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48話 準決勝と決勝

「ヒィッ」


魔法大会二日目、準決勝。

栄えあるその場で、俺は地面を埋め尽くさんばかりの水ネズミから逃げていた。


一匹一匹の殺傷能力はほぼ無い。

だから足を止めなければ良いのだが……。


ドチャッベチャチャ‼グチャッ‼‼


心が痛い。

足を動かすたびに聞こえる異音に耳を塞ぎたくなってくる。


水で作られた大量のネズミは、コーディと違って心があるわけでなく場内中央で悠然と構える公爵子息、ブレント・ベナークが操っている。


だから何かを殺しているとかそんなことではなく、ただ水袋を踏んづけていると思えばいいのだが、それでもつらいものはつらい。


グチャチャ‼ガリッ‼‼‼


……ガリ?


水ネズミが潰れた音とは違う音に恐る恐る見ると、ガラス玉がほんの少し齧られている。


「のわぁぁぁぁあああ‼‼」


急いで水ネズミを振り払い、また走り続ける。

チラッと審判を見ると、負けにはなっていないが時間の問題だろう。


たしか大会規定では半分以上ガラス玉が崩れると負けになるはずだ。


「……~~~~っ‼背に腹は代えられない‼」


俺は試合序盤で気がついたかなり卑怯な手を実行することを心に決めた。

昨日の水の中に逃げ込むことと言い、貴族らしいとか気高い行動とは言えないが勝ちたい。


贅沢は言っていられない‼‼

魔法陣を用意する時間が無いんだ‼


俺は水ネズミを思い切り踏んづけると、その下に見える地面の土を手に取った。

今までは逃げの一手だったが、中央に居るブレントに向かって猛進していく。


腰のガラス玉はまた齧られて徐々にヒビが入ってきている。

もう本当に時間が無い。


「ブレントごめん‼‼」


手に持っていた土を勢いよく投げながら魔力を込めた。

魔法陣を通さなければコーディにはならないが、投げられた土は歪なドラゴンの形を作りブレントの目に命中した。


「え?何です……うわ‼クッソ、ちくしょう‼‼」


いわゆる目つぶしだ。


ごめん、貴族の大会でありながら本当に汚い手だとは思う。


心の中で謝りつつ、水ネズミを見るとやはりそのほとんどが形を失ってただの水に戻っていく。

コーディは作った時点で俺の管理下から離れているからこうはならないが、ブレントが作っている水ネズミは彼が全て操作しているだけ。


集中を削いでやるだけで、簡単に崩れてしまう。


水ネズミが居なくなった道を勢いよく駆け、俺は思いきり剣を振り上げ彼のガラス玉を砕いた。


パキキーン、と二重に砕いた音が聞こえ俺は恐る恐る自分のガラス玉を見た。


「……砕かれてる」


目が見えるようになってきたブレントと共に審判を見やると、審判は観客席に居る教師と何やら話している。


「…………僅差ではありましたが、勝者‼カイゼル・ハイドラント殿下‼‼」

「うわぁぁぁああ‼勝った‼‼ブレント‼医者へ‼‼」


勝利の喜びと共に俺はブレントの腕を掴んで医師の元へ連れて行く。


「ハァ……大丈夫です、一人で歩けます」


「いやいやいや、本当に申し訳ないことをしたと思ってる。ごめん、このまま医師が診断するまで一緒に居るよ」


茶色い髪に茶色い瞳のブレントは廊下の途中でピタリと足を止めて俺を笑った。


「何というか……意思をもつ新魔法を作り、学園の成績も一位をとっているのにカイゼル殿下は変に気が抜ける方ですね。なぜそんなにも優勝したいんですか?王位のためでしょうか??」


「王位もあるが、この大会で優勝すればセイランに会いに行けるんだ。信じなくても構わないが、彼女は生きてる」


即座に返すとブレントは目を見開き、爆笑しながらまた歩き始めた。


「ハハハ‼そうですか!悪女のために、王族として最低の行為を‼ハハッ‼」


「そんなに笑わなくてもいだろう⁉彼女に、愛しい人に会いに行くのがそんなにもおかしいか⁉」


「ハハ!いえ失礼しました、ご無礼をお許しください…………カイゼル殿下、今回の目つぶしの件私が勝つために貴方の友人を人質にしていたことにしましょう。


新魔法を使ったら即私の配下の人間がご友人に危害を加えるてはずだったと」


「は⁉な、何を」


俺が反論しようとした瞬間にブレントはそれを手で遮ってきた。


「その代わり、私を貴方の友人にしてください」

「えぇ⁉……いや、それでいいならこちらとしてはありがたいが、理由はなんだ?」


フフッと笑ってブレントは声を潜める。


「実は私、近々侍女を貴族の養子にしてから結婚する予定でして、彼女が私の目の届く範囲なら守ってやれますが女性だけの集まりなどもあるでしょう?


そんなとき、殿下の大事な友人の妻なら悪女が守ってくれるのではないかと。

侍女から悪女の本当の噂も聞いています。中々に豪胆で所有欲が強いらしいですね」


「…………ありがとう。セイランを連れ戻したらよく売り込んでおくよ」

「期待しています」


二人で笑いながら、医務室へと向かう。


嬉しい。

ブレントがセイランが生きていることをすんなり受け入れてくれたこともそうだが、セイランの居場所が徐々に出来てきたようだった。


最近は学園でもセイランの悪い噂は消えつつある。

俺自身が訂正して周っていることもそうだが、イバンやミックも協力してくれている。


そしてどこからともなく、彼女が見えない魔物を討ち取ったのではないか、処刑は不当だったのではという噂も流れている。


ミックが言うには、セイランに触手から助け出された貴族達、騎士の親族の貴族達が噂を流しているようだと言っていた。


あともう一押し。


パース帝国でのセイランの良い噂をこちらに持ってくることが出来れば、セイランはグラス王国でも認められる。


王国で彼女の居場所が出来る。


そのためにも、勝つ!

