37話 心配と現実
前回侍女の名前間違えました。
すみません。
カイゼルと一緒に居るのはハンナではなく、サマンサです(汗)
ドミニクに言われて朝食を食べながら隣で待っていると、彼は迷いなく描き進めていった。
「描けました」
「ありがとう助かったよ……ってあれ?」
ドミニクから受け取るとそこには確かに見たことも無い魔法陣が描かれていた。
だがなぜか、とても最近見た気もする。
ドミニクの覚え間違えか?
いや、魔法陣はこんな感じだった気がするけど……。
「どうされましたか?」
「……なんか、最近見た気がするなと思って……気のせい、かもしれないけど」
「見たことがあるというのはこちらと混同されているのではないですか?朝、描かれた魔法陣とよく似た箇所が多くあります。これやこれですね」
ドミニクは俺が描き散らかした魔法陣の中から数枚取り出して見せてくれた。
その中には土属性以外にも、光、火、風の属性の魔法陣。
ドミニクは平然と魔法陣を指し示すが俺はその様子に目を見開いた。
「他属性の魔法陣を……合成させる??そんなのアリか?というか、どうやって発動して??」
属性は聖女以外、一人一つ。
聖女も本来の属性とは別に聖女特有の治癒の力をもっているだけで属性は一つだ。
…………いや、方法はあるな。
魔法陣はいわば魔力を特定の魔法の形にするための管だ。
だから複数人で一度に魔法陣を使って魔法を使えば……。
「ハッ!すごいな‼これが可能なら!これなら何だって出来る‼」
複数の属性を混ぜて魔法を使えるなら、今回の様な突然魔物を出現させることも可能だし、人が想像できる全てを魔法で再現出来る‼‼
「何で今まで気がつかなかったんだ‼‼この方法を使えば数人どころじゃない‼数十人!数百人‼いやもっと多くの人間で大規模な魔法を使う……こと……も…………」
ドクドクと元気良く早く打つ心臓が一気に締上げられた様な感覚がした。
『この国はさ、何か根本的な秘密があんじゃねぇの?それをケビン皇太子が知ってその秘密を壊そうとしている、とかさ!』
この国の根本的な秘密……。
ミックの考えではこのグラス王国の平民だけが魔力をもたないとされている。
それが間違いだったら?
魔法陣を使えば多少の適正の違いはカバー出来る。
例えば〝誰かが〟王国全体の平民の魔力を奪って大規模な魔法に使っているとしたら?
その〝誰か〟は魔物を出現させた魔法陣にいち早く気がつくはず。
〝誰か〟の心理として、是が非でもこの魔法陣は表に出さないようにするはず。
その〝誰か〟が国王陛下だったら??
本腰を入れて調査をしないのも、アスラン騎士団長を黙らせるのも、ケビン皇太子の口車に乗ってセイランを処刑し、話題を逸らしたのも……。
ガタタッと音をたてて俺は勢いよく立ち上がり、ドミニクが描いてくれた魔法陣の紙を朝食の皿の上に乗せると、引き出しからマッチを取り出して燃やした。
「「殿下⁉」」
部屋に居る侍女のサマンサ、メリーが声を上げ、ドミニクも目を丸くして燃えている紙を見つめている。
「三人とも、今ここで起こった出来事を口にすることは許さない。ドミニクはただ俺の魔法陣の書類を整理してくれただけ、いいな?もしかするとこれは命に関わる件かもしれない」
初めて脅すように命令すると、三人はお互いに顔を見合わせながらもただ頷いてくれた。
「ドミニク、記憶力が良いことはどれだけの人間が知っている?」
「……両親と、友人二人……あと、聞かれたので元騎士のライナスさんぐらいでしょうか。特に言う必要を感じないので、見た物を忘れないとまでは基本的に伝えていないです」
「分かった、行方不明のライナスは別として、ご両親と友人には俺の恥ずかしい日記を見てしまったから、ドミニクの記憶力が特別良いことは口止めされたと言っておいてくれ。
必要なら俺から一筆書く。」
「いえ……多分大丈夫です」
皿の上の紙が全て燃えたことを確認して俺は音をたてて椅子に座った。
自分を落ち着かせようとして紅茶に手を伸ばすが、その手が震えていることに気がついて握りしめた。
今考えても仕方が無いこととは思っても頭の片隅でちらつく。
陛下は何の魔法を使っているのか?
