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63話 一匙の余裕は一粒の金を見つける

「一匙の余裕は一粒の金を見つける??聞いたことが無いわ。帝国のことわざかしら?」

「いいや?おじさんが作ったおじさんの言葉~」


パース帝国を出るとき、ベア隊長はわたくしに二つ助言をくれた。


一つは、〝一匙の余裕は一粒の金を見つける〟というベア隊長の造語。

もう一つは傲慢であれ。


ベア隊長はわたくしにニカッと笑いかけながら手を自身の首元に当てた。


「こうさ、もうここまで色んなものがせり上がってきて苦しぃ―!って時があるだろう?そんな時は一歩、後ろに下がって余裕を作るんだ。そうすりゃ見えてくるもんがある。


特にセイランちゃんは正面から受け止めやすいからなぁ、おじさんからのアドバイス!覚えていて損は無いはずだよ」


「分かりましたわ、傲慢であれ、というのは?わたくし、元々傲慢悪女でしてよ??」


わたくしの言葉にベア隊長は寂しそうに笑い、頭を撫でてきた。


「セイランちゃん、その名前はセイランちゃんが自分を犠牲にして成り立っているんだろう?そうじゃない、本当の傲慢さっていうのは己も、己の欲しい物も全て妥協しない気高さだ。どうか自分を切り捨てないでやってくれ、いいな?」


わたくしはパース帝国で新しい父が出来た。

師匠も増えた、でもその中でもベア隊長はやっぱり特別だった。


温かく心地よい手をのけ、わたくしは胸に手を当て、少し膝を折り曲げて頭を下げた。


「承知致しましたわ。野獣部隊〝最強の騎士〟セイラン・マルティネスの名に懸けてその助言活かしてみせましょう」


「うん、気を付けて行っておいで」

「なんかしんみりしてっけど、魔物の件が終わったら偶に顔出せよ‼悪女‼‼」

「そーだそーだ‼色気づくには早ぇぞ‼悪女ちゃん‼」


ベア隊長の後にホンザ、そして他の隊員たちもわたくしに声をかけてくれた。

やっぱりわたくし、帝国民が、この野獣部隊のみんなが大好きだわ。






「一匙の余裕は一粒の金を見つける……」

「は?あ、いや、今なんと?」


カイゼルの愛人疑惑、ウィリアム殿下の立太子、この聖女もカイゼルも居ない奇怪な状況。

既にわたくしの容量はいっぱいいっぱいで、こんなにも早くベア隊長の助言が活きるとは思いもしなかった。


わたくしはウィリアム殿下の問いかけを無視し、一歩、彼から遠ざかった。


そうすると確かに少し余裕が出来てウィリアム殿下を観察すると、彼こそが余裕が無いように見えた。

髪は依然と同じようにサラサラだが、その下の目は濁っているし表情が昔よりもきつくなっている。


笑っているのに笑っていない様な、己の信じる物が見えなくなっている者の顔。


「……カイゼルは今どこに居るのかしら?」

「ですから、お会いにならない方が」


わたくしはライナスの方に振り向いて手を出した。


「ライナス、婚前契約の写しを持ってきていたわね。出して頂戴な」

「仰せのままに、我が姫君」


ライナスは嬉しそうにニヤニヤしながら、わたくしの手に恭しく書類を置いた。


「ウィリアム殿下、わたくしカイゼルと婚前契約を交わしておりますの。ご覧くださいな。こちらにはカイゼルが疑わしい行動をした場合、全ての情報を無条件に開示するとあります。


残念ながらわたくしとカイゼルは口約束の婚約者、でもパース帝国皇太子の署名も入ったこの契約書がある限り、わたくしはカイゼルのことについて全てを知る権利がありましてよ!もう一度聞きます、カイゼルはどこかしら??」


