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55話 青+ピンク=紫

わたくし、セイランが目を覚ましたのはほんの数分前だった。


気がついた時にはカイゼルが足を踏み外していて、わたくしを投げようとしいて、咄嗟に代わりにカイゼルの後ろに周り、彼を蹴り飛ばした。


崖から落ちて、水っぽい霧の中に入る。


なぜ彼がこんなところに居るのか分からないけれど、最期にカイゼルの会えてよかった。


そう思った時、わたくしはある違和感に気がついた。


左腕が動く、というか全身どこも痛くない。

そして内側から溢れんばかりの何か不思議な力。


カイゼルの瞳は紫。

本来青色の瞳が紫色になるためには桃色を足せば……。



わたくしは急いでネックレスを握りしめ、溢れる魔力を流した。

カイゼルが入れてくれていた魔法陣は追い風。


魔力を流した途端に下から突風が吹き、落下速度が落ちる。


まだ、足りない。


ゆっくりと落ち始めた時に突き出た崖が目に入り、そこに軽く着地をして跳ぶと予想以上の速さで上へと向かう。


「これが、魔法‼‼」


生まれて初めて使う魔法に心躍らせながら、カイゼルを襲おうとしていた魔物の腕を斬り落とし、その勢いのまま魔物の体を駆けあがって魔物の首を斬った。






「ちょ、ちょっとカイゼル⁉」


そして現在、わたくしは鼻水を垂らしながら泣きわめくこの男にきつく抱きしめられていた。

ドミニクは何かを察してか子供の目を覆い、少しわたくし達から離れている。


い、いくらなんでも教育に悪い様なことはしないわよ‼‼多分……。


久しぶりに抱き着かれて、心臓はドキドキと高鳴るし耳は熱をもってくる。


「そ、そのカイゼル……そろそろ…………」

「うん、うんごめん……グスッ!」


カイゼルが離してくれて、その顔を覗き込むと涙でぐしゃぐしゃになっている。


「本当にしょうがない人ね」


わたくしが優しく涙の後を拭うとカイゼルはその手を握る。


「カイゼル、わたくし状況が全く分からないの。今はどうなっているの??」

「あぁ、今」


カイゼルの言葉の途中でズドォォンと響き渡る音が聞こえた。

地響きと共に何度も何度もその音は繰り返される。


「セイラン!今ベア隊長とライナスが魔物を引き付けてくれている。でも君は病み上がりだしこのまま」


ズガゴォォンンと恐怖を覚えるほどの振動と音の後、辺りは静まり返った。


「大丈夫よカイゼル、多分この音、一番の原因はウチの隊長だから」

「え?」


疑問に思っているカイゼルを放置して、近くの木に登り音のあった方角を見ると案の定。

そこには20メートル近い大きな土の熊が立っていた。


「ベア隊長‼‼わたくしがすることはありまして??」


熊の肩に乗っている隊長に叫ぶと、彼は目を見開いた。


「無い‼怪我人は寝ときなさい‼‼」


もう怪我人では無いのだが、魔物の気配も少なくなっている。

そしてベア隊長が操る土の熊の手には教会の鐘があった。


全ての魔物達に聞こえるように持ち出したのか、その場で鐘を鳴らすと魔物達の動きは止まり、町へと戻って行く。






「…………このポンコツが、聖女……」


西も何とか魔物の侵攻を押し返し、全員の余裕が出来るとケビン皇太子はわたくし、カイゼル、イバン、ライナスを呼んだ。

当然、カイゼルの護衛であるドミニクとベルトルドという男もついて来た。


「ポンコツじゃなくってよ‼……わたくしもまさかカイゼルとは思わなかったけれど」


茶会、という程ちゃんとしたものではないがカイゼルが厨房を借りて作ったアップルパイを皆で食べながら話し合っていた。


「えっと、アハハ……まだ実感無いな」


カイゼルが照れくさそうに頭を掻くと、隣に居るイバンが頷く。


「ですが考えてみると、魔法大会での血の魔法陣が治ったのも納得できます。それに聖女、いえ、リリアンの魔法に私はかかっていましたがカイゼル殿下と握手をしたあたりから正気に戻った気がします」


