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68話 強者の特権


貧民街を統べる盗賊集団は主に三つ。


女性や子供には手を出さない人情派、グレン盗賊団。

誰彼構わず襲う凶暴極まりない烏合の衆、チャド強盗団。

そして、納税などを行い守る代わりに金品を徴収する自称正義の味方、メルヴィン自警団。


それぞれがなわばりを持ち、貧民街の勢力として均衡を保っている。


「……で、貴方達はどこに属するのかしら?お頭とやらはどこかしら?」

「一応その……メルヴィン自警団でして……」


「「「自警団⁉」」」


わたくしも馬車から降りたイバンやブレントも目を瞠った。



馬車が囲まれて19対1でこの自称自警団とわたくしは戦ったのだが、内容は呆気ないものだった。

全員一撃ずつで落ちてしまい、あとは作業的に持って来た縄で締上げていくだけ。


彼らは貧民街の住人、魔法が使えないため弱くても仕方が無いのだが……。


物足りないわ。


わたくしはため息を吐いた。

自称自警団なら、まだまともで犯罪はしておらず、わたくしの部下に出来ると思っていたのに……。


「これが自警団だなんて、頭が痛くなってくるわね。それで?お頭はどこに居るのかしら?」

「いやそれが……」


「下っ端過ぎてどうせ知らないのでしょう」


口ごもる強盗、もとい自称自警団の代わりにイバンが言った。

それにコクコクと自称自警団達は同調する。


「ハァ~~~~。わたくし、この作業を何回すればいいのかしら??」


下っ端が居場所を知らないとなると、もっと上の人間を捕まえなければならない。

どこまで上に行けば知っているのかも分からないし、あと二人お頭的存在が居るとなると気が遠くなる。


お頭的三人に会い、これからはわたくしが貧民街を納めること、わたくしに全面的に従うこと、犯罪者は捕まえることを伝えなければならない。

もちろん、拒否権は無し。言うことを聞かなければ実力行使込みだ。


「……あ、あの…………」

「何かしら?」


ぼんやりとこれからのことを考えていると、わたくしの元にフラフラとやってきたのは10代前半と思える痩せた子供。

先ほどの大立ち回りで馬車の周囲に徐々に貧民街の住人が集まってきている。


ちょっと危険ね。


御者は元々わたくしの護衛騎士にさせているとはいえ、貧民街の住人は栄養失調の者が多い。

襲われた場合、あまり雑に扱ってしまうと死に直結してしまうことも考えられる。


「これから……守ってくださるんですよね、聖女様……」

「はぁ⁉」


子供の切実な願いに思わず素っ頓狂な声が出ると、周囲の大人達も子供に続いてわたくしの目の前に跪いた。


「聖女様」

「あぁ、聖女様‼」


目の前に徐々に増えていく信者に対し、わたくしは背中に寒気が走った。

パース帝国でわたくしを純白の悪女様と呼ぶ彼らとは何かが決定的に違う。


わたくしは子供の腕を引っ掴んで立たせた。


「止めなさいな‼わたくしは悪女でしてよ‼‼」

「聖女様じゃ……ないの?」


違う、そう答えようとした瞬間に捕まえていた自称自警団達がゲラゲラと笑い始めた。


「そいつらは縋るしかねぇんだ‼否定してやんなよ、お姉ちゃん‼」


「ギャハハハ‼力の無ぇヤツはあるヤツに縋る‼‼それがここの決まりなのさ!突き放したら可哀そうだろ?俺達が守ってやっていたっつーのに、急に聖女様だなんて薄情な奴らだな‼」


「突き放すことが…………可哀そう??守ってやっていた?…………そう、分かったわ」


わたくしは困惑する子供から手を離し、剣を抜いた。

潰した方の刃ではなく、鋭利な斬れる刃を向けて自警団達に近寄り、追い風に乗って一瞬のうちに彼らの全ての縄を斬る。


わたくしの巻き起こす風に、沸き上がる怒気に、自称自警団も信者達もライナス達も静まり返った。


「わたくしが間違っていたわ。ただのんびりと勢力を味方につけられれば良いと思っていた。でも、こんな弱者達に〝わたくしの納める土地〟を‼もう一秒たりとも我が物顔で歩かせたくないわ‼‼」


