47話 二、三試合目
客席に戻り向かい側の大人貴族達の視線を一身に浴びながら、俺は内心また焦っていた。
貴族達が俺にコーディのことを色々聞きたいが、この前の暗殺未遂があり学園側が止めてくれている。
だから見られていることはいいんだが……。
問題は俺の次の試合相手カルヴィン・ギムソン男爵子息。
魔力は風。
魔力量は多くないのだが魔法の使い方が上手すぎる。
「彼は卒業後騎士を志望しており、彼と同じクラスの者に聞いたところ剣で同年代相手ならば向かうところ負け無しだそうです」
「そうか……まずいな」
彼の魔法は剣で振りぬいたところに風の刃を飛ばすという極単純な物。
だが、剣が上手くてそれと同時に風の刃が飛んでくるなんて俺では避けきれない。
「コーディを出すまでが問題だなー」
ミックの言葉に俺はこくりと頷く。
正直、コーディが出来るまで俺は無防備だ。自分の足で逃げることはもちろんできるが見晴らしの良い場内であの正確無比な風の刃からずっと逃げるなんて無理だ。
普通に考えるなら……。
俺はフッと笑った。
セイランがこの場に居なくて良かった。
こんなカッコ悪い姿、絶対に見せたくない。
「カイゼル殿下?」
「なんでもない。一応逃げきる算段はついているんだ」
イバンとミックが訝し気に見てくるが俺は首を振り、それ以上聞かないで欲しいと示した。
そして、二試合目。
黒髪黒目のカルヴィンは先ほどのラエルと違い、真摯な瞳で俺を真っすぐ見据えた。
「始め‼‼」
審判の合図と共に彼は剣を構え、風の刃を無数に飛ばす。
彼の狙いが俺の命なら、避けることは不可能だろう。
だが俺自身には傷をつけないように手加減してくれているらしく、足や首は狙わずに勝敗を決めるガラス玉、その一点に絞って風の刃が飛んできた。
お、思ったよりも早い‼‼
腰にぶら下げたガラス玉をかばいながら俺は一目散にある場所に駆けた。
場内の淵、水を張っている溝までたどり着くと、迷わずに水の中に飛び込む。
「は⁉殿下⁉」
後ろの方でカルヴィンの声がした。
魔法大会では場外負けというものが設定されていない。
周囲の溝に張ってある水もイバンの様に水が無いと魔法が使えない者への配慮だ。
勝敗はあくまで負けを宣言するか、ガラス玉を壊すかだけ。
貴族の大会で逃げるような馬鹿は居ないという前提のもとに作られている。
水の中に潜ると下は案外深く、パシャンと俺を追って来た風の刃が水を波打たせた。
ここなら風の刃にすぐに斬られることは無い。
特にカルヴィンは俺に怪我をさせない様に配慮してくれているので、狙いをさだめにくいこの溝の中にやたらめったらに風の刃を繰り出すこともしないはずだ。
だが水の中ではメモ帳も木炭も使えない。
俺は狙われない様に土の壁の方にピッタリと背中をつけながら、懐から護身用の小型ナイフを取り出した。
そして迷いなく自分の左掌にナイフで魔法陣を描いていく。
頭痛がするほどの痛みに耐えながら切っていくとすぐに水に血が溶けていき、辺り一面の水が真っ赤に染まった。
客席から悲鳴の様な声が聞こえ、水面を波打たせていた風の刃はピタリと止まった。
今だな。
ザバッと俺は一気に浮上し、息を吸いながら場内の土の地面に勢いよく手をついた。
「コーディ‼‼」
聞き慣れたピキキッと地面の割れる音がして、中から赤紫色のドラゴンが飛び出した。
コーディはチラッと俺の様子を見ると、いつもの口数が多い彼らしくないが瞬時にカルヴィンの元まで飛んでいく。
当のカルヴィンはというと真っ青な顔で俺よりも血の気が引いている。
あ、ちょっと悪いことをしたな。
風の刃が当たっていないことは俺が一番よく知っているが、彼から見たら自分の刃が当たって水を赤く染めていると思ったに違いない。
俺の様子を気にして動きの鈍いカルヴィンに元英雄が手こずるはずも無く、難なくコーディは彼のガラス玉を砕いてくれた。
「勝者‼カイゼル・ハイドラント殿下‼‼」
「で、殿下‼‼申し訳ございません‼私は……」
「いや、これ自分で切った傷なんだ……悪いが引き上げてくれないか、どうにも深く切りすぎたのか力が入らなくて……」
グラグラと視界が揺れていく中、水面が波打ち突如三人の水の小人が現れて俺を引き上げてくれた。
あぁイバンか、便利な魔法だな……。
呑気なことを思いつつ俺の視界は暗くなっていき、意識を失った。
目を覚ますとそこは見慣れない天井、遠くの方でミックとイバンの声が聞こえた。
「……大会は?」
意識を失う前のだるさが嘘の様にすっきりとした目覚めで二人に聞くと、二人とも駆け寄ってきて鬼の形相で俺を睨んできた。
「気絶されていたのはほんの数十分です。今はカイゼル殿下の血が溶け込んだ水を排水して入れ直しているところで、試合は中止になっています。
ご自分が何をされたのかお分かりですか?」
「お前さ、マジで馬鹿なんじゃねぇの??カイゼルが死んだらセイラン様追っかけるどころじゃねぇんだけど」
イバンもミックも本気で怒っているらしく、とてつもなく声が低いし雰囲気が本当に怖い。
「ごめん、でもあぁするしか無かったんだ。でもほらそんなに深く切っては……あれ?」
二人に傷を見せようと左手の包帯をずらすが、傷が無い。完全に包帯を外してみてもそこにはまっさらな掌があるだけだった。
不思議に思って右手を見てみるが当然そちらにも傷は無い。
「は⁉カイゼル傷どこにやった??」
「…………分からない」
「そういえば先ほど、聖女リリアン様がカイゼル殿下の介抱をしたいと訪れていましたが……」
イバンが顎に手を当てながら言った。
「「「…………」」」
「いやいやいや‼‼聖女様は偽物のはずだ‼でもなんで」
俺が疑問を口にしていると軽いノックが聞こえて魔法の教師が入って来た。
「カイゼル殿下ご気分はいかがでしょうか?次の試合で本日は終わりですが棄権することも出来」
「参加します、体調も良くなったので試合も見に行きます」
なぜ傷がふさがったのか?
なぜこんなにも体調がいいのか?
そんな疑問は残るがそれよりも今は魔法大会だ。優勝しなければならない。
今の俺にはそれだけでいい。
三試合目。
俺の相手は火の魔力をもつ伯爵子息。
火の玉を3つほど浮かばせて、相手に向けて放つ魔法だったが彼は精度があまり良くなかった。
というか、先ほどの血みどろ魔法陣で完全にドン引きされていて、追い詰めると何をするか分からない怖い奴と見られているのがアリアリと分かる。
ごめん、トラウマになっている人が居なければいいんだが。
本来魔法大会は貴族の高貴な大会。
自分で手を切りつけて魔法陣を描くなんて狂人は今まで居なかったのだろう。
彼がもたついている間に今回は普通に新しく用意してもらったメモ帳に木炭で魔法陣を描き、コーディがガラス玉を砕いてくれた。
「勝者、カイゼル・ハイドラント殿下‼‼」
一試合目よりも少し控えめな歓声の中、勝者は俺に決まった。
あと、一勝。
明日、準決勝で勝ち、その後決勝で兄上に勝てば優勝が決まる。
俺はまた、真珠のカフスボタンを握りしめた。
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