46話 地獄の英雄探求
「カイゼル‼コーディ‼スゲーじゃんやったな!」
「まずは一勝、おめでとうございます」
ミックが指先で手乗りドラゴンのコーディの頭を撫でて、イバンが頭を下げてくる。
「ありがとう、皆のおかげだ」
「我がついているのだ!勝利は必然‼‼」
コーディが小さな胸を張る姿に笑みがこぼれてしまう。
彼の意識は俺から完全に分離していて、魔法を発動し、形が作られた時点で後は全てコーディ任せ。
俺が消すことは出来ないし、作るときに入れた魔力が無くなるまでは基本コーディは出っ放しになる。
彼を作れたきっかけは二週間前に遡る。
自分の意思で戻って来るゴーレムもどきが出来て一週間、俺達三人は魔法大会で使える設定をゴーレムに盛りに盛っていた。
その数、実に372。
「……これを、試合中に描くのか…………」
設定を盛り込むごとに、魔法陣の内容は濃くなっていき、今では作成に三十分を要する巨大魔法陣となっていた。
そのかいあって、ゴーレムはとても自然に動くようにはなっていたがこれを試合中に描けと言われると……。
「現実的とは言えませんね。ここから魔法陣を抜く練習をしては?」
「や、もう時間が無いだろ。普通魔法陣を抜く作業は数か月かかるのにあと二週間でカイゼルが出来るとは思えねぇな」
イバンの提案にミックが首を振る。
俺もミックの意見に賛成だった。
「そうだな、すぐに魔法陣を抜けるとは思えない……そもそもこの372の設定を全て漏れなく覚えるのも時間がかかる」
「「「ん~~~」」」
三人で頭を悩ませていると、ミックが突然ポンと手を叩いた。
「設定全部が無理ならよ!人格作っちまえば良いんじゃねぇの??例えば……勇敢で優しくて人の助けになるのが好きな性格のゴーレム‼‼」
「……無謀、だな。人の性格とは存外にあやふやで勇敢一つ取っても、人によってその行動は変わってくる。設定を盛り込むよりも難しくなるぞ」
「実際に居る人間なら、そんなに難しくないんじゃないか??例えば……アスラン騎士団長とか?」
俺の提案に二人は顔を見合わせた。
「怒られるぞ」
「そもそも、全ての行動を把握出来るほど騎士団長のことを知り尽くしているのですか?」
「いや……強い以外よく知らない」
「んじゃセイラン様とか‼」
「無理だ‼セイランを率先して戦わせるとか俺には出来ない‼‼」
「「「…………」」」
「昔の英雄はどうでしょうか?」
俺達三人が頭を悩ませていると、新護衛ベルトルドがポツリと言った。
基本的に護衛に徹して口数の少ない彼だが、この誰が何を言っても良い雰囲気に慣れてきたのか、最近は話してくれる。
「昔の英雄?でもそれこそ性格が分からないんじゃないか??」
俺が聞くとベルトルドは顔を赤くして頬を掻いた。
「……実はその、私は昔の英雄の私物や伝記を収集する趣味がありまして、何人かなら本人だけでなくその家族や友人の日記も含めて持っています。
彼らの過ごした空気を感じたくてその土地の土や植物を採集したり、彼らが着ていたとされる服を再現したりしているので、かなり近い状態まで性格を知ることは可能かと」
「マジで⁉てかそれ本人が生きていたら変質モガッ‼」
ミックの口をイバンが塞ぎ、俺はベルトルドに笑顔で向き直った。
「ありがとう‼じゃあベルトルドおすすめの英雄の資料を貸してくれないか⁉」
「はい‼‼もちろんです‼‼」
かつて見たことが無い程に晴れやかな顔に若干の不安を覚えてしまう。
ベルトルドはセイランの処刑を許容出来ないと言っていた。
彼から見て、セイランが英雄枠に入っていなければいいのだが……。
そして次の日、実家から取り寄せた分含めて数十冊の本とコーディが住んでいたとされる土地の品々、そしてなんと家の小さな模型にお手製の服、ついでに彼が食べていたおばあちゃんのスープのレシピまでついていた。
これ、自分がやられたらと思うと怖いな……。
