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42話 演出と聖女の魔法

「つっても、まだ足りねぇな」


次の日、学園に登校してすぐに教室でミックに魔法の進捗を伝えると、喜んではくれたが渋い顔をされた。


学園側は昨日の暗殺未遂の一件のために衛兵を増やしてはくれたが、中に護衛を入れることはさせてくれなかった。

結局の所、己の身は己で守れということらしい。


「そうなんだよな、形も歪だし足取りも覚束ない。しかもあれじゃ出来ることがほとんど無い」


俺もミックも腕を組んで悩んでいると、教室の外がざわめいた。

様子を伺っていると人垣の中から包帯と眼帯をして顔を腫らせたイバンが出てきた。


「イバン‼‼」

「おはようございます。カイゼル殿下、ミック・ヒンクリー」


俺がイバンに駆け寄っても彼は平然と挨拶をしてきた。


「どうしたんだその顔は⁉まさか昨日の」

「いえ、モラレス侯爵に殴られました……カイゼル・ハイドラント第二王子殿下」


意味が分からない、モラレス侯爵というとイバンの父君だ。

なぜ優秀なイバンを殴ったりなどする?


俺の困惑を無視し、イバンは深々と頭を下げてくる。


その後ろの人垣では聖女リリアンが口元に手を覆い、兄上が俺を視線で殺さんばかりに睨んでいる。


「私は昨日、乳兄弟であるウィリアム・ハイドラント第一王子殿下を裏切り、カイゼル殿下に加担することを心に決めました。


カイゼル殿下、貴方は賢王の器にあると私は考えます。

貴方は万能ではない。だがそれゆえに、柔軟で愛情深く何より芯が強い。


私は昨日父であったモラレス侯爵に勘当され、ただのイバンとなってしまいましたが、それでもこの身、この一生をかけて貴方に忠誠を捧げると誓います」


教室中が静まり返る中、イバンは固い声で朗々と語った。


俺のせいで勘当された……。

イバンがこちら側につくことは望んだが、彼に全てを捨てさせるつもりは無かった。

俺の考えが甘かった。


「イバン……ごっ!」


謝ろうとした瞬間、隣に居たミックに足を思い切り踏まれた。

何をするのかと見ればミックも真剣な顔で兄上に負けず劣らす睨んできている。


『演出だ』


口だけを動かし、俺に伝えてきた。


あぁそうか。


わざとこうして大きな声で教室中に分かる様に誓いをたてているのは、頭を上げないのは俺のためか。

ここで兄上よりも王として資質があると周囲に印象付けるため。



「ありがとう……全てを捨ててまでついてきてくれるイバンに俺も一つ約束をしよう。


男として、人として、次期王の候補として、また王となった暁には王として、日々研鑽を積みより高みへ、他者を救い導ける存在へ成長することを約束する」


イバンは顔を上げて柔らかく微笑んだ。


「カイゼル殿下らしい約束ですね。承知致しました、その約束を叶えていただけるように私も尽力して参ります」


パチパチと隣から拍手が聞こえた。

ミックが一人で拍手をしているのだ。

そして人垣の中からもちらほらと同調する拍手が聞こえ、その数は増していき、教室中の兄上と聖女以外が俺とイバンのやりとりに拍手を贈ってくれた。


あぁ俺はとんでもないことをしているのかもしれない。


ただ、セイランを守るためだけに欲しいと思った王位。

それは多くの者の人生に響いてしまう決断だった。


でも、立ち止まるわけにはいかない。

巻き込んでしまったのだから、彼らに報いなければならない。


幸い俺には多くの支えてくれる人達が居る。


歯に衣着せぬ物言いで俺を叱咤してくれる侍女のサマンサとメリー。

冷静沈着で優秀な護衛のドミニク。

王家ではなく、俺個人に仕えてくれるベルトルド。

全てを捨ててまで俺についてきてくれるイバン。

俺なんかよりもずっと頭が良いミック。

何だかんだで俺が困っていると助けてくれる万能なライナス。


そして、弱い俺の背中を蹴り飛ばしてくれる最愛のセイラン。


俺に関わる人達は皆俺よりも優秀なのに、助けてくれる、支えてくれる。


彼らに認められる王になろう。


止まない拍手の中、ぎゅっと拳を握り俺は意思を固めた。







「で、イバンはミックの家に泊ることになったんだな。王宮の俺の住んでいる宮だったら部屋を用意できるけど良いのか?」