「血の魔法陣って……というかカイゼル、魔法大会に出たの?」

「ヘヘ、あぁ、優勝した」


「「「……は⁉」」」


わたくし、ケビン皇太子、ライナスが驚くなか、カイゼルは嬉しそうにわたくしに笑いかけてきた。


「学園の成績も一位を取ったよ、残念ながらケビン皇太子と同列一位だったけどね。セイラン、今学園ではセイランの処刑のことが不当だったんじゃないかって空気が流れてる。


今まで俺が弱いせいで、セイランが傷ついていることにすら気がつかなくて本当にごめん。

これからはもっと強くなって、王位もとって、必ずセイランを守るから俺と結婚してほしい」


真摯な瞳でカイゼルはわたくしの手を握って語りかけてくる。


まさかの今⁉

全員が凝視しているなかでのまさかの告白。


「あ、ああああの、わたくしは」

「おい、目の前で口説くな」


地を這うような声でケビン皇太子が言うが、カイゼルは笑顔で返した。


「いやでも、言える時に言わないと。セイランは南から戻った後すぐに西に行ってしまったから……」


へへっと笑うカイゼルはケビン皇太子を怖がっている様子も、虚勢を張っている様子も無い。

ただの自然体で接している感じ。


……なんだかカイゼル、変わったわ。


明らかに今の彼には、わたくしと一緒に居た時には無かった自信がある。


「黙れ、そんな話をするために集めたわけじゃない。お前の処遇について話すために集めたんだ。


カイゼル、お前はしばらくここに滞在した後、グラス王国に攻め入るときには同行しろ。まだ扱えていなかろうがその治癒の力は使える。


そしてセイラン含めてここに居るグラス王国の奴らは戦う心づもりで居ろ。

必ず王国騎士団ともやり合うことになる、その時に戦うのか、戦わずただ眺めるのか、それを考えておけ」



ケビン皇太子はわたくしが西の応援に行っている間に、カイゼル達に魔物がグラス王国で作られていることを話したらしい。それはいいのだけど……。


「た……戦うしかないのかしら。騎士団の皆はわたくしにとって本当の家族以上に大切なの……どうにか……」


わたくし自身、わたくしらしくないと思いつつモゴモゴ言いながら自分の手を握る。

わたくしが子供の頃から一緒に稽古をして、手合わせをして、見守ってくれた彼ら。


そんな彼らを斬りつけるなど、出来ない。


「セイランの気持ちも分からんでもないが、無理だろうな。俺達は王国の根幹を壊しに行く。それで戦わない方法など無い」


「でも‼皆知らないだけじゃなくって⁉平民の魔力を奪っていることを知れば‼‼」


「これ以上情報を明かせばリスクが高くなる‼もしも知っていて加担しているヤツに当たったらどうする??騎士団で下の人間だからと言っても侮れないぞ‼‼」


「それでも死者だけは出したくないわ‼‼だって皆はわたくしの大切な人達だもの‼‼」


わたくしもケビン皇太子も徐々に声が大きくなっていく中、コンコンと軽く机がノックされた音がした。


振り向けば、隣に居たカイゼルが優しく微笑んでわたくしの手を握ってきた。


「ちょっと落ち着こう二人とも。選択肢は戦うか戦わないかの二択じゃないと思う。


ここには二人だけじゃなくて、俺も、ライナスも、イバンも、ドミニクもベルトルドだって居る。まずは一人一人の考えを聞いていくのはどうかな?」


やっぱり、今のカイゼルは前のカイゼルとは違う。

わたくしが崖から落ちた時はあれだけ取り乱していたのに、今はとても落ち着いている。


「二択以外の選択肢か、ならお前はどう考えるんだ??」


「俺は、聖女様の力を借りたら良いと思う」


わたくしの手を握って安心させながらも、にっこりとケビン皇太子に笑いかけるその横顔は、他を圧倒する王者とはまた違った王者の風格を放っていた。


優しく、おおらか、それでいて強い王様を体現しているその姿に、わたくしは何となく不安になってしまった。






「セイラン‼‼」