兄上に勝って魔法大会を優勝する。


医務室に着き、ブレントの目を見てもらうと特に異常は見られないとのことだった。







「カイゼル‼頑張れよ‼」

「ご武運をお祈りしています」


手が震え、心臓がうるさく鳴り響くなかミックとイバンの二人に見送られて俺は決勝戦に挑んだ。


ラッパの音が鳴り響き、場内に入ると今まで以上の歓声に包まれる。


中央まで進み、審判の前で待っていると反対側の入り口から金髪碧眼、国王陛下の血が通ったことが明白なその姿の兄上が堂々と出てきた。腰には剣を携えている。


俺がどんなに欲しても手に入らない王族特有の碧い瞳。

昔なら、王族として恥ずべきことが何もない兄上の姿を見ただけで委縮していた。


俺は存在するだけで恥であり、人前に出るだけで今思えば罪悪感の様な物を感じていたと思う。


だが今は自信をもってセイランが祝福してくれた紫色の瞳を誇り、兄上に正面から立つ。

兄上はただただ俺を睨んでいる。


「兄上、よろしくお願いします」

「……」


「では決勝戦‼始め‼‼」


審判の号令と共に俺はメモ帳を取り出しながら兄上と距離を空けた。

兄上はそのままの位置で腕を振り上げる。


途端にパチパチと炎が舞い、兄上の頭上に炎の玉が作られていく。。

炎の玉は教室で見た何倍も大きくなり人々の視線を惹きつけながら内側からはじけ飛んだ。


「これが……王族の魔法…………」


はじけ飛んだ余波で空気が震え、場内の淵に居る俺の所まで熱波がやってきた。


暑い。

近くにいるだけで気温が変わる。

今まで見てきた誰よりも凄まじい魔法。


兄上の魔法が時間を使った発動のおかげで、俺も魔法陣を描き終わり、メモ帳をちぎって地面に押さえて魔力を流した。


「コーディ‼頼んだぞ‼」

「ククク‼承知した‼血沸き肉躍る!これこそが強者の戦いというもの‼‼」


巨大なドラゴンと掌サイズのドラゴンが睨み合い、両者が同時に動いた。

炎のドラゴンが上空から、コーディが地上から互いに真っすぐ向き合い、大口を開ける炎のドラゴンの鼻面をコーディが貫い……。


「え……」


炎のドラゴンに迷いなく入っていったコーディは反対側から出ることはなく、ドロリと溶けて地面に落ちてきた。


「そんな……コーディ??」


「ハハハハハ‼‼やっぱりポンコツはポンコツじゃないか‼あの悪女の様に上手く出来るとでも思っていたのか⁉あいにくとあの時は人殺しになるわけにはいかないからな、手を抜いていたんだ‼


見ろ‼これが‼王族の本当の魔法だ‼‼」



足が震え、俺はがくりと崩れ落ちた。

持っていたメモ帳も木炭も落とし、みじめにもそれらを握りしめてしまう。


兄上の笑いが響き、そして炎のドラゴンは俺に照準を定めた。


「……まだだ」

ポツリと俺は呟いた。


「ハッ!負け犬が‼ポンコツは自身の負け時も分からないのか⁉怪我をするぞ‼‼」


兄上が軽く手を振り下ろすと巨大なドラゴンは俺めがけて飛んできた。

突っ伏していたその体勢から土の上を転げまわり、何とかドラゴンを避ける。


いや、今のは恐らく本気で当てる気がなかった。


だったら、油断している今が勝負‼‼


俺は剣を抜き、兄上に向かって走り、剣を勢いよく振り下ろす。

ガキィィンと金属音がして、全体重をかけた渾身の一撃はなんなく兄上の剣に防がれた。


「剣で私に勝てると思っているのか?ポンコツが‼」

「ポンコツはもう居ないと言ったはずですよ、兄上‼‼」


これほどまでに近づいてしまえば、炎のドラゴンで襲われることは無い。

俺は力任せに重たい剣を何度も振った。


ライナスに教えてもらい、今では勉強と魔法の息抜きにベルトルドやドミニクからも教えてもらっている。

昔よりは明らかに動きはよくなった。


なのに……。


俺の剣は軽く受けられ、そして兄上が込めたたった一撃に剣が弾かれてしまった。


軽い金属音が鳴り、はるか後方に剣は弧を描き落ちる。


頼みの綱のコーディは溶かされてしまった。

剣は手が届かないところにある。

兄上と距離を空ければ炎のドラゴンが、このまま近ければ兄上の剣が俺を狙う。


あと一勝!あと一勝なんだ‼それなのに‼‼


「やはり、ポンコツはポンコツじゃないか」



兄上の言葉と共に、ガラス玉は砕かれてしまった。


面白い!続きが気になる!と思っていただけたらやる気につながるためブックマークや評価をお願いします‼<(_ _)>


既にしていただいた方、ありがとうございます‼


次回、多分本日夜頃に更新します。


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