わたくしは言うと共に、一番目の前に居た自警団を蹴り飛ばして立たせた。


「自称自警団の弱者達‼‼わたくしは今晩ここを動かない‼貧民街中に叫んで来なさいな‼己を本当の強者とのたまうなら‼この新しい領主、セイラン・マルティネスの首を取りに来いと‼」


時が止まった様に誰も動かず、近くに居た自称自警団を睨みつけると彼らは蜘蛛の子を散らすように走って行った。


「もしもわたくしを謀れば‼その時は覚悟なさいな‼‼」


彼らの背中に思い切り殺気をぶつけ、最後の脅しをかける。

そしてまだ固まっているライナス達の方を向いた。


「ライナス‼イバン達を連れて帰りなさいな‼邪魔でしてよ‼」

「いやいやいや‼貧民街中のゴロツキを相手にするつもりか⁉いくら姫さんでも……」


ライナスが詰め寄って来る中、わたくしは親指と中指をこすり合わせてライナスに見せた。

彼の魔法を使うときの代替動作だ。


(カイゼル達が動かない様にして頂戴な。ライナスにしか頼めないことでしてよ)


場所を思い描き、ライナスを見つめると彼は思い切り悔しそうな顔をした。


「…………分かった、ヤバかったら魔法を使って逃げろよ姫さん」

「フフフ!わたくしは真の強者、そんなことにはならなくってよ‼さぁもう行きなさいな‼」


「ちょ、ちょっといくら何でも無茶……うっ‼」


ライナスは大声を上げていたブレントを手刀で気を失わせ、続いてイバンも落とし、御者と共に粛々と馬車に乗せて行ってくれた。


貧民街の民間人は心得ているのか、既に逃げている。


わたくしは細く長く息を吐き、自分を落ち着かせた。そして何度もやった、音も無く戦う時の感覚に体をもっていく。


怒りで火照った体に心地いい風が吹く。

周囲は嵐の前の静けさという言葉が似合う程に、しばらくの間不気味な静寂を保っていた。


突如、わたくしは呼び動作なく回転し、後ろから近づいていた男の脇腹を剣で殴った。

男は呻き、その背後の脇道から一人の男が出てきた。



「ハハハ‼本当に上玉じゃねぇか‼お嬢ちゃんが本当に領主だって言うのか?ここは国の所有する土地だぜ??」


「王太子を使って買い取ったわ、それよりも貴方がメルヴィンかしら??」


30代後半の色黒の男は気持ち悪い視線で、わたくしを舐めまわす様に見ている。

丁度雲の切れ目に月が顔を出したとき、ニヤニヤと嫌な笑いを携えた数百人の男達が示し合わせた様に出てきた。


「あぁ‼偉く美人な女が俺達を待っているってんでな‼ついでに言うとそことそこに居るのがチャドとグレンだぜ?美人なお嬢ちゃん?」


メルヴィンの反対側には、確かに小物らしくない雰囲気をまとった黒髪茶色の瞳の男、恐らくチャドが舌なめずりをして立っていた。


そして遠くの方に、金髪隻眼の男、恐らくグレンがじっとこちらを伺い見ている。


「相手に不足は無いわ‼‼来なさいな‼弱者達‼」


わたくしが剣を構えると、一斉に男達は襲い掛かって来た。


カイゼルが見たら発狂するわね。


呑気なことを考えつつ、わたくしは一人ずつ確実に仕留めていった。







『悪女はさ、もっとこう、デッケー魔法の方が良いんじゃねぇの?適正は合ったんだろ?』


パース帝国に居たとき、ホンザに言われた。

わたくしの魔法の追い風は、わたくしの体を正面と後ろに二分割した際に、後ろと判断される所であれば、ほとんど横であろうと風は吹かせられる。


そのため、調整すれば跳ねるに近いが空だって飛べる。

