59話 四番目と三番目の差
「俺は、聖女様の力を借りたら良いと思う」
数日前、カイゼルはグラス王国を攻めるというケビン皇太子の考えを否定して、あることを提案した。
それはウィリアム殿下と聖女リリアンの懐柔。
「聖女様の魔法があれば陛下を操ることが出来る。そうすれば穏便に王位を取れると思う」
「「「…………」」」
わたくし、ライナス、イバン、ドミニクにベルトルドがカイゼルを凝視して目を見開く中、ケビン皇太子だけが豪快に笑い始めた。
「ハハハハ‼なんだそれは!それが本物の聖女の考えか⁉お前は慈しみの心があるんだろう⁉」
「慈しみの心があるかと言われると分からないけど、死者を避けるという意味では理にかなっていると思う。そんなにおかしいかな?」
「やー、殿下が誰かの洗脳を唆す日が来るとは……殿下、色々成長しましたね」
ライナスがニヤッと笑った。
「…………そうね、カイゼルが洗脳の魔法を利用するのは意外だけど、それなら騎士と戦わなくていいわ」
「問題はウィリアム殿下と聖女様が我々と一緒に陛下を討てるか、それと陛下の洗脳に成功してもカイゼル殿下ではなくウィリアム殿下を王にするのではないか、ということですね」
「あーちょい待った、問題はそれだけじゃ無ぇんだ。ケビン皇太子、全て報告しても?」
「好きにしろ」
「姫さん達、魔物を率いていた男覚えてるよな?あの妙に女っぽい話し方の。あいつを拷問して分かったことが二つ。魔物を率いる人間はいくらでも増やせる、それと……グラス王国騎士団の上層部もこの件に関わってる。どこまで関わってのかは分かんねぇけど」
上層部。
そう言われてわたくしはすぐに騎士団長のアスランの顔が浮かんだ。
わたくしの師であり、ライナスの父親。
「ライナス……上層部ってまさか」
「まだ分かんねぇけど覚悟はしといた方が良いかもな、親父は俺に魔法を使わせないように今思えば気を張っていた……ま!クソ真面目な親父のことだから多分違うだろうけど」
ライナスに明るく返されてわたくしは胸をなでおろした。
誰よりも騎士道を重んじ、優秀で真面目なアスランが平民から魔力を奪って魔物作りに加担しているなんてある訳ない。
「話を戻すぞ。今、国の状態を考えると俺は動けん。提案するぐらいならお前はウィリアムと聖女を説得出来るんだな?……いや、聖女だけでいいな。ウィリアムには利用価値が無い」
お互いに友人と公言しておきながらあっさりと切り捨てる非情さに驚きつつも、わたくしもケビン皇太子に同意だった。
「兄上がこちら側に来ない限り、聖女はこっちには来ないと思う。彼女は兄上を一番信頼しているし……イバンとグラス王国に居るミックと三人なら兄上を説得出来ると思う、確証は無いけど」
「根拠は?」
ケビン皇太子はゆっくりと背もたれに体を預け、カイゼルを少し見下す様な姿勢に入っていた。
「兄上は自己保身が強い、俺の方が優勢だと思ったらこちら側に傾く。ライナスに念のため確認してもらえれば俺達を途中で裏切らないかどうかも確認出来るはずだ。
何より正面からぶつかり合えばパース帝国だって無傷では済まないはずだ。悪くない賭けじゃないかな?」
「ふむ…………分かった半年だ。それ以上は待てない、いいな?いくら魔物を指揮する人間が湧き出ようと、帝国騎士団の敵ではないが、無限に続く徒労の旅に騎士団をいつまでも消耗させておくわけにはいかない」
「あぁ‼十分だ‼ありがとう‼‼」
カイゼルがケビン皇太子の意思を変えるのをわたくしはこの時ただ見ていた。
ヒュッと剣が風を切り、わたくしの正面でピタリと止まる。
カイゼルに相談した翌日、わたくしは変わらず朝の日課である素振りをしていた。
あの時決まった作戦はまずカイゼル達が帰国し、ウィリアム殿下とリリアンの説得。
