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43話 悪女以上に怖い物は無い

※セイラン視点です

ケビン・マルティネスという男は絵に描いた様な完璧な男。

輝かしい実績もさることながら、民からも騎士からも慕われ、これといった欠点が見当たらない。


本当に人間かしら……。


「セイランちゃん!愛しのケビン皇太子がもうすぐ帰って来るってよぉ~」

「何が愛しのよ‼‼わたくしが好きなのは……」


「好きなのは?」


ベア隊長の軽口につい本気で返してしまい、ホンザが真面目に聞き返してくる。


周囲の演習場の掃除をしていた面々も皆、顔は向けていないが耳はしっかり聞いているのが感じ取れる。


「~~~~~~~っ‼‼な、何でも無いわ‼それよりも呼び出した理由は何かしら⁉」


「ハッハッハ!いやぁ~若いっていいねぇ!

呼び出しの理由はなぁ、セイランちゃんにはケビン皇太子の護衛をやってほしいんだよ。もちろん休憩には交代にホンザが行くから‼」


ケ、ケビン皇太子の護衛⁉


「嫌よ‼お断りでしてよ‼‼ベア隊長わたくしは」

「セ~イランちゃん!食わず嫌いは良くないなぁ」


「はぁ⁉食わず嫌い???」


ベア隊長はわたくしの頭にポンと手を置いてきた。そのままクシャクシャと子供にするみたいに頭を撫でてくる。


「セイランちゃんが今、誰を好きでも良いけどさぁケビン皇太子は決して悪い人じゃない。一緒に居てどんな男なのか見るくらい別にいいだろ?