じっと真っすぐに見つめると、ウィリアム殿下は思い切り眉間に皺を寄せて目を逸らした。


「……クソッ、公爵令嬢の分際で」

「あら?わたくし、パース帝国の皇女でしてよ?今の発言帝国への宣戦布告ととっていいかしら?」


クスクスと扇で口元を隠しながらわたくしはいやらしく笑った。

秘技、嫌味笑い。


皇后陛下、お母様が直伝してくれたものだ。


『いいかしら?こちらとしても問題にしたくないことを言われたとき、しらを切りつつこう笑いなさい。先に攻撃を仕掛けることでこちらの不利な部分は隠す作戦よ!』


実のところ、セイラン・アーヴィンとわたくしは同一人物なので完全な鑑定の様なことは避けたい。

でも、それをウィリアム殿下に悟られるわけにはいかない。


出る所に出たとしても、こちらは何か策があるのだと思わせるのが一番なのだ。



ウィリアム殿下は分かりやすく嫌な顔をして頭を下げてきた。


「っ!……大変、失礼いたしました。カイゼルは今、王宮の離れにある西の塔にて聖女と共に生活をしています」


王宮横の西の塔……確かそこは貴族牢のある場所。


「そ、わたくし、カイゼルに会いたいわ。連れて行って頂戴な」

「……申し訳ございません。陛下から許可を得ませんと何とも……」


「そう、ならいいわ。部屋に連れて行ってくださいな、殿下」

「えぇ、喜んで」


わたくしがすぐに引き下がったことで、ウィリアム殿下は目に見えてホッとしているようだった。

様子から考えて今回のことは、国王が先導して行ったらしい。


わたくしは今回、1年間の留学という名目でやってきている。

賓客のため、普通の宿屋ではなく王宮の一室に泊ることになっていた。


それにしても……。


王宮の廊下をウィリアム殿下にエスコートしてもらいながらわたくしはチラリと殿下を見た。


「ウィリアム殿下……その、殿下は聖女様とカイゼルのこと、嫌ではないのでしょうか?」


ウィリアム殿下は以前、聖女リリアンを溺愛していた。

彼が以前のままならカイゼルと一緒に居させるなど絶対に嫌がるはずだった。


「……私にはもう、リリの気持ちが分からない。いや、女性そのものが分からない、と言った方が正しいな…………この国に居た悪女は実は悪女でも男好きでも無かった、私との婚約も自身の我儘じゃなかった……聖女だと〝思っていた〟リリは……恋多き乙女だったし……」


ポツポツと彼らしくもなく、小さな声で語ってくれた。

でもわたくしはその中の一つに目を見開いた。


聖女だと〝思っていた〟???


これが意味するのは、もしかしてカイゼルが聖女の治癒能力を持つとバレたのかしら??

だとすると陛下としてはすぐに殺してもいいはず。


まだボソボソと何かを言っているウィリアム殿下を他所にわたくしは背筋が凍っていた。


聖女とカイゼルを一緒にしてやろうとしていること。

それはカイゼルを洗脳すること。


治癒の力でカイゼルはリリアンの魔法はかからないはずだけど、リリアンの魔法をかけたうえで治癒の力を自身に使わない様に命令されればどうなるのかしら??


タイミングによっては、カイゼルの洗脳も可能かもしれない……。


チラリと隣のウィリアム殿下を見ると、彼は出会い頭の不敵な感じはどこに行ったのかと思うほどに自信を無くした顔をしている。


これを聞くのは今の段階では早いかもしれない。

間違っていたら、彼が陛下の側に完全に入っていたら取り返しがつかないことになる。


でも、わたくしにはどうしてもウィリアム殿下が陛下に完全に与するとは思えなかった。

自信を無くし、少々性格が歪んだとはいえ、彼は清廉潔白や正義という言葉を好む性質。


平民から魔力を無断で巻き上げることを良しとするとは到底思えない。


わたくしは立ち止まると、周囲にわたくしとライナス、侍女にわたくしの護衛しか居ないことを確認してから声を潜めた。


「ウィリアム殿下、貴方どこまで知っていまして?もし、全てを知っていて疑問を抱くならわたくしに協力して頂戴な!わたくし、カイゼルを助けに行くわ‼」


ウィリアム殿下はわたくしを凝視したまま固まってしまった。

その硬直が何を意味するのかは読み取れない。


でも、この国の状況が全く分からない今の状態で動くには目の前の元最低婚約者を仲間にするしかない‼‼


わたくしは腹を決め、ウィリアム殿下が反応するまで待ち続けた。


面白い!続きが気になる!と思っていただけたらやる気につながるためブックマークや評価をお願いします‼<(_ _)>


既にしていただいた方、ありがとうございます‼


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