66話 悪女の加護
深夜テンションで書いて、後半の会話がちょっとおかしかったので修正しました(;^_^A
深夜って怖い‼
カイゼルの話をまとめると、西の塔に閉じ込められはしたが衛兵達に助けてもらい貧民街に逃げ込むことが出来た。
その後、リリアンがカイゼルをいぶり出すためにカイゼルとリリアンが恋仲である噂を流すが出てきて訂正するわけにもいかず、現在に至るという話だった。
「……正体を隠しているわりには、治癒の力を使って派手に動いているのね。……というか、何でここに住んでいるのかしら?」
カイゼルの家というか部屋に移動し、美女達は帰らせてわたくし、カイゼル、ドミニク、ベルトルドで話し合った。
カイゼルの部屋は娼館の2階にあり、何とも居心地が悪い。
部屋は思ったよりは綺麗だが、完全に衛生的とも言えない。
わたくしが座れる所が無く立っているとカイゼルは気を利かせて比較的綺麗な布を敷いてくれた。縮こまりつつもそこに座るとカイゼルは続きを話始めた。
「えっと、両方ともミックの案なんだ。衛兵が助けてくれたのはミックがお金を握らせてくれたらしくて、およそ王族が居なさそうな貧民街の娼館が一番良い隠れ蓑だって教えてくれた。
多少派手な動きをしてもまず候補から外されるから、それとコレを考えてくれた」
言うと共にカイゼルは一枚の布を取り出した。
白い布に金の刺繍で描かれているそれは魔法陣だった、でも見たことが無い。
「??何の魔法かしら?」
わたくしが聞くとカイゼルはニヤリと笑った。
「魔法じゃない、俺は〝悪女の加護〟と呼んで治癒をした皆に広めてもらっているんだけどコレ、実は聖女の祝福の魔法陣を元にしていて、その魔法陣に描き足すことで聖女の祝福を無効化させているんだ」
聖女の祝福、それは平民が生まれたときに体に刻み込まれる魔法陣。
この魔法陣によって魔物の原料となる魔力は吸い取られる。
その魔法陣を描き足して打ち消すということは……。
「魔物を!元から絶つのね‼‼」
カイゼルはこくりと頷いた。
「聖女の祝福が魔法が使えない原因だとか、魔物を作っているとか俺達が言っても誰も信じない、でもこの悪女の加護が流行って枯渇していた魔力が徐々に戻ってくれば」
「平民も魔法を使えるようになって‼更に加護が流行り、魔法陣が見つからなくても魔物を倒せる‼‼カイゼル頭良いわ‼」
「ハハ!俺じゃなくて全部ミックの案だけどね!」
カイゼルから刺繍を受け取りわたくしはしげしげと魔法陣を見つめた。
カイゼル、もといミックの案はとても良い。でもそれは流行る前提の話。
他の名前にすれば良いのにわざわざ聖女に張り合って〝悪女の加護〟などと名打つから流行る可能性は更に低くなる。
でも……。
「ここまでお膳立てされて、ただ黙って見ているなんて純白の悪女様の名が廃るというものだわ‼
カイゼル、これを貸して頂戴な‼わたくし、このグラス王国であることをしようと思って来たの‼それにピッタリでしてよ‼」
「まだあるからいいけど……セイラン頼むから危ないことは」
「あら!わたくしを誰だと思っているのかしら?わたくしに危険などなくってよ‼」
カイゼルが心配するなか、フフンと顎を上げて言い放つと彼は手を握ってきた。
「セイランが強いのは分かっている。多分前に会ったときよりも更に強くなったんだと思う。でも無理はしないでくれ」
じっと伺い立てるように下から見つめられてわたくしは思わず目を逸らした。
「セイラン?」
「……善処するわ」
その瞳はずるい。
カイゼルの綺麗な紫色の瞳にじっと見つめられると、心臓が縮まるような、嬉しい様な恥ずかしいような複雑な気持ちになる。
わたくしはカイゼルの少し薄汚れた手をそっと握り返した。
「……と、いうわけでウィリアム殿下!貧民街が欲しいわ‼わたくしに売って頂戴な!」
「待て、あーその、意味が分からないんだが……あのポンコ、いやカイゼルは居たということだな」
「そうね、無事で元気でしたわ。それよりもわたくしに貧民街を売って頂戴な」
わたくしはカイゼルの所から戻ってすぐに着替え、ウィリアム殿下の元へ向かった。
カイゼルの詳細な場所やこれからのことなどは伝えず、ただカイゼルは元気でわたくしは貧民街が欲しいとだけ伝えると、ウィリアム殿下は困惑し始めた。
皇女として留学に来たのであれば、本来なら国王に先に謁見する手順なのだが、事前に謁見は必要ないと言われていたため、こうしてウィリアム殿下に土地の売買を願い出ている。
土地は基本的に貴族が治めているが、貧民街と王都は別。
王都は言わずもがな国が所有し、貧民街は誰も統治したがらないためほぼ管理をしていないと言っていいが国の所有となっている。
そのため国王の鶴の一声で貧民街は売れるはず。
「わたくし、謁見も拒まれるほどに陛下に嫌われているわ。だからウィリアム殿下が言ってきて頂戴な」
「…………相変わらず傲慢だな。一国の王太子を顎で使うのか?」
「フフフ!あら?わたくしに協力すると言ったのはどの口かしら?迷うことに疲れたのならわたくしに従いなさいな!」
ウィリアム殿下が以前の様に威圧してきたが、ケビンお兄様で慣れた今はもう子犬が虚勢を張っているようにしか見えない。
前なら怒っていたわね。
クスクスと笑いながらズイッと顔を近づけると、ウィリアム殿下は顔を赤くして目を逸らした。
「…………ハァ~、分かった言うだけ父上に言ってみよう。だが期待はするな、私は父上の良い駒であって愛されているわけじゃない」
あら、意外と折れるのが早いわね。
……この反応って……それにこの赤らんだ顔って……いえ、無いわね。ウィリアム殿下はわたくしを捨ててリリアンと婚約したのだし。
ふとよぎった考えを打ち消しわたくしは笑顔でウィリアム殿下を見送った。
殿下はすぐに戻ってきてまたまた意外、二つ返事で了承されたという。
貧民街だから要らなかったのかしら?
