は貧民街ではカイゼルの頑張りもあり徐々に無くなってきている。
あとは剣闘場でも悪女の加護を多用して平民に見せれば、少しずつ広がっていくはず。
そう、悪女の加護は少しずつ広まってきているけれど……。
わたくしはグラス王国騎士団のことが気がかりだった。
騎士団の中にはわたくしを見て目に涙を浮かべる者、歓喜する者、俺は知っていたと平然としている者、様々だったが……。
アスランのあの反応は…………気になるわね。
アスランはわたくしと話しながらも、一度も目を合わせてくれなかった。
本当に知らない人に接する様に淡々と事務的にゴロツキ達の処遇を話し合うその姿は、まるでわたくしに帰ってきて欲しくなかったみたいだった。
『グラス王国騎士団の上層部もこの件に関わってる。どこまで関わってのかは分かんねぇけど』
以前、ライナスが言っていた言葉。
その言葉が本当なら騎士団長であるアスランに隠れて、魔物の魔法陣を守るのは不可能ではないかしら??
ザワザワと嫌な考えが頭を埋め尽くしていった。
幼少の頃からの剣の師、アスラン・マーティン。
まだ一度も勝てたことが無い。パース帝国で強くなったとはいえ、帝国騎士団長との勝敗は327敗1勝。
例えば奇跡的にアスランに勝てたとしてもそれは、手加減など入る余地が無い正真正銘の本気。
もし、アスランが魔法陣を守っているなら……。
アスランかわたくし、どちらかが死ぬ戦いになるかもしれない。
でも。
もし、アスランが魔法陣を守っているのだとしたら、なぜわたくしを育てたのかしら??
アスランだったらわたくしの異常性に気がつきそうなのに。
「セイラン様、聞いていますか??」
「へ⁉あ、何かしら?」
ふと気がつくと、ブレントはわたくしの目の前に何かの設計図を出してくれていた。
「だから、剣闘場の設計図です。通常剣闘場は地下に剣闘奴隷達を入れる場所を設けているのですが要らないですよね?
必要なのは武器庫、控え室、観客席、剣闘場の4か所だけのシンプルな作りにして金額を抑えます」
「えぇ、それで構わないわ……というか、貴方とてもやる気ね。引き受けてくれる気になってよかったわ」
わたくしが言うとブレントは少年の様に拳をパタパタとし始めた。
「そりゃあもう‼あんな大立ち回り見せられたら頑張るしかないじゃないですか‼
あぁ、本当だったら数百人を相手にした戦いも見れたら良かったんですけどね‼
ただ、今回のことで多少貧民街の印象は変わりましたが、それでも安心感はまだ無いので隣町から貧民街の剣闘場までは花の道を作るのはどうでしょうか?」
「花の道⁉」
ブレントはコクリと頷いた。
「セイラン様が完全に掌握されている道、そこだけを守れば良いとなれば守る側の負担は大分減ります。しかもセイラン様の色、白い花の道を作れば不衛生な印象も少しは払拭されますよ!」
「素敵ね‼いいわそれ‼」
「おい、早く行って来いよ‼」
「で、でも……」
「行けって‼」
わたくしとブレントが話し合っていると遠くの方で何やら揉めている声が聞こえてきた。
居るのは男子生徒数人。その中の一人をその他の全員が押しやろうとしてきている。
押しやられた気の弱い男子生徒は、おずおずとわたくし達の方に声をかけてきた。
「あの……決闘を…………」
「それは貴方の意思かしら?」
間髪入れずに聞くと、気の弱い男子生徒は途端に泣きそうな顔になった。
なるほど。
わたくしが噂通り強いのか、それとも噂だけなのか、気にはなるけど自分達が傷つくのが嫌だから気の弱い男を行かせたということね。
「何て無様なのかしら」
わたくしの言葉に、自分の事を言われたと思った男子生徒はビクリと肩を震わせた。
そんなものは無視し、わたくしは立ち上がり食堂で聞き耳を立てている生徒たちを一瞥した。
