64話 対照的なその姿に
私は一体何がしたいんだろう。
何なんだろう。
私、ウィリアム・ハイドラントは不出来な弟カイゼルが出てきたあたりからずっと、何かを迷っていた。
だが自分でも何に違和感を感じて、何に迷っているのかすら分からない。
「流石です!ウィリアム殿下‼」
「すごいですわ‼」
「ウィリアム殿下は素晴らしいです‼……それに比べてカイゼル殿下ときたら……」
生まれたときから私は賞賛され、カイゼルは蔑まれていた。
当時の私は賞賛されることが特別凄いことではなくて、カイゼルが駄目なんだと思っていた。
無能の極み、ポンコツ王子。
何も出来ない駄目なヤツ。
私は10歳くらいになってようやく、カイゼルが駄目で、反対に私が特別凄いのだと認識した。
皆が出来るよりも何でも早く出来る、魔力も人一倍多い。
私は誰よりも己がすごいのだと思ったとき、初めて敵わない者が現れた。
「ケビン・マルティネスだ、気軽にケビンと呼んでくれ」
「……初めまして……ウィリアム・ハイドラントと申します。私も気軽にウィリアムと呼んでほしい」
帝国のパーティでケビンに会った日、見た瞬間に敗北感を味わった。
その圧倒的な存在感、大人をも手玉に取る話術、そして人の上に立つことに慣れた王者の資質。
初めての敗北、でも彼ほどの人なら負けてもあまりなんとも思わなかった。
なぜなら、私とは全く違う人種の人間だから。
ただその王者の資質には当然憧れた。威厳と恐怖により人を従える父上とはまた違う王の在り方。
その唯一無二の王の資質を求めずにはいられなかった。
「ケビン‼二人で平和な世界を作ろう!私達ならやれる‼」
「ふぅん?……平和な世界、ね。良いんじゃないか?」
ケビンはどこか含みのある言い方をしていたが、私は本気だった。
ケビンと居ると何でも出来るような気がしていた。
「カイゼル殿下はいまだに魔法陣が抜けないらしい」
10代も半ばに差し掛かった時、使用人達が話しているのを聞いた。
そこで私は自分に腹違いの弟が居たことを思い出した。
そして丁度その時、私に最悪な出来事が起こった。
それは悪女セイラン・アーヴィンとの婚約。
「セイラン・アーヴィンと申します。殿下が姿絵の通りに美しくて安心しました。そうでないと絶世の美少女であるわたくしに釣り合いませんから」
彼女は自身で私の婚約者の座をもぎ取ったくせに、とても上から目線で言ってきて耳を疑った。
どうやったのか父上を丸め込み、嫌がる私の婚約者に収まった最低最悪の傲慢悪女。
確かに見た目は美しいが、心根は最悪も良いところだった。
つい誰かに言いたくなって、そこで不出来なポンコツを思い出し、嘆いた。
私が優秀なばかりに悪女の婚約者になって最悪だと。
時が経ち、信じられないが私の最強とも思えた魔法は呆気なく悪女に負けた。
そして、私の隣ではただ邪魔でしかなかったのに、カイゼルに押しつけた途端に彼女は変わった。
美しく、強く、そして婚約者を愛するようになった。夜会では悪女に強く焦がれている自分に戸惑った。私の隣に居るはずの聖女リリアンは男達の所を転々とし、悪女はカイゼルに軽く額に口づけされたくらいで赤面していた。
そんな顔、私の前では一切しなかったのに……。
夜会では事件が起こり、結局は全て悪女の仕業となったが私には分からなかった。
私が見ていた部分だけを切り取れば、悪女はリリアンを助けようとしていたのに違ったのだろうか。
彼女が処刑された日、罵声を浴びながらも凛と佇む彼女をまた美しいと思ってしまった。
カイゼルは悪女が処刑された日から変わった。いや、正しくはその一ヵ月後、学園に来てからメキメキと力を見せつけ始めた。
今までは私が一番すごかったのに、学力も乳兄弟も、唯一誰にも負けなかった魔法でさえ私に打ち勝ち、なぜかパース帝国へ旅立った。
カイゼルが旅立つ前も後も、あらゆる悪女の噂を聞いた。
彼女は騎士団員顔負けの強さで、屋敷に男を招いていたのはただ剣の勝負をするためだったとか、本当は男遊びするほど器用でなく、とてつもなく純情だとか、弱者を見捨てられない性格だとか……。
それが本当なら、私は彼女の何を見ていたのか、彼女との婚約破棄は何だったのか……。
いや、婚約破棄はこれで良かったんだ、何せ私はリリを愛している。
迷いを断ち切ろうとしたその時、私は丁度紙で指を切ってしまった。
「わぁ‼痛そう、大丈夫?ウィル?」
「ハハッリリは心配性だな………」
指を切ってふと、血がにじむ指と彼女を見比べた。
リリは治癒の力をもっているのに心配するだけで、治そうとしない。
「………リリ、良ければ治してくれないかな?」
ずっと思っていた、リリの違和感。
始めこそ信じて疑わなかったが彼女の行動は聖女とはかけ離れてきている。
私が問いかけるとリリは固まった。
「あの、まだ上手く治癒の力を使えなくて……」
「うん、だったら私を実験台にしてほしい」
「…………」
リリは何かを迷っているようだった。
「リリ、怒らないから教えて欲しい。治癒の力は本当にある?」
「…………ご、ごめん……なさい」
リリアンはそれだけを言うと顔を伏せてポロポロと泣き出した。
本来なら、抱き寄せてよく話してくれたと慰めるところなのだろう。
でも私にはそれ以上に落胆が大きかった。
伝説では聖女と英雄は引き合う様になっているとされている。リリが聖女で、私の事が好きなら私は英雄で、また特別凄いヤツに戻れると思ったのに……。
その夜、リリが本当は闇の魔力を持っていること、その魔法が洗脳であること、聖女でないことを陛下に伝えた。
陛下はどうやらリリが聖女でないことは知っていたらしく、洗脳の魔法の方にいたく感心を寄せた。
そして、彼女にある命令を下した。
「カイゼルが戻って来た際にアヤツを洗脳しろ。恐らくアヤツが本物の治癒の能力を持つ。一筋縄では洗脳出来んだろうから西の塔に閉じ込めるんだ。
なに、治癒の能力を持つだけならカイゼルなど生かしておいても問題は無い。何しろアヤツの魔法は土が無ければ発動出来ん。もしカイゼルが従わない様なら其方の首は撥ねる。せいぜい必死で塔に居られる様に頼め」
「は……はい…………」
リリアンは震えながら返事をした。彼女は私に助けを請う様に見てきたが無視をした。
聖女を謀るなど大罪だ、処刑も当たり前と言える。
でもカイゼルが聖女??