そして後から来たわたくしとライナスがどうせ目立つため派手に動き、カイゼル、ウィリアム殿下、リリアンが動きやすくするというもの。
グラス王国に行くまでの二か月間でわたくしは変わりたい。
カイゼルの隣に居て引け目なんて一切ない、最高の悪女になりたい。
皇宮の屋根の上で規則正しく風を切る音が響き渡る。
最高の悪女になるためには、もっと美しく、もっと強く、もっと気高く‼‼
「もう誰も犠牲にしないわ。視界に入る全てを守って、わたくし自身さえも‼無傷で‼勝利を実現出来る力をつける‼‼」
誰も犠牲にしない。
それは学園で待っているわたくしへの視線、噂話などの精神的なことも含まれている。
そう、カイゼルに言われないと気が付けないほどに、わたくしは心の奥底が傷ついていたのだ。知らず知らずのうちに恐怖心で自己否定するほどに。
もうあんな思いは絶対にしない‼‼‼
と、いうわけでハンナと相談し、まずはケビン皇太子にわたくしの処遇を聞きに行くと、そこでは丁度決定したらしく、騎士半分、皇女教育半分にすることとなっていた。
「な、何だか微妙な感じになったわね」
「まぁまぁ、セイランちゃんは民からの支持が高いから嫁ぐとはいえ、今更騎士を辞めさせるわけにはいかないし、嫁ぐならなおさら皇女教育は必須という折衷案じゃないかな?」
わたくしが久しぶりの団服に身を包み、演習場で独り言を言っていると後ろからベア隊長が話しかけてきた。
「ウチとしてはあと二か月、歓迎するよ」
「フフフ、ありがとうベア隊長…………隊長、ずっと思っていたのだけどベア隊長の攻撃はなんで当たるのかしら??それ、わたくしも真似出来まして?」
野獣部隊に配属された初日、ホンザに勝利した後わたくしはベア隊長とも手合わせをした。
勝敗はすぐにつき、わたくしが軽く猫の様に襟首を掴まれて負けてしまった。
それから何度やってもベア隊長には……いえ、ベア隊長、副団長、騎士団長の三人には攻撃が当たらないどころか、彼らの攻撃はすんなり当たることも少なくない。
騎士団長の攻撃は大怪我に直結するものも多いため、何とか避けられるようになったけど、それでも殺気を含んでいないものはすんなり当たってしまう。
現在わたくしは魔法が使えるようになり、騎士団の上から四番目の強さと言っても過言ではない。
けど、この四番目と三番目、わたくしとベア隊長との差は天と地ほどある。
「う~ん何でかぁ、何というかセイランちゃんは動きも攻撃も精細さに欠けるところがあるからねぇ。こればっかりは自分で気がつくしかないからなぁ。
あぁそうか!セイランちゃん、鈴つけてみる??」
「はい???」
軽く、それはもう軽く、冗談の様にベア隊長はわたくしに鈴をつけた。というか渡された。
その数なんと大き目の物を6個。
髪飾り、首、手、足から動くたびにリリンと鳴り、一つでは綺麗な音でも6個が不規則に鳴るとただただ不快になる。
「ギャハハハッハ‼‼なんだ悪女!うるっせぇぞ‼‼」
「お黙りなさいな‼」
「ハハハハハ‼‼セイランは獅子だと思っていたがそれではまるで猫だな‼‼似合ってるじゃないか!」
「それは褒めていなくってよ‼‼」
ホンザが爆笑し、わたくしを見かけたケビン皇太子も豪快に笑い、いじって帰って行った。
カイゼルにも笑われるかと思っていたが、逆に虐められていないか心配されてしまった。
「ベア隊長、これはいつまでかしら??」
「ん~、俺やヴィルベルトとセイランちゃんの違いが分かるまで、かなぁ?寝る時以外はつけておくといいよ。強くなりたいならね」
「……分かりましたわ」
強くなりたいなら、と言われるなら続けるしか道は無い。
わたくしは皇女教育の間も教師陣に睨まれながら鈴をつけ続けた。
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