それとも何か別の考えがあるのかしら?
わたくしは貧民街をタダ同然の金額で買い取った。
翌日。
わたくしは留学という名目で来ている以上、学園に通わなければならない。
侍女の一人に夜のうちに無理を言って、髪飾りのリボンに悪女の加護の刺繍を入れてもらい、高々と一つに括った髪にそれを結わえ付ける。
「セイラン様、その、本当にその恰好で行かれるのですか?」
「あら、似合って無いかしら?」
侍女の一人が不安そうに見てくるなか、わたくしは鏡と彼女の間でクルリと回って見せた。
鏡の中では男物の制服を着た美女が自信満々にほほ笑んでいる。
「いえ、とても凛々しく素敵だと思います。ですが周りが何と言うか……」
「カイゼルが言うにはね。普通では勝てないそうよ、わたくしにとって学園は戦場!この姿が一番落ち着くの」
とは言っても、カイゼルが居ない学園は怖い。
あの視線、囁き、集団で一人を狩ろうとする不可思議な連帯感。
多分、一度死んだはずのわたくしが皇女として登校すれば必ずまたあの恐怖にさらされる。
ならもうどうだっていいじゃない?
わたくしが一番好きな男が良いと言ってくれた方法で、一番わたくしらしく突き進む。
「最高にカッコいいよ、姫さん。殿下もここに居れば凄ぇ顔赤くして喜んでる」
侍女に入室を許可されたライナスが入ってきてわたくしに言ってくれた。
「プ!そんな言い方するとカイゼルが死んだみたいじゃないの‼」
馬車から降りると予想通り、全ての生徒がわたくしを振り返り、凝視した。
そしてヒソヒソと何かを言い合っている。
そんな中、イバンが出てきてわたくしに頭を下げた。
「ようこそお越しくださいましたセイラン・マルティネス皇女殿下。貴方の婚約者であるカイゼル殿下は今不在ですので、代わりにはなりませんが良ければ学園を案内いたします」
「よろしく頼むわね。〝初めての〟学園ですもの!わたくしとってもワクワクしていましてよ!」
ワクワクしているというのは嘘ではない。
実際に登校してみると、何が怖かったのかと思うほどに呆気なく誰も何も言ってこない。
視線も、今は自信に満ち溢れているせいか前より気にならない。
いえ、違うわね。
よく周りを見ると、依然とは視線の性質が若干違う。
以前はわたくしに対して嘲笑しか浴びせなかった者達が、好意的とまではいかなくてもわたくし自身を見定めようと見ている感じ。
カイゼルのおかげかしら?
でも……。
「この純白の悪女様を見定めようなんて、この国の人間はおこがましいんじゃないかしら??」
クスッと嫌味に笑うと全員の態度が急激に敵意に染まった。
「セイラン様……カイゼル殿下も居ないのでほどほどに」
「この傲慢悪女‼‼ずっとカイゼル殿下はアンタを庇うけど、殿下を騙すなんて最低よ‼‼」
イバンの言葉を遮り、一番手前の令嬢が金切り声で叫んだ。
わたくしは彼女に詰め寄り、真っすぐに茶色い瞳を見つめた。
「わたくしがカイゼルを騙す??わたくし、騙した覚えなんてなくってよ!それにその眼、鬱陶しいわね。一体貴方はわたくしの何を知っているのかしら?」
令嬢は震えながらもわたくしの目を睨みながらハッキリと告げた。
「騙しているわ‼純粋なカイゼル殿下を騙して、誰よりも傲慢で人を傷つけるのが大好きな最低最悪の悪女だって皆知っているんだから‼‼」
「そして、この場の誰よりも剣の腕は一流、ここに魔物が現れたら貴方には大事な人を守ることが出来ないけれどわたくしには出来るわね?
あぁそれに、多分わたくし貴方よりも平民と仲良くなるのは上手いわ、パース帝国で随分接していたから、ついでに言うと赤子をあやすのも上手くなったわね
あと魔力は規格外に多い、風を使って空も跳べるわね」
わたくしが出来ることを指折り数えていくと、令嬢は顔を真っ赤にして怒り始めた。
「何が言いたいのよ‼この傲慢悪女‼アンタはカイゼル殿下を騙しているのよ‼‼そのせいで殿下は王太子になれなくて‼」
「フフフ、わたくしはね、貴方達に計れる程安く生きていないと言いたいのよ?貴方達が見ているのはわたくしの一面でしかないわ!いつまで人の噂に惑わされているのかしら?小猫ちゃん??」
フッと笑ってわたくしは立ち去った。
「な、何が子猫ちゃんよ‼‼この傲慢」
「ちょっとミシェル‼その花!」
後ろの方で何やらざわついているが無視をして、堂々とイバンを引き連れてわたくしは歩いた。
そう、令嬢に詰め寄った時に音も無く、常人には見えない速さで彼女の耳元にそっと花をそえてやったのだ。
「いつの間に……」
「どうやったんだ?」
「魔法じゃないのか??」
騎士ならこんなにざわつかない。
本当に見えなかったのね。
生徒たちのその初心で可愛らしい反応にわたくしは思わず顔がほころんでしまった。
「楽しい学園生活になりそうね!」
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