53話 追いかけ続けて
状況説明が多いです。
セイランにコーディが届く二週間前。
俺、カイゼル・ハイドラントは魔法大会で優勝しケビン皇太子の実兄、アンソラ公爵と共にパース帝国に行くことを陛下に願い出た。
「ならん、一年も前から他国への出国許可を願い出ている者も居るのだ。それを押しのけてお前が他国へ出るなど許すとでも思うたのか?世迷言を聞くほど私は暇ではない出て行け」
場所は陛下の書斎。
居るのは陛下、陛下の護衛の騎士団長、宰相、宰相補佐、そして俺のみ。
陛下は俺に一瞥もせずに書類仕事を続けている。
昔の俺だったら、ここで終わっていた。
成果を積み上げたのに、陛下に気に入ってもらえず、願いも叶わずそれで終了。
だが今は違う。俺は決めたんだ。
セイランのために道化にも、王にも、悪魔にもなると。
「…………そうですか、陛下なら今回の出国、私には許して下さると思ったのですが……だって秘密を知っている私には、時間を引き延ばす必要はありませんから」
俺が感情を込めず、淡々と告げると陛下は書類から顔を上げて俺を見た。
その眼は驚きに満ちていて、初めて正面から見たのに予想していたよりも怖いという感情は湧かなかった。
「……秘密とはなんのことだ?」
「さぁ?秘密は秘密ですから、軽く口にすることは出来ません。
ただ、陛下が私の出国手続きに時間をかけられるということでしたら、その間暇になってしまいますので楽しく平民とお喋りしているときにでもうっかり……なんてこともあるかもしれませんね?」
凝視してくる陛下に俺はフッと不敵に笑った。
駆け引きは苦手だ。
内容が直接的過ぎたかと思いつつも、それは顔に出さないように必死に余裕を見せる。
「…………いいだろう。今回限り許可しよう」
「ありがとうございます」
陛下が不信感を隠さずに言う中、俺は深々と頭を下げてお礼を言った。
「では、失礼いたします。貴重なお時間を頂きましてありがとうございました」
退出時にもう一度頭を下げ、丁寧に扉を閉める。
扉の外側に待機していたベルトルドを連れ、自室に戻り、不安げな顔のミックとイバンと顔合わせた瞬間俺は飛び跳ねた。
「皆‼‼行ける‼パース帝国に行けるぞ‼‼」
「「「「おめでとうございます‼」」」」
ミック、イバン、サマンサ、メリー、ドミニク、ベルトルドが祝ってくれ、早速アンソラ公爵に伝えることになった。
「ただその……出国許可をもぎ取るのに少し陛下を脅したから皆身の回りには十分に注意して欲しい、何なら家族と共に地方に行くことも考えた方がいいかもしれない」
「「何を今さら‼」」
「親父はカイゼルの大ファンになったから問題無いって言ってくるよ」
「エリオット侯爵はそのリスクを承知の上で私を養子にしてくださったので問題ありません」
護衛二人もうんうんと頷き、誰一人として俺を見離そうとする者は居ない。
本当に皆、優秀で良い奴ばっかりだなぁ。
三日後、アンソラ公爵と共にサマンサ、イバン、ドミニク、ベルトルド、ハンナを連れ出国しその一週間後、やっとの思いでパース帝国の皇宮で俺を待ち構えていたのは愛しいセイランではなく、いつもの偉そう+機嫌が悪いケビン皇太子だった。
「あぁ、もしかしたら来るかもしれないとは思っていた。それでカイゼル、用件は何だ?」
ガゼポを改造した書斎に通され、資料が見えない様に少し遠目の位置から目も合わせずにケビン皇太子は聞いて来た。
「分かっていると思うがセイランに会いに来た。今、彼女はどこに居るんだ??」
「傲慢悪女は死んだ、話は終わりだ出て行け。今は忙しい」
「忙しいなら頼むから素直に答えてくれないか?すぐに連れ去ろうなんて思っていない。傲慢じゃなくても純白の悪女ならここに居るんだろう?会わせてほしい」
ケビン皇太子は本当に忙しいらしく、いつもの様な尊大な雰囲気が薄れ、少し焦っている様に見える。
俺の言葉には答える必要は無いと思ったのか、無視を決め込み始めた。
「「……」」
「ケビン皇太子‼‼」
側近らしき、上等な身なりをした男が一人俺達の間に割って入って来た。
普通客人が居る場合余程のことが無い限りは声をかけないものだが、今回はその余程のことらしい。
真っ青な顔をしてケビン皇太子に何やら血がついた紙を見せている。
それを見たケビン皇太子も目を見開いた。
珍しいな、こんなに感情を出すなんて。
俺の知っているケビン・マルティネスという男はいつも尊大で余裕があり、何事も天才的な手腕で労力を見せずに成し遂げる。