それともケビン皇太子が良い男過ぎて、ネックレスの恋人がどうでもよくなりそうで怖いのかな?」


ベア隊長は有無を言わさない雰囲気のまま笑顔で見下ろしてきた。


「な!こ、恋人じゃ……ネックレスのこと、知ってたのね」


団服は厚い。

だから少し大きめのネックレスでも隠せていると思っていたのだが、いつの間にか気がつかれていたらしい。


「……どれだけケビン皇太子のことを知ろうと、わたくしの気持ちは変わらないわ……その、パース帝国の皆のことは好きよ。でもわたくしは皆の希望に沿うことは出来ないの」


「うん、それでいいから一回ちゃんと目の前の人を見なさい。好意を向けてくる相手を蔑ろにするのはおじさんよくないと思うなぁ、それに、ケビン皇太子は良い人だ。


魔物の多いこのご時世に出来るだけ俺達が生き残れるように策を巡らしながらも、民のことも考えている。俺としては二人はだいぶ馬が合うと思うんだけどなぁ」


「……分かったわ」


確かに、好意を向けてくれる相手に世話になっておきながら拒否し続けるのは違う。

それに聞きたいことも山ほどある。






そして、ケビン皇太子が皇宮に戻って来てその護衛をすること早一週間。


諸々の贈り物を重宝させてもらっていることの礼を言い、お互いに業務連絡以外ほとんど話さずにわたくしは護衛に、ケビン皇太子は公務に勤めていた。


護衛になってしまうと何かあると思ったが、意外にも彼は真面目に仕事をしている。


「なんだか拍子抜けって顔しているな」


ケビン皇太子お気に入りのガゼポを改造した外の書斎で、彼はコーヒーを飲みながらいつものにやけた顔をしてきた。


「そうね、人を小馬鹿にする以外にも真面目に仕事をしていたなんて驚きだわ」


わたくしが冗談交じりに返すと、彼はククッと年相応の少年の様に笑う。


「俺だって仕事くらいするさ、ちょっと待ってろ。これが終わったら静かに護衛していたご褒美に何でも答えてやる」


何でも……。


外の書斎は日差しが温かく、風が気持ち良い。

柔らかい風がケビン皇太子の銀色の髪を揺らし、太陽光に反射してキラキラと輝いている。


綺麗ね。


グラス王国で出会った雰囲気と違い、ここで見るケビン皇太子は年相応、いえ偶に年齢よりも子供っぽい時がある。


もちろん国の重鎮達と話すときはいつもの尊大な態度をとっているが、普段はとてもリラックスして、気を抜いているのが傍から見ていても分かる。


本当に彼にとってグラス王国は敵国だったのかしら。


そうこうしていると書類の山が減っていき、それを持って側近の男が消え、代わりに侍女が一口サイズのチーズケーキと紅茶を持って来た。


…………これ、カイゼルのレシピの物よね。

全部お見通し、ということかしら。


「どうした??好きなんだろ?プッ!取って食ったりしないからほら、そこ座れ」


「……わたくしが国王に殺されると言ったわね。教えて頂戴、役目とは何なのかしら?貴方、わたくしに何をしたの?それにここの平民が魔法を使えるのはなぜ?」


聞きながら、ケビン皇太子が移動した長椅子の正面に座ると彼は優雅に頷いた。


「まず、誤解を解くと俺はセイランに何もしていない。むしろ俺も巻き込まれた側だ。セイラン、グラス王国の方角は今分かるか?」


「あっちにあるわ」


わたくしは迷いなく右斜め前を指さした。


わたくしには帝国に入って三つの違和感があった。


一つは平民が魔法を使えるということ。

魔力量は少ない傾向にあるが、誰でも分け隔てなく魔法を使っていることには驚いた。


二つ目はグラス王国の存在がどこに居ても分かること。

王国に居る時には感じなかったが、離れてみるとはっきり分かる。


あの国から何か異質な雰囲気が出ていて、わたくしはいつでもどこでもグラス王国がどこにあるのか手に取るように分かる。


そして三つ目、魔物の被害の大きさ。

王国ではさほど問題になっていなかった魔物が帝国では異様に数が多い。

騎士団の面々に聞いてもこれが日常茶飯事というので、普通がよく分からなくなってくる。


「そう、それが俺達が王国の魔法の影響を受けている証拠だ」

「王国の魔法?」


ケビン皇太子の表情が変わり、忌々しそうにグラス王国の方角を見つめた。


「あぁ、帝国に来て分かったと思うが本来人は誰でも大なり小なり魔力を持って産まれてくる。


グラス王国は平民に祝福のまじないと偽り魔法陣を描き、その魔力を奪っている。そして、その膨大な魔力で魔物を作っている」


……今、何て言ったかしらこの男。

平民の魔力で魔物を作ってる???


「馬鹿言わないで‼そんな魔法、聞いたことがないわ‼」


「千年以上前に抹消されるはずだった魔法だからな。だが見たこと無い魔法で言えばあの突然魔物が出現した魔法も初見だろう?あれも似たような作りで出来てる」


「…………」


たしかに、あの魔法陣も見たことが無かった。


ケビン皇太子が言うには、千年前魔法は今よりも発展していて、違う属性の魔法も合成して使っていたらしい。


しかし、その技術を使って何十万という人間の魔力を合わせて魔法を使ったところ異変が起き始めた。


まるで世界の均衡を図るかの様に、その魔法を壊すことを役目とした人間が続々と現れるようになった。


どれだけ運命に抗っても、結局はその魔法を壊すことに行きついてしまう役目を与えられた者達。


それが、わたくし、ケビン皇太子、そして歴史上では聖女や英雄と呼ばれる者達。


魔法を結局壊されるのであれば、意味が無い、また魔法の力としては強すぎるとして千年前の人間は当時の魔法の文献を全て処分し箝口令を敷いた。


しかし、魔物の作成方法をグラス王国が手放さず魔法陣をそのまま使い、他国を攻撃するが聖女や英雄に魔物を一掃されるということを繰り返している。


魔法で出来た魔物を一掃したところで元を断たねば意味が無い。


歴史上の聖女たちは魔物を一掃することには成功したが、グラス王国のどこかにある魔物を生み出す魔法陣、そして王族が魔法で魔物を作っているという事実にはたどりつけなかった。


だからこそ、ケビン皇太子は今回で魔法陣を見つけ、その資料を全て破棄し魔法陣の存在を知る全ての人間を根絶やしにするつもりだと言う。


「根、根絶やしって……」


大きすぎる話に本来であれば戸惑うところなのだろうが、今のわたくしにあるのはケビン皇太子に対する不安だった。


彼はこの話が始まってから、いつものにやけ顔が全く出てこない。

良く言えばとても真剣、悪く言えば魔法を壊すこと以外何も見えていない感じ。


「あぁそうだ。こんないかれた魔法は今回で全て終わらせる。グラス王国の魔法に関する書類は全て燃やし、王家の人間は皆殺しに、ゲホッ!……何するんだ‼」


わたくしは話し続けるケビン皇太子の口の中にちぎったチーズケーキを投げ入れた。


彼は当然の様に咳き込み、わたくしを睨みつける。



「フフフ!何ってカリカリした乙女の様になっているから、糖分を入れてあげただけでしてよ?弱虫さん??」


「何だと⁉」


ケビン皇太子の様子はここ一ヵ月で何度か見た、魔物の脅威に怯え、全てを捨てて戦おうとする者のそれに似ていた。


魔物が怖いのか、魔法が怖いのか、それともグラス王国そのものが怖いのか、わたくしには分からない。


でも、怯えていても戦おうとする者にわたくしは必ずすることがある。



わたくしは怒るケビン皇太子の隣に座り、懐から白く輝く長い布を取り出した。


「腕を出しなさいな」


「……」


ケビン皇太子は先ほどのことをまだ怒っているのか、睨みながら片腕を突き出してきた。


わたくしはその腕に優しく白い布を巻いていく。



「よく頑張ったわね、これはわたくしからの賞賛の証よ」


「賞賛??何を言ってる俺はまだ何も……」


「結果を出すかどうかは二の次。まずは立ち上がらねば、動き出さねば誰も何も救われない、だからこそどんなに怖くてもみじめでも前進することが重要なの。


フフフ!知ってるかしら、自分を奮い立たせて動き始めるその瞬間の素晴らしさを!失敗して失敗して成功した瞬間の輝きを‼」


ケビン皇太子は綺麗な水色の瞳を見開いてわたくしを凝視してきた。

その瞳を見つめながら彼の両頬を挟んでじっくりと思いを込めて語りかける。


「ケビン・マルティネス‼自信を持ちなさいな‼‼この傲慢悪女、セイランが賞賛しているのよ‼

悪女はお世辞は言わない、真に‼心動いた者にしか賞賛なんてしない‼‼


障害があるなら!怖い物があるならこのわたくしに言いなさいな‼

最低最悪の傲慢悪女以上に恐ろしいものなど‼この世になくってよ‼‼‼」


ケビン皇太子の限界まで見開かれた瞳が、潤み、微笑みに変わるとわたくしはそのまま引き寄せられ、抱きしめられた。


「やっぱり最高だなセイラン」


面白い!続きが気になる!と思っていただけたらやる気につながるためブックマークや評価をお願いします‼<(_ _)>


既にしていただいた方、ありがとうございます‼


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