「コーディ・エマーソン享年82歳。
王国騎士団入団試験を3位の成績で入団、その後、メキメキと頭角を現し最終的には王国の騎士団長にまで上りつめました。
300年前の英雄、コーディ・エマーソンの特徴は何よりその性格です‼言葉遣いもさることながら彼は優しさの中に非情さを兼ね備えています。そして人を導く才能がある‼
彼が5歳の時に妹のブリトニーと森に入り、狼の群れに襲われた時彼は何をしたと思います⁉
その類まれな剣技をただの木の棒で披露して左腕を犠牲にしながらも狼の群れのボスを蹴散らし村に帰った後、森中に罠を置くことを村の大人達に説得しました。
彼が言うには村の近くまで狼が来たのは魔物が近くまで来ているからとのことでした。村の大人達は最初聞く耳をもちませんでしたが、コーディは夜の森に村の大人を連れて率先して入り、魔物の足跡を見つけて罠の設置の説得に成功しました。
そして実際に村に魔物が入った時には大人顔負けの魔法で魔物を撃退。
その時5歳ですよ‼5歳‼‼凄くないですか⁉」
「ウン。スゴイナ」
今まで見たことが無い程の彼の熱量に圧倒されながら俺は資料を一つ一つ見ていった。
資料の数々は本当に凄いとしか言いようがない。
彼の日記や騎士団での報告日誌の写し、彼が恋した女性の日記、恋文まで本当にありとあらゆる物がそろいすぎて恐怖を覚えてしまう。
そして、ベルトルド先生によるコーディ・エマーソン地獄の講習会は始まった。
「コーディが嫌いなニンジンと大好きなニンニクを炒めた料理が出てきました。コーディが答えた言葉は?」
「我が食したいのはニンニクであってオレンジの菜っ葉ではない‼そこな小僧‼菜っ葉を食べればでかくなれるぞ‼要らぬか⁉」
ベルトルドの質問にコーディらしく答えると、ベルトルドは額に手を当てて頭を抱えた。
「惜しい‼惜しいですカイゼル様‼‼コーディはニンジンのことをオレンジの菜っ葉ではなくオレンジの根っこと表現します‼‼」
こんな調子で言葉の端々まで、修正が入り、コーディ・エマーソンの人格を作っていった。
朝、起き抜けと共にコーディの資料を読み、コーディの食べていた朝ごはんを食べ、学園に向かいながらベルトルドからコーディの話を聞き、問題に答えていく。
驚いたというかやはりというか、ドミニクの方が早く覚えて、しかも彼も英雄は好きらしく二人はこの件を通じて話をするようになったらしい。
「お~い、カイゼル大丈夫か??」
教室でぐったりしている俺をミックが心配してくれても、俺の頭の中では瞬時にコーディが答える。
『ククク!我はコーディ・エマーソン‼英雄なるぞ‼其方の様なか弱き小僧に心配される筋合いなど無いわ‼』
「大丈夫だ……頭の中にコーディが住んでいる気がしてちょっと変な気分だが……」
おかげ様で、授業中も休憩中も夢の中でさえも頭の中はコーディ一色。
ちょっと気が狂いそうだった。
急ピッチでみっちりコーディ漬けになること一週間、ようやくベルトルド先生から合格をもらい、コーディの人格を模したゴーレムを作ってみた。
頑張った甲斐があり、人格はコーディ・エマーソンその者が出来た。
……が、またしても問題は発生した。
「なんだこの姿は‼‼我は誇り高き英雄‼コーディ・エマーソンなるぞ‼‼もろい土人形などになるくらいなら死を選ぶわ‼‼」
「うわぁ‼コーディ・エマーソンが話している‼‼カイゼル様‼ありがとうございます‼‼」
キャラが崩壊してきているベルトルドはさておき、俺は頭を悩ませた。
自分の土人形から、まさか見た目に関して文句が出てくるとは思いもしなかった。
「えっと……どんな見た目が良いんだ??」
「ふむ、英雄に相応しき雄々しき姿……ドラゴンか、獅子を所望する」
「良いんじゃねぇの?どっちみちこの小ささだ、飛べた方が良い」
と、ミックの援護もあり魔法陣にドラゴンの姿を組み込む。
すると意外や意外!