けど、言い換えればただの移動補助でしかない。ホンザの炎の雨やベア隊長の熊の土人形と比べれば攻撃範囲は極端に狭い。


『魔力量がヤベェ程あんだからもっと魔法らしい魔法にすりゃあよかったのにな!』

『あら!魔力量は効果範囲が小さい魔法でこそ使えるのよ?フフフ!まだまだね、ホンザ‼』


魔法に悩んでいる時にベア隊長に言われた。

わたくしは魔力の量が多いから、本来ちょっとした移動補助であるはずの追い風の魔法で空も跳べるのだと。


魔力の密度がとても濃いらしい。

それは、自身を守る盾にもなりえると。






「おらおらどうしたんだお嬢ちゃん‼もう降参か⁉」


色黒の男、メルヴィン自称自警団男がわたくしの身長よりも大きい斧を振り回して襲い掛かって来る。


彼が斧を地面に打ち下ろすたびに地響きの様な振動と音が伝わってきた。

武器が大きい分隙は多い、だが……。


「ギャヒヒヒヒヒ‼この上玉は俺のモンだ‼誰にも渡さねぇ‼‼」


メルヴィンに打ち込もうとすると、即座にチャドが割って入って来る。

一人では勝てないと見て、お互いを牽制しつつも連携しているらしい。背後からも雑魚達が襲い掛かって来る。


「フフフ!気持ち悪い手でわたくしに触れないで頂戴な‼」


わたくしは全員の攻撃の間が空いた一瞬に、腰を落として剣を下に構えた。そして、一気に自身の片側のみに全力で魔力を注いだ風を吹かせる‼

わたくしは回転し、風は周囲も巻き込み迫って来る斧も、剣も弾き飛ばした。


全員が呆けた一瞬‼わたくしは更に姿勢を低くして自身に風を吹かせ、チャドの足の骨を折った。ついでに近くに居た男達も次々に気絶させ、メルヴィンから距離を取る。


「このクソアマ‼調子に乗りやがって‼‼」


メルヴィンは怒りに身を任せ、弾き飛ばされた斧も忘れてわたくしに殴りかかって来る。

その姿が滑稽で思わずクスッと笑うと、彼は更に怒りながら拳を振り下ろしてきた。


潰れた刃の方でそっと撫でるように拳の軌道を変え、彼の勢いを利用しつつ喉仏を蹴り上げた。


「カハッ‼ゲホッゲ‼」


「お、お頭……」

「チャドさん……」


お頭であるメルヴィンは喉を抑え、呻き、チャドは足を抑えて叫んでいる。

その様子に他の男達は怯み、次々と剣や斧を下げていく。


チラリともう一人のお頭、グレンを確認すると彼は遠くの屋根の上でわたくしに向かって手を挙げて降参を示している。


もう、十分かしら。


わたくしはグレンとは別の屋根に跳び乗り、男達を見下ろした。


「よく聞きなさいな‼これからはわたくしがこの貧民街を取り仕切る‼‼わたくしが法でしてよ‼‼わたくしは弱者を許さない‼‼


力無きもの達に暴力を振りかざし、支配するなど弱者のやること‼‼

力無き者を見返り無しに守るのは、強者の特権‼わたくしの町に弱者は要らなくってよ‼


本物の強者になりたくば‼罪を認め、洗い流し、わたくしについてきなさいな‼

もしこれより先、弱者を続ける者が居れば‼その首わたくしが斬り落とす‼」


全員に殺気を飛ばし、威圧すると男達は次々に武器を取り落として行った。

戦意を喪失していく彼らを眺め、わたくしはやっと力を抜いた。


「フフフ!いい眺めね。カイゼルにも見せてあげたいわ‼」


面白い!続きが気になる!と思っていただけたらやる気につながるためブックマークや評価をお願いします‼<(_ _)>


既にしていただいた方、ありがとうございます‼


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