「はい、元々準備が整うまでの期限付きで宿泊させてもらうだけですので問題ありません」

「準備??」


俺が首を傾げて聞くと、ミックがその後を引き継いだ。


「何か資料揃えて子供の居ない貴族の家を周るんだと!そこで養子にしてもらう魂胆らしいぜ‼」


「モラレス宰相の息子という肩書は消えましたが、私個人の価値が消えたわけではありませんので」


「さ、流石だな……」


転んでもただでは起きない‼


周る貴族のリストを見せてもらうとモラレス侯爵よりも上の公爵家も含まれていて、ただただイバンを尊敬してしまう。


俺だったら陛下に見放されているのと同じ様な状態とはいえ、そんなすぐには行動に移せない。


授業が終わり、俺たちは一度王宮に行って俺の自室で魔法の練習をすることに決めていた。

そんな中、歩いていると見覚えのある艶やかな金色の髪の少女が玄関で立っていた。


例によって男子生徒数人と護衛騎士を連れているが、兄上の姿は無い。


「カイゼル様‼‼やっと来たぁ!」


ぞわっとする程に甘い声で呼び止められて俺は一歩下がってしまった。

その様子にミックが噴き出す。


「……なんでしょうか、聖女様?」


聖女リリアンは俺の反応などお構いなしに近づいてきて、可愛く包装された包みを手渡してきた。


瞬間、ザワリと何かが体に入った感触がした。


「遅くなったんですけどぉ!期末テスト一位おめでとうございます‼カイゼル様だったら絶対一位だって私、信じてました‼‼」


恥ずかしそうに顔を赤くして上目遣いで袋を渡され、心臓が俺の意思に反してドキリと跳ねる。


…………可愛い。


さっきまで、この完璧な少女の何が嫌だったのかと思うほどに聖女リリアンは可憐で、少し潤んで輝いた瞳、赤く火照った顔、耳、全部が可愛い。


俺も若干顔が熱くなっているのを感じながら、ゆっくりと可愛いリリアンが差し出した包みを手に


…………いや、赤面している姿なら普通にセイランの方が可愛いだろ。


なぜこんなにも作り込まれた仕草に心惹かれたのか、不思議に思う程に聖女リリアンへの気持ちは急激に冷めていった。


そう、セイランの方が作った感じがしない、というかあの照れは完全に天然だ。

だからこそ、普通に見れば意地を張りすぎている時もあるかもしれないが、彼女はそこが可愛いんだ。


もちろん、極々稀に出る素直さもとても可愛いが。


伸ばしかけた手を戻し、俺は聖女を冷めた目で見返す。


「聖女様、兄上はこのことをご存じなのでしょうか?」

「え……」


俺の返しに聖女は驚愕の表情で固まった。


「私が言うことではありませんが、今回のことで兄上はとても傷ついています。慈愛の心を持つというのなら、癒してさしあげてください。失礼します」


軽く頭を下げ、イバンとミックも俺に続いて馬車に向かった。


後ろを振り返るとまた声をかけられそうなので絶対に振り向かないが、どうにも彼女は立ちすくんでいる気がした。


ベルトルドに馬車の扉を開けてもらい、中に入ると俺は頭を抱えて一気に息を吐いた。


「危なかった……」

「ホントな‼俺カイゼルがもう終わったと思ったわ‼‼てか、聖女様男好きにも程があんだろ!ウィリアム殿下はもう使えねぇと思って見限ったのかね」


「……?危ないとは?」

「それがさー!」


訝しむイバンにミックが聖女の闇魔法のことを説明していく。


たしか彼も聖女の取り巻きの一人だったはずだが、今では魔法の効力が切れているのか驚きながらも淡々と話しを聞いている。


さっきの危機的状況を体が覚えているのか、ドクドクと心臓がうるさく脈打っている。

なぜ闇魔法が解けたのか分からないが、完全に操られないで良かった。


出来るだけ聖女と接触は避けていたが、流石に声をかけられて無視は出来なかったし……。


俺は真珠のカフスボタンを握りしめた。


うん、やっぱり聖女よりもセイランの方が可愛いし綺麗だ。


面白い!続きが気になる!と思っていただけたらやる気につながるためブックマークや評価をお願いします‼<(_ _)>


既にしていただいた方、ありがとうございます‼



一応書くと、愛ゆえに魔法が効かなかった‼‼みたいな話ではないです(笑)


その内に回収します。

回収した時、なるほど!と思っていただけたら幸いです‼


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