兄上のドラゴンを目に焼き付けたおかげか、あのドラゴンにそっくりの手乗りサイズのドラゴンは難なく完成した。
「おぉ!良い‼良いぞ‼‼我が主はなんと話の分かる‼……してもろさの改善は??」
小さい尻尾をプリプリと振りながら、自分の姿に感動する小さい英雄に思わず笑ってしまった。
だが、強度…………。
「こちらはどうでしょうか」
イバンが辞書の魔法陣を見せてくれた。
それは、土を宝石に変質させる魔法。
「ダイヤモンドに変えれば、強度は格段に上がります。見た目も英雄のそれです」
「ダイヤモンド‼良い‼それは良いぞ‼‼」
コーディがとても喜ぶ中、魔法陣に土を変質させる魔法の魔法陣を組み込んでみたが……。
「「「…………」」」
「どうした小僧共‼‼主‼はよ姿を見せんか‼‼なぜか体が動かんのだ‼‼」
キラキラと輝く透明な石、まさにダイヤモンド。
それはいいのだがダイヤモンドに意識を持って行かれ過ぎたのか、魔法陣の中でも影響に強弱があるのか土台付の石柱が喋っているようにしか見えない。
「これどっから話しているんだろうな」
「声がくぐもっているから土台の下に口があるんじゃねぇ?」
「見せろと言うからには目は見えているようですね」
魔法大会まであと三日。
「もうこのままちょっともろいドラゴンじゃダメか?」
「ふざけるでない‼‼それでは騎士が剣を持たずに戦いに挑むようなもの‼‼負けは確実‼‼」
問いかけて自分の魔法で作ったドラゴンに鼻をペシペシと叩かれるのはとても変な気分だった。
「ダイヤモンドでなくてもいいのでは?例えばルビーなどのコランダムもかなりの強度のはずですよ?」
「「「「コランダム??」」」」
紅茶を取り換えてくれているサマンサに三人と一匹で質問すると溜め息を吐かれた。
「……私もよく知りませんがそういう石の仲間です。ルビーとかサファイアとかがそれにあたります」
眉間に皺を寄せて答えるサマンサにメリーがポンと肩を叩いて引き継いだ。
「上手く想像が出来ないのならまずはそちらのコーディさんに色を塗ってみては??」
そしてメリーに塗られたコーディの色はなぜか赤紫。
「ルビーは一般的には赤ですが、こちらの様に赤紫の物も存在します。殿下が作った魔法というのなら、一緒に殿下の色を入れた方が話としては広がりやすいでしょう」
「なるほど」
「良いな‼娘御‼よくやったこの色気に入ったぞ‼」
享年82歳からすると42歳のメリーも娘となるらしく、態度に出さないようにしているがメリーの機嫌はすこぶるよくなった。
基本的に魔法陣を使えば魔法は誰でも同一ものが出来る。
ただ今は新魔法の作成の段階で、魔法陣の出来が荒いので俺の想像に頼っている部分も大きい。
こうして、魔法大会まで残り一日という本当のギリギリで赤紫色の手乗りドラゴン、コーディは出来上がった。
俺、ミック、イバンは客席に行き、他の試合を見るが場内ではまだ崩れた土蛇の土をならしているところだった。
「本当に強いな、君が出来上がってよかったよコーディ」
「我を作ったからには勝利で答える‼それが我だからな‼」
以前の俺のゴーレムでは到底太刀打ちできなかった巨大な大蛇を一撃で壊してしまうのだから、姿形も強度も、そしてベルトルドから教わったその性格も全てがこのコーディには必要だったといえる。
「しんみりしてんなよ‼まだ一勝!次もその次も勝つぞ‼」
「油断は禁物ですよ、殿下、コーディ!」
「うん」
「心得ておるぞ‼」
魔法大会で兄上に勝って優勝、夢のまた夢の様な話が現実味を帯びてくる。
セイランが聞いたら驚くだろうな。
彼女は喜ぶだろうか、もしかしたら彼女も騎士が好きだからコーディの性格そのままのこのドラゴンを気に入るかもしれない。
もうすぐ迎えに行くから、そうしたらたくさん話そう、セイラン。
俺は真珠のカフスボタンを握りしめ、遠い愛しい彼女に思いを馳せた。
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