証拠は何も無い。
全ては俺の妄想であって欲しいけどそれ以上に、セイランの処刑を面倒くさそうに行ったあの陛下なら、とんでもないことをしているのではないかと思ってしまう。
それに……。
ケビン皇太子がセイランを利用しようとしているならそれは、命に関わるかもしれない。
「クソ!クソ‼クソッ‼‼‼」
今、この時もセイランは大変な目に合っているかもしれないのに俺は何をしている??
本当に悠長に兄上と張り合っている場合か??
まだセイランの安全を確保出来ていない、それでも無理をしてでもパース帝国に
パン‼‼
突然の破裂音に驚いて振り向くと、メリーが手を叩いたようだった。
「……何を悩まれているのか知りませんが、どうせあの悪女のことでしょう?
殿下、あの女は傲慢悪女です。我が道を阻む全てを貶め、薙ぎ払う傲慢悪女。淑やかではない分強いです。少しは落ち着かれては?」
「…………そうだな」
メリーの言葉に深呼吸して、俺はゆっくりと握っていた拳を開いて紅茶を一口飲んだ。
考えても分からないことは分からない。
全ては証拠が無い。
ただ、落ち着いたおかげで一つだけ良い案が浮かんできた。
「チーズケーキを作ろう」
「「「は???」」」
呆けている侍女二人に俺はチーズケーキの材料を大量に買いに行かせ、俺は厨房に行ってひたすら二人を待つ間にある分だけのビスケットを砕いた。
「え~っと??これどういう状況??」
しばらくして、順に一口サイズのチーズケーキを焼いているとミックとイバンがやってきた。
二人とも俺の魔法練習に付き合うために来てくれたのだ。
「ミック!イバン‼丁度良かった!二人の知恵を貸してほしい!どうすればこのチーズケーキをパース帝国の騎士団に届けられる?俺の名前ではなく、別人の名前で‼」
「……まとめると、詳細は言えないがパース帝国の騎士団に居るかもしれないセイラン様の身に危険が迫っているかもしれないから好物のチーズケーキを送って反応を見たい。
本当に危険が迫っているなら何か助けを求めてくるかもしれない、そうしたら単身パース帝国に乗り込みたいってことでいいか??」
ミックが頭を抱えながらまとめてくれが俺はそれに首を振った。
「いや、セイランの性格からして危険が迫っていれば絶対に反応しない。逆に安全で楽しくやっているなら何かある、と思う。もし危険があって何かを返してくるならライナスの方だ」
「それも一緒に居るかも、だろ?」
「あぁ‼証拠は無いが居る‼‼」
流れでイバンにセイランが生きていることを伝えると目を丸くした。
ミックは深くため息を吐いた。
「なぁ、それってすっげぇ確率の低い賭けだって分かってるか?そもそも居るかどうかも分からない人間に気がつくかどうかも分からない物を送って、反応が無ければ捨て身で行くんだぞ?」
「あぁ!でもこの方法しか思いつかないんだ‼セイランが安全なら絶対に何か返って来る‼」
彼女はああ見えてマメに連絡は返してくる方だ。
二週間王宮に来ないときだって、返事は期待していなかったのにきちんと毎回感想を添えて返してくれた。
「……カイゼル殿下、陛下の許可なく国を出ることは王子といえど許されない行為です。ただでさえ遠い王位が更に遠のきますよ?」
「構わない!セイランが安全ならそれで良いし、危険なら王位争いなんてしている場合じゃない!」
はっきり切実に伝えると、イバンは信じられないものを見るように俺を凝視してきた。
「ハァ、カイゼルはセイラン様命だからな。セイラン様を守るために王位が欲しいって言っているくらいだし、んなもん天秤にかけるまでもねぇよ」
「天秤にかけるまでもない?……王位と悪女を??……………………私に一つ提案があります」
イバンが消え入りそうな声で言った瞬間に俺は飛びついた。
「その提案採用‼‼」
「内容聞け馬鹿‼」
イバンの話を詳しく聞くと、まず俺がパース帝国騎士団の近くの店にレシピを売るというもの。
国をまたぐのに長い時間を要するのは人の出入りのみ。