夜、訓練が終わり汗を拭いて簡素なワンピースを身にまとい出て行くと、宿舎の前では既にカイゼルとドミニクが待っていた。


ドミニクはわたくしの姿を見ると頭を下げて去っていく。


あの話し合いの後、カイゼルに話があると呼ばれていたのだ。


「ハハ!月明りに照らされたセイランも綺麗だね」

「フフフ、貴方ちょっと褒めるのが板についてきたんじゃないの??」


以前よりも自然と口に出た様に、蕩けそうな顔でわたくしを褒めてくれる。

嬉しい。嬉しいけど……。


胸がチクリと痛んだ。


カイゼルのエスコートで皇宮敷地内の池に向かった。


「本当ならもっと別の所がよかったんだけど流石にケビンに敷地を出るなって言われていてね」


ふわりとはにかんで頬を掻く姿は、初めて見た時のポンコツ具合が嘘のようにカッコいい。

今なら、どんな女性でも射止められるかもしれない。


「そう……ねぇカイゼル?魔法大会で優勝ってウィリアム殿下に勝ったの?」


「あぁ!決勝戦で兄上に勝ったよ‼魔法大会で優勝すればアンソラ公爵が俺をこっちに呼んでくれるって言っていてね」


「……新魔法、すごいわね。普通新しい魔法を作るにしても既存の魔法の派生形がほとんどだけど、カイゼルの魔法はどこにも類似するものが無いわ」


「ハハ‼セイランに褒められると頑張った甲斐があるよ‼コーディもそうだけど、イバンや友人のミック、新しい護衛のベルトルドやドミニク、それに侍女の二人、皆で考えたんだ‼‼」


「……そう」


学園での成績は優秀、魔法大会で優勝し、見た目も良く、治癒の力を持つ、友人も多く、皆から慕われて、優しく頼もしい。


なんだか別の人みたいだわ。


少しずつ、少しずつ、心を痛めていた何かが傷口を抉り始める。


「セイラン?」

「あ、いえ、何でも無いわ」


暗いわたくしを心配して顔を覗き込み、カイゼルは池のほとりまで来るとわたくしの手を握って跪いた。


「セイラン、君が居なかった三か月は本当に寂しかったよ。一度王国で死んだことになっているセイランは、もう書類上は俺の婚約者じゃなくなってしまった。


でも、だからこそ‼もう一度俺をセイランの婚約者にして欲しい。


今までセイランの苦しみを知ることも出来なかったことは悪かったと思っている。

処刑の時、守れなかったことも謝って許されることでは無いが謝らせて欲しい。ごめん。


今度こそ‼必ず守るから‼‼俺と結婚していただけませんか??」



今夜は満月。

月明りに照らされてカイゼルの綺麗な紫色の瞳が妖しく光り、何とも言えない魅力を醸し出している。


紫色の瞳は、聖女特有の桃色の瞳と中和されたせい。

それが分かれば陛下のカイゼルに対しての反応は変わるはず。


周囲の反応も変わる。

今だったら彼と結婚したいという貴族女性は余る程居るはず。


そんな中でこの傲慢悪女をいつまで彼は愛してくれるの??



『君との婚約を破棄し、私は聖女リリアンと婚約する』



不意に、ウィリアム殿下とのあの最悪な記憶が蘇った。



「…………カイゼル、ごめんなさい…………わたくし、貴方と添い遂げる勇気が無いわ」



カイゼルが浮気などするとは思えない。

そんなことするはずない。


でも、もしも万が一同じことが起こったら……。


今度は耐えられない。



わたくしは泣きながら、カイゼルが握ってくれた手を引いた。


面白い!続きが気になる!と思っていただけたらやる気につながるためブックマークや評価をお願いします‼<(_ _)>


既にしていただいた方、ありがとうございます‼


次回で第一章 ポンコツ王子成長期編は終了の予定です。

その後、おまけが書ければおまけを挟んで二章突入の予定です。


ちょっと気が早いですが、ここまでお読みいただいている方々本当にありがとうございます‼


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