「そんなにも噂が気になるというなら再現してあげましてよ‼‼今日の放課後‼魔法鍛錬場で待っているから、わたくしに挑める者は来なさいな‼‼相手が数十だろうと、数百だろうと構わないわ‼‼
わたくし相手には魔法を使ってもよくってよ‼‼」
全員がシンと静まり返り、誰も何も言わない。
誰もが納得したものだと思い、わたくしは席に座り直して目を見開いているブレントと話を進めた。
食堂で言い放ったのだから、少なくとも食堂に居る者達は全員決闘に来ると思っていた。
そう思っていたのに……。
「……集まったのは、これだけかしら??」
わたくしの決闘に集まってくれたのはブレント、ミック、イバン、他名前を知らない男子生徒2名と気の弱い男子生徒、そしてなんとウィリアム殿下だった。
魔法鍛錬場に出てきているのはわたくし達と審判に呼んだ教師含めて9人。
だが観覧席の方には全校生徒と思われる人数がそろっていた。
「セイラン、今度は初めから本気で行く」
闘志燃えるウィリアム殿下や他3名の男子生徒に比べて、ブレント、ミック、イバンはわたくしのために集まってくれたようだった。
「「ブレントに呼ばれまして」」
「数合わせは必要でしょう。見た目には派手に勝って欲しいですから。あ、でも手加減はしないのでご心配なく」
「フフフ!いいわね、ならわたくしも本気で行かせてもらうわ‼」
決闘と言っても、本当の決闘とは違い、魔法大会とほぼ同じ規則で進行する。
腰にガラス玉をつけ、相手のガラス玉を割るか敗北宣言をさせれば勝ちとなる。
カイゼルもここで戦ったなんて変な気分ね。
魔法鍛錬場は魔法大会にも使われる場所。
わたくしは剣を正面に構え、目の前の7人を見据えた。
7人の男達も各々剣を構えるなり、姿勢を低くするなりして準備を整える。
「始め‼‼」
パキキキィーン‼‼
「「「「…………え?」」」」
教師の合図と共にわたくしは追い風を使い、彼らのガラス玉を全て打ち砕いた。
ヒュッと風を斬る音と共に、剣に付いたガラスの破片を飛ばす。
「あら?審判、号令が遅いのではなくって??」
「エ……あ!勝者‼セイラン・マルティネス‼‼」
「「「「「ウォォォォオオオオオオオオオオオ⁉」」」」」
大地も壁も、手に持っている剣でさえ揺るがすほどの歓声が響きわたった。
「スゲェ‼‼見たか今の‼」
「見えっかよ‼てか、カッケー‼‼」
「悪女‼次俺‼俺とやってくれ‼」
「俺も‼‼」
「あの、私魔法は自信あるので女だけどいいですか??」
「フフフ‼面白くなってきたわね‼女も男も年齢も何も関係なくってよ‼教師も生徒も卒業生でも何でもかかってらっしゃいな‼遊んであげましてよ‼‼」
わたくしが声を張り上げると、続々と観客席に居た面々が下りてきて勝負を挑んできた。
あぁ、とっても楽しいわ‼‼
「フフフ!それで、わたくしに負けた者達には、この悪女の加護を入れたリボンを配ったら案外好評だったのよ??」
夜、わたくしはカイゼルの所に来ていた。
彼もまた、治癒を施した人達に悪女の加護を配っている。
「…………」
「カイゼル??」
カイゼルは何かを考えこみながら口に手を当てて、ずっとわたくしのことを見ている。
「カイゼル?」
「え!あ、ごめん……考えごとしてた、何だっけ?」
へへっと頭を掻きつつもカイゼルの表情は暗い。その様子を見てわたくしは思わず顔がほころんでしまった。
「カイゼル、悩み事かしら?聞いてあげましてよ‼わたくしに相談してみなさいな‼‼」
「……あ、その…………相談、というか提案になるのかな、嫌だったら断ってくれていいんだけど……セイラン、俺の護衛をしてくれないかな??朝から晩まで一緒の専属の護衛として……」
「え??」
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