それなのに、紙を見た瞬間ケビン皇太子は真っ青になった。
「このこと、父上には??」
「既にお伝えしましたが、南も西と同じ状況かは分からないから偵察隊の報告を聞いてから対処する、とのことです」
「クソッ‼偵察隊がどうなってもいいとお思いか⁉ベアに伝えろ‼急いで偵察隊の後を追い、この書面の内容を伝えろと‼‼状況が分かれば良い‼必要以上に町に近づくな‼‼」
「はい‼すぐに‼」
「それとカイゼル‼‼今は本当に立て込んでいる!どちらにしろセイランはここには居ない‼また出直せ‼‼」
焦るケビン皇太子の様子に俺は嫌な予感がした。
ケビン皇太子は今までセイランの事を愛しい人と呼び、処刑の後はハッキリとその名を口にすることは無かった。
それなのに今、ハッキリとセイランはここに居ないと言う。
「偵察隊ってまさか……セイランがそこに居るのか?命が危ないとかじゃないよな??」
彼の事はよく知らない。
だがもしもセイランの命に関わることなら、ここまで取り乱しているのも頷ける。
ケビン皇太子は俺を今にも殺しそうな程に睨みつけた。
「だったら何だ、今は無能が出しゃばるところじゃあない。場をわきまえろ‼俺は下がれと言っている」
低く、地を這う様な声で命令してくる。
平常時なら怯えて何も言えなくなるかもしれないが、今はセイランの命がかかっているらしい。
そんなこと言っていられない。
俺はメモ帳をちぎり、ガゼポの外に出て地面に魔法陣をつけた。
ピキキッと正面の土が割れ、コーディが現れる。
「俺の魔法ならもっと安全に偵察を出来る、俺もそのベアという人に同行させてくれ」
コーディが死んでも良いとは言わないが、彼は極端に小さい。
そして敵が何であれ初めてコーディを見る人間はそれが何なのか戸惑う。
その隙に逃げることだってコーディなら出来るはずだ。
悠々と俺の周りを舞い、肩に留まったコーディは騎士の様なお辞儀をした。
「このコーディ・エマーソン‼いかなる任務であろうと必ずや完遂させてみせよう‼‼」
コーディの言葉を聞いて、ケビン皇太子は目を丸くした。
俺から補足で説明をする。
「コーディは完全に俺とは別の人格を持った魔法だ。だから彼は自身で偵察場所に入り込み、考え、適切に内情を伝えてくれる。頼む、時間が無いんだろう?俺も一緒にそのベアという人と一緒に行かせてほしい」
「……ここはグラス王国みたいに平和じゃない。命の補償は出来ない」
「構わない。俺はセイランのためなら何だってするしどこへだって行く」
俺が真摯に言うと、ケビン皇太子はため息を吐いて手を挙げ、側近に何やら指示をしてくれた。
側近の男にベア隊長と会わせてもらい、馬を駆け、いや俺は馬が乗れないのでドミニクの後ろに乗せてもらい、そして現在に至る。
町が見えるギリギリの場所。
途中、ライナスと出会い、ライナスと一緒に居た騎士のみが皇宮へ状況説明に向かい、コーディを飛ばして様子を見ている。
チリチリと焦りが湧き出て、何もしていない自分が歯がゆくなってくる。
「殿下、大丈夫です。騎士団の亡霊は剣の天才と言われています。そうそうやられませんよ」
「えぇ、セイラン様の強さは小隊長以上だと聞いています」
ベルトルドが気遣ってくれて、ドミニクもそれに同調する。
「うん、ありがとう……」
二人に礼を言いながら俺はライナスを見た。
普段口数が多かったり、上機嫌に振舞っているのが常の彼が俺にもあいさつそこそこにじっと町を見ている。
もしかすると、本当にまずい状況なのかもしれない。
パース帝国最西端の町からもたらされた情報は魔物を統率している人間が居る、というものだった。
通常の魔物だけと思い、掃討しようとしたせいで、最西端の町では偵察隊が罠にはめられ10名のうち7名死亡、2名重体、1名重傷となった。
どうか、どうか無事でいてくれ、セイラン。
俺が切実に願う中、教会の中から点の様に見えるコーディが出てきて白い布を振り始めた。
コーディの信号はグラス王国形式なので、ライナスが読み上げる。
「安全、対象発見、危篤、急げ……って言ってます‼ベア隊長‼‼」
「分かった、俺とライナスが行こう。カイゼル殿下はここで待機をお願いします。危険を少しでも感じたら逃げてください」
ベア隊長と呼ばれる大柄な男とライナスが町へ向かい、戻って来るとそこに抱えられたのは記憶の中に居る真っ白なセイランではなく、血だらけでぐったりと力が抜けたセイランだった。
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