49話 心酔
やっぱりサクッと出しました。
※イバン視点です!
煌々と輝くドラゴンの真下には、数か月前まで乳兄弟として一生支えていくはずだったウィリアム殿下。
そして、客席からは目を凝らさないと見えにくいほどに小さなドラゴンを出す現在の主人、カイゼル殿下。
私、イバン・モラレス改めイバン・エリオットは両者の試合を見ながらこの数か月を思い出していた。
「俺の方が王に相応しいと思うなら将来俺の側近になって欲しい」
もう2か月も前、カイゼル殿下から言われた。
カイゼル殿下をハッキリと認識したのは夜会が初めてだった。
ウィリアム殿下の後ろに並び、陛下にお言葉をいただく際無視をされた憐れで弱い第二王子。
それが何を思ったのか婚約者の悪女が死に、その一ヶ月後に急に王位を求めるようになった。
「カイゼルの目的は分かったか?」
ウィリアム殿下は、俺がカイゼル殿下の魔法練習に初めて付き合った帰りにわざわざモラレス侯爵邸に来てまで確認してきた。
「どうやら私をウィリアム殿下から引き離して、自身の側近候補に加えたいようですね」
「ハハハ‼そんなことだろうと思った‼当然断ったのだろう??プフッ!私よりもあのポンコツを選ぶなんて気が触れた人間のすることだ‼‼」
以前は聡明だったはずのウィリアム殿下は殊更馬鹿にして笑った。
ウィリアム殿下は夜会の後からどうにもおかしい。
目に見えて余裕を失い、器が小さくなり、カイゼル殿下を馬鹿にすることを生き甲斐としつつある。
「はい、不可能だとお伝えしました」
「そうか、それでいい。何かあれば私に言え」
フフンと鼻を鳴らし、去っていくウィリアム殿下の背中を見つめて今日のカイゼル殿下と比べてしまった。
今日、カイゼル殿下と共に居たのはミック・ヒンクリー。
頭は良いが男爵家の出で、言葉遣いも品が感じられない。
だが彼はカイゼル殿下の本当の友人であるかの様にあけすけな物言いで、時にはカイゼル殿下を正面からけなしていた。
特にそういった演出をする必要性を感じないので、あれが彼らの素のやりとりだと見ていいだろう。
ウィリアム殿下ではありえないことだ。
ウィリアム殿下は平民である聖女リリアン様と婚約するために、民のためにも身分など飾りだと主張しているがその実、ケビン皇太子の様に王族然とした雰囲気を出すことにも憧れている。
そのため、平民である聖女リリアン様とはよく話をするのに下位貴族とはあまり接する機会が少ない。もとい、それとなく減らしている。
ぼそっと心の奥底で小さな声が聞こえた気がしたが、私は首を振ってそれを無視した。
迷うことなどあってはならない。
ウィリアム殿下は乳兄弟で、次期国王と名高い。
それに父からもカイゼル殿下は絶対に王にはなれないと聞いている。
何より、劣勢になった途端に身を翻すなど愚か者のすることだ。
「ハァ、カイゼルはセイラン様命だからな。セイラン様を守るために王位が欲しいって言っているくらいだし、んなもん天秤にかけるまでもねぇよ」
翌日、カイゼル殿下に呼ばれていたため王宮へ向かうと殿下はなぜかチーズケーキを焼いていた。
話をよく聞くと、悪女セイラン・アーヴィンは生きていて、パース帝国に居るだろうから安否確認をしたいということだった。
ウィリアム殿下と婚約してから何度か悪女とは会っているが、彼女の食の好みなど初めて知った。
そしてカイゼル殿下は、悪女のために王位を欲し、王位と悪女は天秤にかけるまでも無いと言う。
目の前で処刑された愛する人の死を、どれだけの人間が疑うだろうか。
ウィリアム殿下なら悪女のために墓を暴くなんてしない。
では、聖女のためなら?
お互いに思いが通じて婚約者となった二人だが、このところ聖女の行動にウィリアム殿下が辟易して少しだけ避けているのは何となく察している。
避けているだけでなく、聖女の動向を探らせ浮気の可能性を気にしていることも。
ウィリアム殿下は聖女のために泣くかもしれないがその後はもしかすると……。
私は思考を途中で放棄して、カイゼル殿下にチーズケーキのレシピを売る方法を提案した。
私の様な敵方とも言える人間の案など受け入れられないと思っていたが、予想外に事はとんとん拍子に進み、返事が返って来た。
『無事、安全、浮気は許さなくってよ‼‼そのうち戻るわ、無理をしないで』
〝無理をしないで〟そんな言葉、悪女が使うところなど初めて聞いた。
私の知っている……いや、正確にはウィリアム殿下から聞く悪女はそんなことは言わない。
ではなぜ?
「あの悪女は己の権力欲しさにウィリアム殿下と無理やり婚約したような女です。男との噂も多い、やること言うこと全て傲慢不遜、時に暴力的……それなのに、貴方は学園でも事あるごとにあの女に感謝を述べている。
悪女の噂を打ち消そうとしていることは分かっています。なぜそこまで??