とはいえ、突然見知らぬ人間から騎士団にお菓子を渡しても毒と疑われて手を付けられず、最悪存在すら知られずに廃棄される恐れがある。
そのため俺が騎士団近くの店にチーズケーキのレシピを売り、ついでに多少のお小遣いと材料費を添えて新商品の販売促進という名目で騎士団に配ってもらう、というものだった。
もちろん、金額は前金と試作品を配った後に報酬としてもう半分を渡す。
「良い‼……けど俺のレシピなんて買ってくれるかは微妙だな」
「大丈夫じゃねぇ?てか、美味ぇなこれ」
俺がせっせと作ったチーズケーキをミックが次々と口に運んでいく様を見ていると、それが嘘ではないことが分かる。
イバンも一口食べて頷いた。
「先日の昼食のクッキーもそうでしたが、味は問題ないかと」
「私達もそれについては問題無いと思います。試作品として手紙に添えるのでしょう?そのあたりのことはやっておきますのでそろそろ魔法の練習をされては?」
「あぁそうだな。ありがとう、そうするよ」
何も考えずにパース帝国に乗り込むわけにはいかない。
だからこそ、これが最善のはずなのに焦ってしまう。
でも今は行動するしかない。
ポケットに入れていた真珠のカフスボタンを握りしめて俺は祈った。
頼むから、無事でいてくれ。
セイランのためなら何だってするから‼‼‼
一方その頃、パース帝国北東部の小さな村に猿型の魔物の群れが向かっていた。
「逃げろぉぉぉー――――‼‼魔物の群れだ‼‼」
見張りの男が声を張り上げ、教会の鐘をけたたましく鳴らす。
「キャアァァァァアアアア‼‼‼」
「逃げろ‼‼家族を守るんだ‼‼」
「無理だ、こんなの……勝てっこない」
阿鼻叫喚。
その文字に相応しく、ある者は悲鳴を上げ、ある者は逃げ惑い、ある者は戦いを選ぶ。
「ママァ‼‼ママー!どこー⁉」
そんな中、一人の少女が逃げ遅れ魔物に目をつけられた。
「ママー――‼‼‼」
「シェリー‼‼‼‼逃げてぇぇえ‼‼」
母親を見つけ喜ぶ子供、魔物から必死で子供を守ろうと、自身の魔法で薄い水の膜を張る母親。
親子二人に向けて猿型の魔物が鋭い爪を振りかぶったその瞬間‼‼
白い何かが両者の間に割って入り、音も無く魔物の腕を斬り落とし、続けて胴を一直線に斬った。
「ゼェ‼ハァ!……ちょっと‼来るのが早すぎるのではなくって⁉わたくしでなかったらこの親子死んでいたわ‼‼」
親子が目にした白い何か。
それは純白の団服を身にまとい、髪も肌も白く、ただ瞳と鞘についている王家の紋章だけが黄金に輝くパース帝国唯一の女騎士。
「純白の……悪女様」
子供が告げると大人達も気がつく。
「そうだ……悪女様だ‼純白の悪女様が来てくれたぞ――――‼‼‼」
「あぁ、ありがとうございます‼‼何とお礼を言っていいか‼‼」
「あーもう!調子狂うわ‼さっさと行きなさいな‼悪女の命令でしてよ⁉」
「はい‼悪女様‼‼」
純白の悪女ことセイランは頭を抱えた。
蔑み、敵意を向けられることはあっても畏敬の眼差しで見られることなんて無い。
「もう何とでも呼びなさいな……」
何度もセイランにお礼を言いながら逃げていく親子を見送り、セイランは魔物の群れに向き直る。
魔物は一瞬で仲間を斬ったセイランを警戒して、徐々に周囲を取り囲んで行く。
セイランは細く長く、高揚した自分を落ち着かせるように息を吐き、特注品の剣を構え直した。
「さぁ‼魔物達‼‼この傲慢悪女、セイランが相手をしてあげるわ‼‼いくらでもかかってらっしゃいな‼‼」
元ポンコツ王子、カイゼルが身をすり減らさんばかりに心配する中、当の悪女セイランは憧れの騎士道を邁進していた。
面白い!続きが気になる!と思っていただけたらやる気につながるためブックマークや評価をお願いします‼<(_ _)>
既にしていただいた方、ありがとうございます‼
次回からセイランのターンが始まります!
二人が出会うまで交互+偶に別の人を入れる感じです。