男なのに??しかもあのポンコツが??
陛下は魔法大会でカイゼルの手の傷が治ったことと瞳の色でそう判断したらしいが……。
だったら私は今まで何をやっていたのだろう。
聖女の力を持ち、今や人気者のカイゼルはこのまま王太子に選ばれるのだろう。
「ウィリアム」
「はい」
「其方を王太子とする。こうなっては何かの間違いでカイゼルが王太子となっては目も当てられんからな。それとあのセイランという女、図太く生きておった。
今はパース帝国の皇女だと名乗り後日ここにやって来るが、事故に見せかけられるようなら事故に見せかけて殺せ」
「は……え?」
「二度は言わん、行け」
「「……はい」」
リリアンと共に謁見の間を出たが、私もリリアンも何も言えずにいた。
聖女の力を持つカイゼルが王太子になってはいけなくて、悪女は事故にみせかけて殺さなければならない??
どういうことなのだろう?
聖女は正義で……悪女は……いや、でも悪女は元々処刑されていた。
それが正しくされていないのであれば、殺すのも仕方が無い。
カイゼルも……カイゼルは元々王になってはいけなかった、王の器では無かった……。
本当にそうか?
いや、今まで陛下の言うことに従ってきて間違いなんて無かった。今回だってきっとそうだ。
リリアンが聖女では無いことも陛下は見抜いていたんだ。
きっと私には何か分からない高尚な考えがきっとあるはずだ。
そう思い、私はリリアンがカイゼルを西の塔に閉じ込めるのを手伝った。
予想に反して、カイゼルはリリアンの命がかかっていると知るや否や、従順に西の塔に入って行った。
もちろん丸腰で、護衛は地下に監禁して。
「兄上、兄上はこれでいいのですか?これが、兄上の正義でしょうか?」
カイゼルは真っすぐな瞳で俺に訴えかけてきた。
正義……。
「国王陛下の成すことこそが正義だ。私はこれが正しいと思っている」
表向きは自信満々に答えたが、言葉にした途端に心の奥底がチクチクした。
その後悪女がやってきたが、私は悪女を殺すつもりは無かった。
ほんの少し、言葉でいたぶって、それで反省すればもういいと思っていた。
リリアンは聖女ではなかったし、パース帝国の皇女ということはケビンは悪女を許したのだろう。だから、ほんの少し灸を据えて殺せなかったと陛下に伝えるだけでいい。
「ウィリアム殿下……その、殿下は聖女様とカイゼルのこと、嫌ではないのでしょうか?」
悪女からそう聞かれて、ハッとした。
そうだ、以前の私なら嫌で嫌で仕方が無かった……。
でも今はそうでもない。
それよりもこの悪女の隣に居たいと思ってしまっている。
もう自分が分からない。
「ウィリアム殿下、貴方どこまで知っていまして?もし、全てを知っていて疑問を抱くならわたくしに協力して頂戴な!わたくし、カイゼルを助けに行くわ‼」
悪女は立ち止まると私を真っすぐ見つめてそう言った。
眩しい。
白く輝く姿に、強く光る黄金の瞳が私を真摯に見つめて離さない。
迷ってばかりの私とはまったく対照的な姿に私は心を奪われてしまった。
かつて、私が捨てた婚約者だというのに。
「君が……セイランが助けたいと思うなら手伝うよ。私はもう、迷うことに疲れたんだ」
全てを彼女に委ねた最悪な言葉。
セイランは驚きながらも頷くと、すぐさま行動に移った。
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既にしていただいた方、ありがとうございます‼
やー、ウィリアムのダメ男っぷりが半端じゃないですね(笑)
気分を害していたらすみません。(;^_^A