公爵家はアーヴィン公爵家以外にもあります。年ごろの娘も居ます、それなのに貴方は……
悪女にしてもそうだ、ウィリアム殿下の隣に居た時はこちらの心配なんてしなかった」
動揺し、身分をわきまえずに思いのたけを全てカイゼル殿下にぶつけてしまい、私はバツが悪くなった。
だが、カイゼル殿下は笑って答えて下さった。
「ハハ!そうかまずはそこからか‼彼女は自分の意思で兄上と婚約したわけでは無いよ、その強さを陛下に買われ、無理やり兄上と婚約させられたんだ。
それに彼女は傲慢だが、それ以上に純粋で真っすぐな人なんだ。真っすぐ過ぎて俺達が思う普通を壊していく。その姿がとても魅力的で、愛おしいんだ。兄上との違いは俺の愛の深さかな??」
今は遠く離れている、陛下が決めた政略結婚の相手。
悪い噂が飛び交い、最期には処刑された悪女。
政略結婚の条件で言うなら、既に最悪の相手と言っていい。
その相手をどれだけの人間がこれほどまでに愛することが出来るだろうか。
婚約者への愛情は、王の器とは無関係。
それは分かっている。
だが、心に決めたたった一人を深く愛することが出来る人間と、そうでない人間。
国民をより大事に出来るのはどちらだろうか?
…………駄目だな。
心が傾いてきてしまっている。
「ウィリアム殿下、聖女様。お二人はどんな国を作られる予定でしょうか?」
昼食の席、ケビン皇太子は帝国へ帰り、カイゼル殿下も初日以外昼食に参加することが無いため私は思い切って二人に聞いてみた。
二人とも、きょとんとした顔で私を見る。
「どんな?それは……民を幸せに出来る国だな」
「そうだね‼皆が楽しく過ごせる国がいいな‼」
「幸せと楽しく、具体的にはどういったものでしょうか?」
また問いかけると二人とも笑ってしまった。
「どうしたんだ改まって、カイゼルに何か言われたのか?」
「大丈夫だよ‼イバンもウィルも皆もすごく頭が良いんだからきっと良い国になるよ‼」
「…………そうですね。失礼しました、少し疲れていまして」
慣れない作り笑いを浮かべ、私はその場をやり過ごした。
私は、何を求めていたのだろう。
幼少の頃から王位を継ぐのが当たり前で、だからこそ、今それが無くなることに固執しているウィリアム殿下。
殿下が守っているのは己の尊厳。
そんなこと、昔から何となく分かっていたじゃないか。
カイゼル殿下はどうなんだろう。
ポツリと俺の中の小さい声が聞こえた。
カイゼル殿下はそれこそ、悪女のために王位を欲している。
その後のことなど考えていないはずだ。
でも、もしかすると……。
翌日、カイゼル殿下が暗殺未遂に合い、それでも王位を目指すと言っている彼に安堵した。
そして聞いてしまった。
「カイゼル殿下、こんな時にお聞きするのもなんですが貴方はどんな国を作られるおつもりですか??」
パキィィンンとガラス玉が壊れた音が鳴り響き、私は我に返った。
客席は騒然としている。それはそうだろう。
今の今までカイゼル殿下が負ける流れだった。
審判までもが目を見開いている。
隣に居るミック・ヒンクリーはクスクスと笑い出した。
「誰もコーディは一回しか出せないなんて言っていないのにな‼」
「そうだな、全員がカイゼル殿下を侮っていた」
剣も無く、ただ無防備に立ちすくむカイゼル殿下の周りを赤紫色のドラゴンが悠々と舞った。
コーディは人格がある以上、一度に一匹しか出せないが二度出せないなどは無い。
カイゼル殿下は一度目のコーディが溶かされた直後、地面に打ちひしがれた演技と共に二度目のコーディを出していたのだ。
「ククク‼愉快愉快‼‼審判よ‼号令を唱えよ‼」
コーディに言われ、我に返った審判は手を振り上げた。
「勝者‼‼カイゼル・ハイドラント殿下‼‼」
叫びにも近い歓声が、会場の全てを揺らす。
音で場内がわずかに震えている。
誰もが立ち上がり、以前までポンコツと揶揄されていた一人の男に歓声を贈った。
あぁ、貴方なら本当に叶えられるかもしれない。
カイゼル殿下は私の問いに〝騎士団がお飾りになる国にしたい〟と言った。
それはやはり悪女セイランのためで、彼女を騎士団に入れるようにしたいが戦わせたくはない。
だからこそ、諍いを起こさず、かつ下に見られるわけでもなく、どの国とも完全に対等な関係を築く国にしたいと言った。
そのために騎士団は実際には稼働しない見せかけの戦力で良いと。
上にも下にも見られず、完全な対等の関係。
そんなもの、夢物語だ。
だが彼なら、カイゼル殿下なら出来るのではないかと思ってしまう。
処刑されたはずの悪女の死を暴き、少ない魔力ながら意思のある新魔法を作り、不可能と思われたウィリアム殿下からの勝利をもぎ取る。
私は彼が見せてくれる夢を近くで見ていたい。
気がつけば熱狂的に叫んでいる周囲の観客と共に、私も元ポンコツ王子に心酔していた。
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既にしていただいた方、ありがとうございます‼
ちなみにこの作戦、ミックが考えてコーディが率先して了承しました。




